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92歳 三石巌のどうぞお先に 42
三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)
NK細胞をつくる方法
合目的に『フィードバック』
がんの問題にまでビタミンがからんでくると、メガビタミン主義者は、わが意をえたりと気をよくする。前回は、細胞の突然変異をビタミンAがもとにもどすって話がでた。
いつか、インターフェロンやキトサンはNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するって話があったろう。ビタミンはNK細胞にもかかわっているんだ。
このあたりのことはすこし、大ぶろしきをひろげざるをえなくなる。がまんがたいせつになったぞ。
こんどはNK細胞をふやす方法じゃなくて、こしらえる方法だ。といっても人の手でできるものじゃない。骨髄につくらせるわけなんだがね。
体ってものが、いつも合目的的に動くものだってことは、さんざん書いてきたつもりだ。NK細胞にしたって、用もないのに、やみくもにつくられるはずはないだろう。がん細胞やウイルス感染細胞があったら、それをやっつけるのが目的でつくられるにちがいあるまい。酸素のうすい高地にうつり住んだら、赤血球がふえるってことを考えたらわかるだろう。
こんなふうに、必要に応じて事がおきるのを、『フィードバック』とよぶことになっている。冷蔵庫がいいサンプルだ。温度があがれば、スイッチがちゃんとはいる。フィードバックってことばは、もともと電気工学用語なんだよ。『冷蔵庫は、フィードバックシステムによって合目的になっている』っていわれたら、ピンとくるかな。
われわれの体も、フィードバックシステムのおかげで、合目的なものになっているってことだよ。これには、ちょっと感心してみてもいいんじゃないかな。
人体がどんなからくりでフィードバックができようになっているか。この問題をといたのは、モノーとジャコブのフランスの頭脳だった。一九六一年のことだから、ふるい話じゃないんだな。
われわれの体の運営がDNAによって完全ににぎられているってことが、ふたりによって示された。
生命のナゾだと昔はよくいったもんだ。生命は物理や化学の法則をこえた、べつの法則によってうごくと考える学者が、いないではなかった。二十世紀の科学者は、そのナゾをといて、これまでの科学の法則がぴったり、あてはまることを教えてくれたってことさ。
これで、いままでの生物学はほうむられちゃった。分子生物学の誕生ってことだ。栄養学も分子生物学ぬきじゃ、学問にゃならんよ。
三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。