92歳 三石巌のどうぞお先に 12
三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)
ビタミンのカスケード
それぞれの段に吸収のための穴
このごろはカタカナ言葉がおおくなった、なんて腹をたてるひとがいる。ボクはそんなことにはおかまいなしに先週、『カスケード』なんてやった。『段々滝』のほうがよかったらそれでもかまうことはない。ちゃんぽんでいくか。
ま、とにかく頭のなかにビタミンCがながれている。空想の世界のはなしだよ。
そのビタミンCは、水のように上から下へとながれている。それが階段のようなところをながれおちている。この段々滝は英語でいえばカスケードだ。カスケードって看板をかけたビアホールをみたことがあるけれど、これは階段というよりハシゴのいみだろう。
これは余談だ。
ビタミンのカスケードでは、ひとつひとつの段々に穴があいている。上からなだれてきたビタミンはその穴にすいこまれる。よぶんがあればつぎの段までながれおちて、そこでまた穴にすいこまれる。そこでまだよぶんがあればつぎの段までながれていってすいこまれる。そしてきまった仕事をするんだな。
わかりきったことをいうなって。ごもっとも、ごもっとも。ボクは、ビタミンCがたっぷりあれば、段々に穴があっても、大雨のときのように、滝はいちばん下の段までながれおちるってことをいいたいだけなんだ。
そんなことはわかっているっていうならボクは安心だ。いわんとするところが理解されたとおもうからだ。
キミも知ってのとおり、この穴はビタミンをすてるためじゃない。仕事をさせるためだった。
ボクのばあい第一段はカゼをふせぐ仕事、第二段は白内障をふせぐ仕事だ。ビタミンCのとりかたがたりないとしても、いちばん上の段にはいくらかながれてくる。それが穴におちてカゼをふせぐ仕事をするだろう。それなら、ボクはやたらにカゼをひかないですむわけだろう。まがりなりにでも、だよ。
ボクが家内ほどカゼにやられなかったわけが説明できるんじゃないかな。
ぼくのばあい、ビタミンCの滝は第二段までおちてくるだけのよゆうがなかった。それで白内障にやられたってわけさ。家内のばあいがこの逆だった。
ビタミンCの仕事はこのふたつだけじゃない。だから、ここで第一段といったのは上のほうの段のいみ、第二段といったのは下のほうの段のいみにすぎない。
三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。
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