能「呂后」梗概
漢高祖第一の后であった呂后(ツレ)は病篤く、医療の手を尽くしても快方に向かう様子がない。群臣も案じるところへ、ある夜にわかに肉塊の形をした怪しのもの(アイ狂言)が現れる。下官(同前)が斬りつけると、切ったところに口が現れ、韓信・彭越の亡魂と名乗り、大功がありながら呂后の讒言で死に追いやられた恨みを述べ、必ずいのちを取ろうと呼ばわり消える。大臣(ワキ)がこれを文帝(シテ)に伝えると、帝は驚きながらも、いかなる魔縁も王位を犯すことは叶うまいと呂后を力づける。呂后が、かかる怪異が起こるのもこれまでの罪ゆえかと慨嘆するうち、たちまち一天かき曇り、黒雲の中に大魚に乗った大船が現れ、その船に韓信・彭越と、かつて高祖の寵愛を受けたため呂后と敵対して惨殺された戚夫人の怨霊(ともにツレ)が乗っており、口々に呂后への恨みを叫びつつ襲いかかる。帝が剣を抜いて斬り払うと、怨霊は王位に恐れて、こののちは来るまいと言い残して消え去り、夜は明けてゆく。