能「萩」梗概
都から旅に出た僧(ワキ)が、初めて陸奥を訪れ、萩の名所として名高い宮城野に差しかかると、一美女(シテ)が声をかけ、秋の景色の美しさを語り、都の人ならばここで心を慰めたまえという。僧が名を尋ねると、女は自分が花であることをほのめかしつつ姿を消す(中入り)。
散歩に出た土地の男(アイ狂言)が僧を見つけて声をかけ、僧に頼まれて、「ある都の男が妻を伴って陸奥へ下る途中、宮城野に差しかかったところで、末の松山を指して『あの山を波が越えても心は変わらぬ』と言ったが、のち心変わりして妻を離別した。そこで彼女は都に登ったが、宮城野まできて、松山を恨めしげに眺めつつ死んだ」という昔話をする。僧が先の女のことを話すと、男は、それは物語の女の執心が残っていたのであろう、経を読誦するようにと勧めて去る。
僧は、さてはその女が小萩の精となって言葉を交わしたかと読経していると、小萩の精(後シテ)が艶やかな姿で現れ、はるばると来た僧の慰みに舞を舞い、夜明けとともに消えていく。