能「文覚」梗概
北条四郎時政は、頼朝の命を受けて京に上り、平家の残党を探索していたが、三位中将維盛の遺児六代御前が嵯峨の大覚寺に潜んでいたことを知ってこれを捕らえ、いよいよ処刑を待つばかりとなる(ここまで開幕前)。六代の乳母(ツレ)は高雄の文覚上人(シテ)を訪ね、涙ながらに助力を乞う。文覚は承諾し、時政(ワキ)の宿舎を訪れる。六代(子方)の姿を見て心を痛めた文覚は、時政に「鎌倉の頼朝から六代助命の御教書を受け取ってくるまで20日間待ってほしい」という。時政が難色を示すと、文覚は「かつて蛭が小島に流されながら、頼朝のためにいのちがけで島を抜けて都に上り、平家追討の院宣を受け取ってきた功を思えば、頼朝が承知せぬはずがない。もし20日の間に六代のいのちを断ったらただではおかぬ」と言い放ち立ち去る。
やがて20日経っても文覚は帰らないので、時政はこれ以上引き延ばすわけにいかぬと、六代を護送して鎌倉に戻る途中、駿河の千本松原で六代を処刑せんとする。覚悟を決めた六代は残された母の悲しみを思い、供の斎藤五・斎藤六兄弟(ワキツレ)にことづけを頼む。この様子を見て太刀取りの工藤三(同前)も手を下しかねて太刀を落とし泣き伏してしまう。そこへ文覚が馬を飛ばして駆けつけ、頼朝直筆の、六代助命の御教書を渡す。一同安堵し、文覚は六代とともに都へ向かい、時政は鎌倉に帰っていく。