SS:雪の日のmission
朝、瞼を閉じていてもわかるくらいの明るさに、意識が少しずつ微睡みの中から現実へと覚醒していく。
何か夢を見ていたような、いや、見ていなかったかな……と、ぼんやり考えながら、カーテンが閉まっている窓の方へと視線を向ける。
なんとなく違和感を覚え、まだ布団をかぶってダラダラと過ごしたい気持ちをなんとか振り払い、恐る恐るカーテンの隙間から窓の外を覗く。
とうとうきたか。ご近所の家の屋根や車の上、道路……一面真っ白に覆われている。
どこを見ても雪、ユキ、ゆき。
10月くらいからタイヤ交換等の冬支度を始め、11月にもなれば冷たい雨が雪へと変わっていく。これから約半年に及ぶ、冬の始まり。
最初のうちは、雪が降っても次の日や数日も経てば溶けてしまうが、最高気温が低くなっていくにつれ、いつ根雪になるんだろうとソワソワしてくる。
そしてとうとう、その日が来た。
子供の頃は、雪が降れば大はしゃぎで、姉や友達と遊んでいた。
スキーウェアを着て、ソリを持って雪の山へ登り、一気に滑り降りる。上手く止まれなくて、途中でひっくり返って雪まみれになっても大笑いしていた。
他にも、定番の雪だるまや雪合戦もやっていたし、学校では雪像やかまくらを作ったこともあった。スキーやスケート、ブルームボールなどのウィンタースポーツもやっていた。
だからといって、大人になった今でも好きというわけではない。十代後半くらいからだろうか。綺麗だな、とは思うけれども、面倒だな、という気持ちの方が勝ってしまう。
“雪かき”という作業が待っているのだ。
今日が休みで良かった。そう思いながら身支度をし、しっかり朝食を食べ、この後の予定を考える。幸いにも、誰かと会う約束などはなかった(いつものことだが)。
食料と日用品の買い物に行って、家事を片付けて、あとは読書。こんなところか。
買い物には車を使うので、雪かきを早く終わらせなければ。
私が住んでいるアパートで、自身が除雪しなければならないのは駐車スペース+αくらいなので、だいたい一時間くらいかかるだろうか。
mission1:道路への道を確保せよ
だいぶ積もったな……長靴が埋まりそうだ。防寒着に身を包み、雪かきスコップを片手にいざ出陣!
まず始めに玄関から道路まで行けるようにしなければ。そうしないと、ゴミを投げる(捨てる)場所までいくのが大変なのである。
黙々と、一直線に。ザクッ、ドサッ。ザクッ、ドサッ……
ベタ雪ほどではないが、少し湿り気があって重たい。これはちょっと、運動不足の体にはマズイ。筋肉痛確定だ。
雪かきを始めてまだそんなに経たないうちから憂鬱な気分になりながらも、なんとか除雪車の通った道路までの一本道ができた。
まぁ、十数歩分くらいの距離なので、まだ体力には余裕がある。問題はここからだ。
mission2:車の周りを除雪せよ
次は車か……エンジンをかけて窓の霜も溶かさないと。
とりあえず車まで除雪しながら道を作り、スコップから車の中に置いていた車用スノーブラシへ持ち替える。エンジンをかけ、車を一回りして落とせる雪を落としていく。
時折吹く風が、顔に雪と共にあたって冷たい。
さて、ここからまたスコップに持ち替えて雪かき再開だ。
ここで問題なのは、私の車の駐車スペースと、除雪した雪を溜めておく場所が車一台分ほど離れていることだ。要するに、私の車の隣には別の人の車があるので、そこを避けて雪を運ばなければならない。
隣の車にぶつからないよう、細心の注意を払いながら、雪を運ぶ。
ザクッ、そろ~りそろ~り、ギュッ、ギュッ、ギュッ、よいしょ~、ドサッ……×n回。
車と雪捨て場を何度か往き来して、一息つく。車の中が暖まり、窓の霜も溶け、これでいつでも買い物に行けそうだ。残るは……
mission3:車から道路までの雪を除雪せよ
なんとか終わりが見えてきた。体力は半分近く消費したがあと少し、頑張ろう。
車から道路までは、数歩分くらいの距離だ。だいたい車の三分の一程度のスペース。
絶対に雪かきをしないといけない、というわけではないが、しておかないと後々面倒なことになるので一応、念の為、する。
面倒なこととは、タイヤが雪にとられて前に進めない、出られたとしても、戻った時に後ろに進めない等々、である。
ここでも雪捨て場まで雪を運ばないといけないが、隣には何もない分、気は楽だ。
ザクッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、よいしょ~っ、ドサッ……×n回。
あと10往復分くらいかな…… 3 …… 2 ……1……よし、雪かき、終了~~~!
mission complete!
顔も手も足のつま先も冷たくて、腕も筋肉痛にすぐなるんじゃないかっていうくらい怠くて。それでも体は汗をかくくらい温かく、心地よい達成感で満たされている。
時計を見れば、予想通り、雪かきを始めてからちょうど一時間くらい経っていた。
部屋でコーヒーを一杯飲んで、一休みしてから買い物に行こう。
帰ったら、家事を片付けて、昼食は簡単にして、楽しみにしていたあの本を読もう。
そうして一日が終わり、また雪が降る。ちょっとした絶望を感じながらも、同じ作業を繰り返す。
仕事の日なら帰宅してから、休日であっても、天気が悪ければ一日のうちに数回に分けてすることもある。
まるで賽の河原だ。
早く冬が終わりますように……と思いつつ、それなりに楽しんで過ごしてしまうのは、慣れと言ってしまえばそうなのだが。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくのだから、この長い冬も楽しい時間を作れば早く終わるだろう。
だからこそ、お気に入りの本に、甘いデザート等々……自分へのご褒美は必要不可欠だ。
それらを用意することこそ、最大のmissionかもしれない。