3匹の旅立ち
私の自宅には沢山のぬいぐるみがある。
その多くのぬいぐるみは、先日亡くなった母の自室や応接間に飾られている。
母への来客があると、母がぬいぐるみが好きだと呆れ(?)られるが、
ほぼ買ってくるのは私です。
旅行先やネットで可愛いぬいぐるみがあると、ついつい買ってしまい、モノを捨てられないので100匹以上に増えた。
そのぬいぐるみ達はどんどん侵食して、母の自室や、応接間に居座ってしまいます。
母も最初は困っていただろうけど、一緒に旅行に行ったり、個人で友人やツアー旅行に行っても、必ずお土産にぬいぐるみを買ってきてくれるようになりました。このぬいぐるみ達は、通称『ナカマ(仲間たちの意味)』と言います。
旅行するたびに増えていくナカマ達も、コロナと同時に悪化した母の病気でほぼ増えていくのをやめました。それでもナカマ達は母を間近で見守り、母もナカマ達が大好きになっていきます。あれから数年。
一か月前、母の病気が悪化して、緊急入院になります。その時は緊急なので何も持っていけなかったけれど、その後に母のお気に入りのナカマを3匹セレクトして、病室に見守りに行かせました。
「一緒に戻って来いよ」
ぬいぐるみ達に言い聞かせて、みんなは最後まで母を見守ってくれました。
一緒に戻ってくる約束は果たせなかったけど。
3匹のナカマ達を選ぶのは難問でした。奇跡を信じていても、医者からは、ほぼ絶望的と言われていました。もし何かあれば、考えたくないけど、母と一緒に旅立っていくメンバーを選ぶのです。
母が大好きだった『ナカマ』を選びたい。でも、その子たちには沢山の思い出がある。自分にとっても複雑です。誰もいなくなった時間、沢山の母との思い出が詰まった仲間たちに残っていてほしい気持ちもあります。悩んだ挙句、母の所に行くナカマ達が決まりました。
ヒヨコのピヨちゃん 有名な日清だかのキャラです。横浜のカップヌードルミュージアムで買いました。有名なので正式な名前はあると思いますが、私の中ではずっと母が選んだピヨちゃんです。仏頂面で横目で睨んでいるので、可愛くないと思う人は思うかもしれませんが、母は大好きでした。
うさぎのミーちゃん どこで買ったか忘れました。かなり古いし、母が命名したキャラでした。もしかしたら母のお土産だったかもしれない。二人で一緒に旅行するときは必ず数体のナカマが同行しますが、ミーちゃんはかなりの頻度で一緒に旅していた気がします。
くま太郎 言うまでもなく熊です。平成17年3月以来の長い付き合い。母の誕生日が3月で、当時、誕生月の飛行機代、バースデー割引があったので、母が見たがっていた鶴を観に休みを取って数日の北海道に行きました。
釧路空港から鶴居村、釧路、根室と回ります。その中で主役の鶴を見る鶴センターに行った中の売店で山積みになっていたクマが『くま太郎』でした。(鶴ではない)
くま太郎は、母のお気に入りでした。当時得意だった裁縫でくま太郎のショルダー付きのズボンを作り、最後の瞬間まで彼はこのズボンをはき続けていました。
くま太郎を命名したのは私で、なぜか母は『くま五郎』と呼んでいました。
くま太郎だよと訂正しても、笑ってくま五郎って。
最終的には『くま太郎』で定着しましたが、母は大好きなくま太郎にわざわざズボンを作って履かせたり、本当にお気に入りだったんでしょう。
他にも母の好きなナカマたちはいたのでしょうが、最後はこの3匹に決定します。闘病する母を守りに3匹が出ていく直前、彼らにとっては最後の大好きな母のいる我が家になりましたが、私は『くま太郎』を母が選びたかった『くま五郎』に改名します。
今日からは、くま五郎。だから一緒にみんなで帰っておいで。
願いは届かず、母は帰らぬ人になりました。くま五郎達、3匹のナカマ達も一緒にいってくれます。みんな有難う。でも母もこれで寂しくないよね。
お棺が消えた瞬間、何もわからなくなったけど、
さよなら。お母さん、みんな。いつか、きっとそこにいくからね。