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雷雲

晩夏の午後の入道雲は特別に美しい。
深い空の色と、白飛びしそうな雲の明るさ。
その鮮やかな陰影は西洋の宗教画のようで、雲は神々の肢体のように隆々としている。
それは、夏がやってきては暮れていくことをその壮大な美しさをもって我々に教えてくれる。そして夕立とともに去っていく。夏が去っていく。

高く伸びる入道雲は夏の象徴、夏の神様とも言うべきだろうか。
我々人間の目には、夏をもたらす神は入道雲の姿で映るのだろう。間違いない。

それから入道雲の姿と同時に好きなのが、夕立の雷雨だ。出先で突然降られて困ることはあっても、大粒の雨と雷の音は心地良い。
雷鳴の重低音はいやでも胸に響く。それは打上花火の音にも似ていて、大きい音の振動で胸腔の空間が満ちる感覚が、どうしても心地良い。
バスドラムやアンプを通したベースの音にも似ているのかもしれないと思う。やはり虚な胸を埋めてくれる音は好きだ。

薄暗さと忙しい雨音、かび臭い道路の匂い、心臓を打つ轟き、ぬるい風、そして雨上がりの寂しそうな陽光。茅蜩。
夕立の一過で、心がざわざわするほどに生々しく夏を感じる。この心のざわめきが、口を持たない夏の神の「言葉」なのかもしれないと思うなどする。同時に、こんなこと考えてるの自分だけだろうな。とも思う。

そして夏の神は僕らに心のざわめきを残してさらりと去っていく。
また明日、で日が暮れて、夏は姿を消す。
涼しい風が吹いて、蟋蟀が鳴いていて、少し心細くなる。明日も夜が明ければ酷暑だろうか。


また明日。

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