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【短編小説】消える点

どうも〜。
たかりなチャンネルのたかひろです。
あれ?
みんな見えてるかな。
あ、見えてる見えてる。
コメントありがとう。
ごめんね~。あんまり生配信とかやんないから慣れてなくて。

あ、登録者120万人ありがとうございます!
皆さんのおかげでこのチャンネルもここまで成長して、いや、嬉しいです。あ、りなは今日いないです。僕独りです。

突然すみませんね、こんな夜中に。
もうすぐ深夜2時ですね。
今は僕もよく知らない土地にいます。
人気も無くてね。明かりも無いです。真っ暗。
いや、なんでこんなところにいるかというと、人と待ち合わせしてるんですよ。
それが誰かは後々話しますね。

まだ来るまで時間がかかりそうなので、ちょっと雑談しましょうか。

こないだ僕ね、りなと一緒に遊園地行ったんですよ。2週間くらい前に。
もう完全プライベート。
カメラとかも持っていかずに、手ぶらで行ってきました。
そこで色んなアトラクション乗ったりとかして、それはまあ楽しかった。
ジェットコースターも何回乗ったか分からないし、お化け屋敷も色んなルート試してみたりとかもしました。
それで一通り楽しんだ後に、観覧車に乗ることになったんですよ。
でも僕実は観覧車が苦手なんです。
あ、別に高所恐怖症とかではないですよ。
さっきも言いましたけど、ジェットコースターとかそういう絶叫系は乗れますから。観覧車が苦手なんです。
でも、りながどうしても乗りたいって言うから、仕方なく一緒に乗ったんですよ。
観覧車に乗ったら、ゴンドラがどんどん上に上がって、さっき扉を開けてくれたキャストのお姉さんはみるみるうちに小さくなっていく。
どんどんどんどん小さくなっていって、やがて点になる。
そんな感じで、遊園地にいる人々が無数の点になって、うじゃうじゃ動いているように見えるんですよ。
何て言うんですかね。この、命が軽くなっていく感じというか。
それが苦手で。
だって、その点が一つ消えたとしても、観覧車に乗っている僕達は何食わぬ顔でいられるわけですよ。怖くないですか?
あるいは、ですよ。
その点のどれかが、僕たちに殺意を向けていたとしても、僕は気付けないでしょう?
点は点ですから。
観覧車に乗るとそういう変な強迫観念が芽生えてしまう。
自分も他人も怖くなるんです。
それでも、りなは「綺麗だねー」って無邪気に景色を楽しんでいました。
僕にはりなが必要なんです。
ずっと近くにいてくれるから。
りなを点にしたくないんです。

あと、飛行機に乗った時にも同じ強迫観念に駆られることがあります。
離陸する時、窓の外を見ると街がミニチュアみたいに小さくなっていく。家やビルが抽象化されていくというか、意味を持たない記号に見えてくる。
動画でも何度か言ってますけど、僕はDIYが趣味で、りなと住んでいる今の家も僕がリメイクしたものなんですよね。大切な家です。
でも、僕の家も飛行機から見れば、ただの「四角い何か」なわけです。それが僕の家である必要は無い。
飛行機の中の乗客から見れば、僕はただの点ですし。

観覧車の話に戻しましょうか。
頂点を過ぎると、僕達が乗っていたゴンドラは徐々に地面に迫っていきます。すると、今まで点に見えていた人々の形が、今度ははっきり捉えられるようになってくる。
やっと男だとか女だとか、背が高いとか低いとか、そういう特徴が分かるようになってくる。あるいは怒ってそうとか、嬉しそうとか、点が人になって表情を持ち始める。それはそれで怖いんですよ。
その表情の裏に潜む真の感情は、僕達が点である時に牙をむいていたかもしれない。さっきまで僕に銃口を向けていたかもしれない人が、素知らぬ顔でこちらに近づいてくるのが怖いんです。
だってそういうこともあるでしょう?
いや、ありますよ。

皆さんご存じの通り、1カ月前にりなのインスタが炎上しました。
うちで飼っているチワワのケンタ君がね、インスタライブをしているりなにちょっかいを出してしまって。その時のしつけが「動物虐待だ!」って炎上してしまったんですよね。
実は前にもそういうことはあったんですけど、その時はちょっと大袈裟にリアクションしてみたらしいんですよ。
「ちょっと何やってんの~」とか言って笑ってみたり、「ケンくんで~す」ってカメラに見せたり。そしたら、視聴者の反応が良くって、再生数も伸びていきました。やっぱ動物って凄いですよね。
でも、それによってケンタ君の行動がエスカレートしてしまったんですよ。きっと、このタイミングでいたずらしたらご主人が喜んでくれるって勘違いしてしまったんだと思います。
スマホをスタンドごと蹴飛ばしたりとか、壁紙を引っ掻いたりとかするようになっちゃって、僕との間で、さすがにちゃんとしつけをしないとなって話になったんです。次のインスタライブの時に同じようなことが起きたら、しっかり注意をしようって。
案の定、インスタライブ中にケンタ君は部屋中を暴れ回りました。それで、りなはついに堪忍袋の緒が切れて、強めに怒鳴ったんですよ。
「やめろって!!」って。
それでも止めようとしないから、首元を掴んで部屋から閉め出しました。
ライブ中は、そこまで荒れなかったんですけど、その後に作られた切り抜き動画が炎上しました。怒鳴っているところと、首元を掴んでいるところだけ綺麗に切り抜かれていました。

それで、ありとあらゆる悪口が僕達に送られてきて。でも、りなは神経質だから、一つ一つに過剰に反応してしまったんですよ。
だから僕はブラックリストを作りました。
こいつはこういうコメントをしたっていうのを詳細に書き記して、その中でも度が過ぎたものがあれば法的措置をとろうって。
そういう話になったんですね。
正直やりすぎなくらいやりましたよ。
知り合いにそういうのが得意な奴がいたんで、アカウントの個人情報を特定してもらって、それをブラックリストに書き込んで。
ここ1ヶ月感はそういう作業の繰り返しですよ。

もう一度、遊園地に行った時の話に戻します。
話が二転三転してしまって申し訳ないです。
僕達が乗った観覧車が一回転して、ゴンドラを降りた後、もうそろそろ帰ろうかと、入退場ゲートの方へと向かったんですよ。
そしたら、道中でファンの女性に声を掛けられたんですよ。

「ずっとファンでした!100万人おめでとうございます!」

みたいなことを言っていたと思います。
りなは女性のもとに駆け寄って、素直に感謝を述べていました。
でも僕にはバレバレなんですよ。
その女性はまさに、僕が作ったリストの内の一人でした。僕は全員の顔を把握しているわけではありませんが、その女は自分の顔を晒しているアカウントで中傷してきたので、かなり印象に残っていましたよ。一目瞭然でした。
確か、「動物を虐待する姿を見て、失望した。この女の顔を見る度に吐き気を催すようになった。だから早くYoutube辞めて欲しい」的なことを長々、延々と書いてDMに送って来たんですね。もっと汚い言葉で。
それが実際に会えば、鮮やかに手のひら返し。ビュー稼ぎのために写真を撮らされて、挙句の果てにはサインもねだってきましたよ。
あ、りなはブラックリストの存在を知っていますが、中身までは関わってないです。だから、声を掛けられて、嬉しそうにしてましたよ。
相手が、自分を見ると吐き気を催してしまうような人とは知らずに。

なんでしょう。
どうせ相手はいずれ忘れるだろうと思いながら、誹謗中傷を送って来たんでしょうかね。じゃないと呑気に話しかけに来ないですよね。
まあ正直僕は、忘れてしまうタイプなんですけど。なにせ登録者が120万人もいますから。色んな人がいるんだなあ、で済ましちゃいます。
さっきの観覧車の話に絡めるとね、僕にとってファンの人とか、ネット上でとやかく言ってくる人は点にしか見えない。もしくは数字。
薄情だと思いますか?
いやいや、でも皆さんだって同じようなこと思ってるでしょ。じゃなきゃ、そんな簡単に憎悪向けられないでしょ。他人に。

つまり僕が何を言いたいのかというとね。
あ、来ました。
ほら、待ち合わせしてた人がね、来てくれましたよ。

江崎君?
なに、俺のこと殺しに来たの?

―――ドゴッ!


ッてぇな!

っ!
クソ、〇ね!〇ね!〇ね!

ドゴ、ドッ、ドッ

ハァ……
〇ね!〇ねー!

ドカッ、ドチャ、グチャ

はぁ、いや、今日革靴ですから、殺傷能力高いですよ。ハハハ。

ドゴッ

―――こいつ、結構デカいナイフ持ってました。首んとこ切られた。
ああ、痛い。

いや、ごめんなさい。説明がまだでしたね。
実はりなが炎上する前から、誹謗中傷に関するいざこざはよくあったんですよ。
で、こいつが何をしたかというと、殺害予告。あと、りなのストーカーでもありました。
2年前くらいから、りなのSNSに執拗に嫌がらせをしてきて、それを無視し続けたら、どんどん行為がエスカレートしていきました。
でも僕はしっかり開示請求をして、法的措置とって、冷静に対処しました。それが逆に火に油を注ぐことになっちゃいまして。
多分、もっと僕達が狼狽える姿を見たかったんでしょうね。
ほとぼりが冷めたと思った途端に、またりなへの攻撃が始まったんです。
だから僕も、我慢できなくなってね。
上等だよってことで。
じゃあ深夜2時にここで待ってるから、来てみろって。りなに会わしてやるから殺してみろって。
まあ結果がこのザマなんですけど。

ああ、もうぐっちゃぐちゃですよ!顔の原型を留めてない。
警察は皆さんが適当に通報しといてください。この場の環境音とかで、何となく推測が付くでしょう。特定とか、皆さんの得意とするところでしょ?

はぁ、こいつも一応、もともとは僕達のファンだったみたいですよ。
やっぱり僕は、薄情なのかもしれませんね。
ファンを殺したのに、罪悪感をあまり感じていない。
まあたった一人ですから。たった一人。
僕は依然として、登録者120万人越えのYouTuberです。

りなはきっと怒るでしょうね。
彼女は優しい性格ですから。
人が点や数字に見えることは無いんです。
だから向けられた憎悪に対しても過敏に反応してしまう。

……ほら、りな。こいつの顔をその目にしっかりと焼き付けるんだ。

見えるかい?

あ、もう来たんだ。早いなぁ。
お巡りさんが来ました。

ああ、まだ足に感触が残っています。
命って重いですね。

江崎君、ちょっとナイフ借りるね。

〇ねーーーーー!!!!!


パン!パン!パン!―――ドサッ、ゴロゴロ。

~完~


※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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