風の診療所『調』"代償と引き換えの俺の人生"

 

 北海道大学医学部の受験に合格した僕はいつもの通い道を歩きながら踊り出したくなるような気持ちでステップを踏んでいた。NPO法人C・C・C富良野自然塾の事業を引き継ぎ、診療所として発展させて、1000年後の地球にまで届くような、癒しの共鳴を起こすこと。その第一歩がこれで踏み出すことができるという訳だ。

 遠い未来にこれをすると決定してそこから逆算して人生を考えてみること。それが例えば1000年後の未来だとしたらどうだろうか。僕は僕の人生をあまりにも限定的に捉えてしまっていたのかもしれない。1000年後の未来を基準に考えれば、もっと別の選択肢が出てくる筈だ。もっと大胆な発想が生まれてくるはずだ。そんなビジョンの大きさに僕は心打たれて、NPO法人C・C・C富良野自然塾で働きたいと思ったはずなんだ。

 1000年後の未来に届きますように。何をすることが1000年後の未来に届く様なことになるのかは分からなくけれど。でも、いつもそんな基準を持って一つ一つの選択をすることが出来たのなら、きっと今まで自分が手放すことの出来なかったことも、手放していけるのではないかと思う。

 NPO法人C・C・C富良野自然塾での活動に一生懸命になれば良いじゃないか。それが1000年後の未来に繋がることじゃないか。それは確かなことで、そこを疎かにすることはもちろんできない。その一方で、医師免許を取得するということにどうしても心が向かっていくのは、あの日整体師であり、理学療法士でもある彼と出会って、医師免許取得の道を見せてもらった時の感動が忘れられないからだ。鳥肌が立ったんだ。鳥肌は嘘をつかないのか。それは分からないけど、どうしても選んでみたい選択肢になったんだ。

 1000年後の未来に届く様に、1000年後のあなたにも聴こえるように、今からどんな選択をしていくことが出来るのだろうか。1000年後の未来に届く様に、1000年後のあなたにも聴こえるように、今からどんな人生を生きることが出来るのだろうか。

 この地球に貢献したい。この命に貢献したい。燃やし尽くしていきたい。何もかも忘れて空っぽになるまで歌を歌いたい。僕は今未来に向けて歌唄いのバラッドを歌う。誰が聴くのかな。誰が歌うのかな。誰が笑うのかな。誰が泣くのかな。誰が覚えるのかな。誰が忘れるのかな。

 書いても書いても書いても書いても何が生まれるわけでもなく、何を得る訳でもなく、それでも繋がっていく記憶があり、僕はその連鎖の中に少しでも身を委ねたくて、時の流れの中に身を置いていたくて、こうして文章を書いているのかもしれない。つまるところ受験勉強だって僕にとってはそんなところだし、どこにいても誰と話していても、何をしてたとしても、つまるところはこの時の流れの中に身を置きたいというたった一つの衝動、願い、欲求があるだけなのかもしれない。悠久なる時の流れ。もうひとつの時間。人生の生まれ持った川の流れ。

 星野道夫さんの、"旅をする木"という本が無性に読みたくなってきた。LSDキャンプに再入会したい気持ちが湧き上がってきた。でもそれはきっと手に入れる必要はもうないんだ。だって今この瞬間この場所にそれはあるのだから。それぞれがその場所へのアクセスする鍵にすぎない。その鍵を今僕は手にしているし、だからこそ後はその鍵を使ってドアを開けて、その扉の向こうに自ら飛び込んでいくだけなのだ。北海道に行くのが楽しみだ。僕は今ギターを取り出し、ありふれた日常に散りばめられた奇跡を歌う。

 もう馴れ合いの毎日にはうんざりしてきたところなんだ。もう誤魔化し合うだけの毎日にはうんざりしてきたとこなんだ。これ以上我慢することが出来ないんだ。日常の闇を超えて、本物の闇に触れたいんだ。それが僕の求めてきたことなんだ。それが僕の歌いたい歌そのものなんだ。

 波に揺られてキューバの海で一人空を眺めていた。あの時の僕には何もなかった。今さら何を手に入れたというのだろう。道の途中でうんこを漏らした。ジョンレノンを目指して公園まで歩いてきたのに、結局ジョンレノンにはお目にかかれず、僕は漏らしたうんこを抱えながら、隠しながら、20分ほど歩いて正面に見えていた海を目指してひたすらに歩いた。歩いて歩いて歩いて歩いた。あんなに長く感じた道のりもそんなにはないかもしれない。そして僕は海にたどり着き、全てを海に還して心と一緒に丸ごと洗った。

 洗脳という感じは面白い。脳を洗うと書いて洗脳だ。僕は今騙されているのか、洗脳されているのか。そんなことはどうでも良いのかもしれない。そんなことは忘れて仕舞えば良いのかもしれない。ただ気になってしまったんだ。ただ、君のことが、ほんのちょっと気になってしまったんだ。

 もっと声を聴かせておくれよ。もっと笑わせておくれよ。もっと涙を見せておくれよ。1000年後にもう一度会えるならば、僕はここで笑ってあの時の様に、ギターを弾きながら二人どこまでも続くこの道の上で抱き合ってキスをしたいな。いつまでも踊り続けて、最後の最後にあの日の夜の様に、車の中で隠れてひとつになろう。

 僕ら幸せの絶頂にいたんだ。オーストラリアの端の街で、出会うはずのなかった二人は出会い、ひとつになった。なんていう奇跡なんだろう。そんなことってあるんだろうか。実際にあったんだ。そんな奇跡が。出会うはずのなかった二つの人生が重なる瞬間が。世界は奇跡で散りばめられている。そしてそれを起こすのは自分自身なんだ。僕らはあの日あの場所で、何知らずにお互いの全てを曝け出した。あまりにも無防備すぎた。その無防備さが、どうしようもなく美しかったんだ。

 何度も諦めかけて、何度もやめようと思って、それでもこうして今ここに生きてること自体がとんでもないことだったんだ。ひとつだけ言える確かなことがある。どんなに無防備になって無茶苦茶な選択をしてきたとしても、死ぬことはない、というこだ。実際には死ぬ確率もなかった訳ではないのかもしれない。でもそれはどんな生き方をしたところで避けて通ることのできない確率なんじゃないだろうか。だから、死ぬこと以外はかすり傷なんだ。僕は今僕の心踊る方へと素直にそのステップを踏んでいけば良いのだ。

 1000年先に繋がるような今日を生きよう。例え明日世界が滅びたとしても、1000年先にまで繋がるような今日を生きよう。昨年の年明け、僕は友人のといろに会いに大阪に行ったのを思い出す。あの時の方僕は瀕死の状態だった。織座農園に縋り付くことでなんとか生存を保ち、ギリギリの精神状態のところで、今にも生の向こう側に身を投げ出してしまいそうになっていたんだ。そんな時に僕はといろに会いに行った。彼が僕を引き寄せたんだ。彼の持つ森羅万象への在り方に触れたくなった。悠久なる時の流れの中で、彼の描く絵が、どうしようもなく僕に力を与えてくれる気がしたんだ。

 何億年も昔星になった、忘れてはいけない大切なことが、今この瞬間にこの場所に確かに存在している。それは時の流れであり、リズムであり、音楽そのものなんだ。僕はあの日あの場所であの瞬間に、どうしようもなくそのことを体験したんだ。あの世界を創作していきたい。あの世界の中で音に呼吸したいんだ。

 今の僕がいかに麻痺しているのかということはわかつた。誰もが皆病気なのさ。自分でも気付いていないけれど。名前もない治療法もない。あなただけじゃない。僕は今苦しい。僕は今寂しい。僕は今孤独だ。世界との繋がりを失って、恐怖に苛まれて、がんじがらめの世界の中で、窒息しそうになっているんだ。

 それでもあの日あの時あの瞬間に、オーストラリアのパースの街で、イルカの見せてくれた息吹が僕をどうしようもなく世界の呼吸へと駆り立ててゆく。ここは海で世界は深海の奥にその姿を隠して、今か今かと辿り着くものが現れるのを待っているのだ。僕は行くよ。だって知りたいんだ。世界のありのままの姿を。だって歌いたいんだ。僕のありのままの姿を。だって繋ぎたいんだ。君のありのままの姿を。

 高校の体育祭だって僕は仮想責任者だったけれど、情けないことにリーダーシップを発揮するどころか、ただアイデアを出すだけの人になってしまっていた。それでも皆んながいたからひとつの作品が完成した。一人じゃ出来ないんだ。誰もが誰かの心の太陽なんだ。体育祭の終わった瞬間に眺めた空が、どうしようもなく綺麗で仕方なかった。あの日あの時あの瞬間、僕は、僕たちは、確かに悠久なる時の流れの中に身を寄せて静かに笑っていたんだ。

 例えば織座農園で開催した土音祭が終わった後のこともそうだ。織座の食卓でテーブルを囲んで、みんなで語り合ったあの夜のこと。そこでは全てが許されて、全てを忘れて今という時の中で、それぞれの人生が重なり合いながら、ひとつの交響曲を奏でていた。僕の人生は、第一章、第二章を経て、第三章へと突入しており、彼らの存在が鏡となって僕にそのことを教えてくれていた。永遠が確かにそこにはあったんだ。あらゆる価値観から離れた本当の生きることの証。それはどこにでもあるもので、どこにでも現れるもので、しかし簡単に置き去りにされてしまう、とてつもなく繊細で力強い、生きることの源になる存在なのだ。

 代償と引き換えの俺の人生

代償と引き換えの俺の人生
すっかり無自覚なまま
愛を知らない俺は
それを知らないことすら知らずに反吐を吐く

反抗してきたけどいったい何に?
俺は俺が作り出す幻想と闘っていたんだ
一人芝居のつまらない物語を演じるピエロ
良い気なもんだな自分語りのクズ野郎

何も聞こえなくなるようなところまで行ってみたい
俺は俺のハングリーに今気付き始めてる
いのちをかけるものじゃなくて
いのちを忘れるものを探していたんだ

王道を行く黄土色のサファリルック
中南米あたりの探検家
捕虫網と虫眼鏡とカメラ
探し物があるのではなく
出会うもの全てを待っていた

この感覚を言葉に残しておきたい
そんな執着がきっと俺の陥ってる落とし穴
どんな達人にもわだかまりはあるもんだ
空っぽになりあっていこうぜ
それがきっと愛し合うってことなんじゃないのか

腹減ったよもうご飯食べたいよ
なのにとまらないリリックを綴るこの手が
ああ俺は今扉を叩いているところなんだろう
ここが勝負ここが勝負折れるなよ

褒められなくても馬鹿にされても
走るお前の心があれば良い
褒められなくても馬鹿にされても
走るお前の心があれば良い

突破口が見つからない時がある
でかい壁にぶち当たる時がある
代償と引き換えの俺の人生
あの時手放したものを今再び拾い上げる

空間の中に潜むブラックホールが存在の証明
消滅する惑星はいつかの世界地図
部屋の壁に貼り付けて夢を見ていた
幻想なんかじゃなかった現実を生きていた

もうこれ以上でないってそれくらい空っぽになったことがあるだろうか
もうこれ以上動かないってそれくらい言葉にしたことがあるだろうか

僕はないよそして永遠にきっとないよ
坂本龍一さんあなたは死ぬ間際まで曲を書くなら
なあ友よ夢って言葉はきっと諦めた人が発明したんだろう
ならば友よ死ぬ間際で良いや
君と夢を語り合うのは死ぬ間際で良いや

オーストラリアを旅しながらずっと聞いていた野狐禅
ならば友よ青春って言葉はきっと立ち止まった人が発明したんだろう
ならば友よ死ぬ間際で良いや
君と青春を語り合うのは死ぬ間際で良いや

何を求めて生きてきたんだろう
何を探求してきたんだろう
農業はそれを音楽と呼ぶんだぜ
集団に対しての個人の影響力は地球規模だ

ヒッチハイクで旅に出たのさ
目指したのは熊本県の最果てビレッジ
あな恋っていったいなんだろうな
俺の陥ってる罠には本当に欲しいものが埋もれてる

希望は作り出すものじゃなくて掘り出すものなんだって
あなたの言葉が今胸に突き刺さるよ
俺は全然土を見てなかった
俺は全然あなたを見てなかった

世界で一番あなたのことを馬鹿にして
世界で唯一あなたのことを見下していた
そりゃどんな歌も届くはずもないよな
そりゃどんな言葉も受け取れるはずもないよな

きっとそこにある創造の泉が
あなたはただその本質へと導いてくれていた
少しだけそのことが見えてきたんだ
さあ行こう僕ら2人から始まる懐かしい未来へ

ミラクルを君と起こしたいんだ
できっこないをやるしかない
可能性
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

才能はいらない
名誉もいらない
お金もいらない
時間もいらない
自由もいらない
代償と引き換えの俺の人生
欲しいのは君の唇

キスして欲しい
キスして欲しい
キスして欲しい
キスして欲しい
終わることなどあるのでしょうか
キスして欲しい

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