世界の一流は雑談で何を話しているのか?
著者について
著者はポーランド生まれで、ドイツ、オランダアメリカで暮らした後千葉大学の研究員として来日。
ベルリッツで異文化間コミュニケーションやマネジメントコンサルティング部門を立ち上げたり、モルガン・スタンレーで組織開発、人材育成を担当、グーグルで人材育成統括部長として組織改革やリーダーシップマネジメントに従事。
現在は、起業家、経営コンサルタント、社外取締役として、人材・組織開発のためのコンサルティングやコーチング、研修などを手がけている。
日本のビジネスパーソンと触れ合う中で、「今日は暑いですね」や「今日は本当に寒いですね」から会話を始めることを奇妙に思った。
日本では商談に入る前に、雑談を交わすのが一般的だ。天気やsnsで話題のこと、お互いの業界の噂など取り留めない話が多い。
著者はせっかくのビジネスの場なのに、この取り留めのない話だけで終わるのはあまりにもったいないと思った。
日本人の大半が雑談をとるに足らない話と思っている。
グーグル流雑談
let's chatフレーズが頻繁に飛び交う。
あえて直訳すると雑談しましょうとなるが、その内容は大きく異なる。
アジェンダが成立してないタイミングでのプランや、課題をシェアしたり、どんなアウトプットを目指すのかなど、オープンな情報交換を目的にする。
世界のビジネスパーソンが交わしているのは、雑談ではなく、Dialogに近いもの。
話す側と聞く側が行動を変えるような創造的なコミュニケーションを目指した会話。
具体的には
1 状況を確認する
2 情報を伝える
3 情報を得る
4 信用を得る
5 意思を決める
雑談で仕事のパフォーマンスを上げ、成果を出すことを強く意識している。
目的さえはっきりすれば雑談は楽しめる
明確な意図を持ち、そこに向かって深みのある会話が出来ることが雑談の上手い人だ。
日本人の雑談は主に、社交辞令、演技、決まり文句で構成されている。
一流の雑談とはその人に特化した雑談をしている
重要なのは自己開示をしながら、中身のある雑談をする事。
プライベートなことを含め、思いや考え方を素直に相手に伝えることで、お互いの心理的距離を縮めることが出来る。
例えば
A 「暑いですね」
B 「本当に今年の夏は暑いですね」
で終わるのではなく
A 「暑いですね」
B 「そうですね。こんな暑い時の週末はどうやって過ごすんですか?」
A 「実はサーフィンが好きでね」
B 「サーフィンがお好きなんですね。私は山が好きで週末は家族と山でキャンプです」
このようにすぐ自己開示し、相手にもそうしてもらえるような話の振り方をする。
自己開示をするには自己認識が必要
価値観 何を大切にしているか
信念 何が正しいと思ってるのか
希望・期待 何を求めているのか
シンプルに言うと何が好きで、何が嫌いなのか問いかけると良い。
相手の善意からのお誘いで、こちらは興味のない、気が乗らない誘いを受けないためにも自己認識・自己開示は重要だ。
何かの集まりで職業を聞かれた時など、サラリーマンです。など答えてませんか?これでは相手に何も情報を渡していないので、会話は続きません。
ラポールを作る
信用、信頼、尊敬のある関係を築いて心理学的に言うところのラポールを作ることを目指している。
ラポールとは、お互いの心が通じ合い、穏やかな気持ちで、リラックスして相手の言葉を受け入れられる関係性のこと。
天気の話や思いつきの世間話でラポールを作ることは難しい。
目の前の人がどんな人で何を大切にしているのか?を探査する事も雑談の大切な目的の一つ。
例えば「ご家族はいらっしゃいますか?」と言う質問一つでたくさんの情報を得ることが出来る。
相手が妻と3歳の男の子が1人と答えたなら、普段どんな過ごし方をしているのですか?と質問する事で、交渉の進め方を変えれる。
相手が子どもが大好きで一緒の時間を過ごしたいと思ってるのに、この後飲みに行きませんか?と誘うのではなく、出来るだけ短時間で面談を終わらせて、早く帰れるようにしましょうと伝えることが出来る。
これは中々日本的には難しい部分だと思う。初対面の人に家族はいますか?とは聞けないと思うので、天気→週末の過ごし方→家族有無判断とかで、会話の持って行き方を考えるといいかもしれない。
相手のことをよく知れば、この時間は電話やメールはやめておこう、面談を入れる時間は何時にしようとか配慮しやすい。こういう積み重ねがラポールを作り出す。
無条件の肯定的関心
アメリカの心理学者カール・ロジャースが提唱した、無条件の肯定的関心というものがある。
それは相手の話の良し悪し好き嫌い判断せず、なぜそう考えているのか?を肯定的に知ろうとする。
予断、偏見、思い込みを捨て、あるがままに相手の話に耳を傾けると、安心して話してもらえる。
更に共感力を高めることも重要だ。
間違っても一方的に持論を捲し立ててはいけない。
文化の違い
察する、空気を読む、忖度する、行間を読むというコミュニケーション文化の日本では、あまりストレートに伝える習慣がないのも理解できる。
ただどこかそういう文化も薄れつつあるのかなと思う昨今、ストレートに情報を伝える練習は必要かも知れない。
成果を出すために
結局BtoBでビジネスをしていても、コミュニケーションはCtoCである。
雑談を通して、以下のことを伝えなければいかに良いサービスでも売れない。
・当社のことをしっかりと調べて理解している
・考え抜かれた面白いプランを持っている
・他社と違う視点があり、本質がわかっている
雑談には事前準備が必要
IRレポートを読んで相手の会社の経営状況を理解、今後の見通しを知っておくことは当然として、SNSで近況を検索したり、同僚や知人を通して相手はどんな人なのか?を徹底的に調べる事により、事前に雑談のストーリーを描く。
その担当者にピンポイントで照準を合わせて、雑談を用意する。
・どんな情報を求めているのか?
・何を知りたがっているのか?
・何を心配して、何を不安に思っているのか?
・どんなプロセスでプレゼンすれば納得するのか?
相手が最も関心を寄せている話題を提供する。
これは確かにいつしか忘れてやらなくなったけど、やっていた時の受注率は凄く高かったように感じる。反省してまた始めよう。
事前準備項目
相手の会社の経営状況は○○である。
今後は○○に力を入れていくようだ。
相手の会社の業界のトレンドは○○だ。
だから○○を課題に感じているかも知れない。
担当さんは○○が好きかも知れない。
非上場の会社の場合IRを開示してないケースが多いので、業界トレンドと、相手のSNS分析に注力すると良いかも知れない。
質問力
鋭い質問は相手を知らないと出来ないため、鋭い質問をしてくれたら相手に好意を持つ。
逆に少しネット検索すれば出るような情報を見ずに、しょうもない質問をすると仕事ができないと思われてしまう。
面談の前に1つだけ質問するメールを送るのも効果的かも知れない。
例えば
明日のお打ち合わせの前に一点だけ教えて下さい。業務改善をするにあたり、今1番時間がかかっている業務は何ですか。
など。
最近どうですか?みたいに、あまりにも抽象的だと答えづらいので、なるべく具体的に質問すると良い。
リベラルアーツ
世界のビジネスパーソンは雑談にリベラルアーツを求める。
日本語訳では一般教養だが、元来の意味は人間を束縛するものから解放するための知識や、生きるための力を身につけるための方法など。
雑談を学びの場と考え、お互いの人生を豊かにするための知識や情報を交換する。
確かにそういう交流が出来た時はすごく良い時間だったと思う。
沢山本を読んで引き出しを増やす事が重要なのだろうと思う。また話す相手が決まっているのであれば、その人向けに知識を入れておくのも有効かと。
何のために会うのか?
会う目的や意図が明確でないと、そもそも何を話して良いかわからない。
・今日、相手に会う目的は何か?
・お互いに何が知りたいのか?
・どんな関係性を作りたいのか?
・その関係性は短期か長期なのか?
・相手は何を理解すれば納得するのか?
相手の状況を観察する
表情、様子、佇まい、服装、仕草を確認することを怠ってはいけない。
どれだけ事前準備をしても、相手が聞き入れる準備や心の余裕がないときは何を話しても一緒だ。
ゆっくり丁寧に話すことは一般的に重要だと言われているけど、明らかにソワソワしている人にゆったりと話すと多分怒られる。
相手の心情を無視して無理にビジネスの話に踏み込むようなことはしない。
もし商談相手がソワソワしていたら、理由を聞いて、励まして、では後日出直します。と言う方がよっぽど信頼を得られるだろう。
これは実体験として覚えがある。
商談の前日に、先方の社員さんに不幸があったらしく、当日社長さんがとても落ち込んでいたので、それは大変でしたね。今私どものお話をしている場合ではないですね。日を改めますと席を立とうとしたところ、良い形で商談がまとまりました。
思いやり大切ですね。
職場の雑談について
日本の大手広告代理店が実験した結果、雑談をするチームと、しないチームでは雑談をするチームの方が生産性が高かったらしい。
面白いデータを見つけたので貼っておきます。
職場の雑談には7つの相乗効果がある
①職場の人たちと仕事以外の「つながり」ができる
②お互いの「信頼感」が高まる
③職場の「心理的安全性」が高まる
4「働きやすい環境」が生まれる
⑤仕事の「モチベーション」が高まる
⑥ミーティングで「発言」しやすくなる
⑦会議の結論に「納得」して働けるようになる
雑談によって周囲のバイアスを低減
バイアスとは思い込みや決めつけ。
バイアスが原因で偏りが生じる。思考パターンや偏見とも言い換えれる。
①「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)
誰かと接する時に、自分の経験や見聞きしたことに照らし合わせて、「この人はこうだから、こうに違いない」や、普通はこうだから、この人もこうだろうというように、あらゆるものを「自分勝手に解釈」する傾向を指す。
例えば「定時で帰る社員はやる気がない」とか、「育児中の女性社員に営業は無理」、「雑用や飲み会の幹事は若手の仕事と決まっている」など、日本企業には数多くの無意識の偏見が存在する。
私は仕事を上手くやるために、余暇の時間を使って筋トレしたり勉強したりしたいので、断固として残業はしたくない派です。
だから定時で帰るのはやる気がないと言われるのはたまらん。
仕事だが出来ようが、定時で帰る奴は認めない。って昔怒られたことあるなぁ。すぐ辞めましたけどね笑
②「親和性バイアス」
自分と似たところのある相手に、親しみを感じる傾向のこと。
自分の母校を卒業した後輩や部下には、他校の出身者よりも無意識に高い評価をつけるなど、親近感を覚えている相手には、無意識に評価を底上げしてしまうことを指します。
これはよく見かけますよね。
③「確証バイアス」
自分が正しいと思っていることに関しては、それを正当化する情報ばかりを集めて、否定的な材料は無視したり、集めようとしない傾向を指します。
採用試験などで「高学歴だから、仕事ができるハズ」と思い込んで、無条件に高評価をすることなどが代表的な例です。
多種多様な情報があっても、最初に自分が正しいと思った考えを有利にできるような情報ばかりを重視してしまう。
これもよく見かけますね。
人はどうしてもバイアスに支配されがちですので、日頃の雑談を通して誤解を解いていく必要があるようです。
雑談の最初のミッションは確認作業
①相手の状況の確認
②ビジネス状況の確認
③新たに必要となる情報の確認
大事な話を始める際に相手にその準備があるか確認をすることが第一段階。
相手が明らかにバタバタしていたら、何かありましたか?と聞いてみて本題に入れるか判断する。
「貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。本日は詳しい資料やスライドを準備しておりますが、すぐにプレゼンを始めてもよろしいでしょうか?何か新しい課題があるとか、違う方向性が見えたということであれば、先にお聞かせください」など前置きをする事によって、状況の変化にすぐ対応できる。
例えば「予算がなくなったから、御社の提案にはお答えできない」と言う反応などを最初から貰えたら、無駄な提案に時間を使うことなく、次の方向性に沿った話し合いができる。
次の予算どりはいつ?今困ってることある?業界についての深い知識を得るために質問しまくるなどやる方がよっぽど生産的な時間だ。
雑談を通して相手企業がどんな流れで判断しているのか、最終的な意思決定者は誰なのかも確認しておくと良い。
また、何が意思決定の決め手になるのか?意思決定の障害になるものは何か?も雑談で聞いておくと良い。
私はよく、なるべくご希望に沿うご提案がしたいので教えて下さい、業者選定の基準はどんな感じですか?とか聞いちゃいますね。
ビジネスの雑談の目的
①「つながる」 相手との距離を縮めて信用を作る
②「調べる」 最新の動向や現状に関する情報を収集する
③「伝える」自社の意向や進捗状況などを報告する
④「共有する」 最新の情報を相互に認識する
誰でも自分が興味ある話題を振られるのは嬉しいものです。
ビジネスの相手との関係性
日本ではお仕事を出す側が、お金を払うのだからと偉そうにし、お仕事をうける側がぺこぺこする光景をよく見るがお勧めしない。
意思決定者と人間同士の対等な関係が構築出来ないと目覚ましい成果は得れない。
対等な関係を作るためのアプローチとしては3つのアプローチがある。
共通の趣味を見つける
共通する体験や考え方を共有する
相手にとって必要不可欠な存在になる
趣味の話ができ、同じような体験・考え方を共有できて、有益な情報を持ってきてくれる人がいたらそりゃ好きになりますよね。どうすれば1〜3が実現できるのかを考えながら雑談を組み立てるのは良いかも知れませんね。
①あなたは仕事を通じて何を得たいですか?
②それはなぜ必要ですか?
③何をもっていい仕事をしたと言えますか?
④なぜ今の仕事を選んだのですか?
⑤去年と今年の仕事はどのようにつながっていますか?
⑥あなたの一番の強みは何ですか?
⑦あなたは今どんなサポートが必要ですか?
上記質問をうまく雑談に溶け込ませて質問すると、ラポールが作れる。
異業種の人と何話す?
これは本当に困りますよね。
そんな時は自分や相手の業界のサイクル→トレンド→パターンの話題を意識すると良い。
起業家やビジネスパーソンは、自分と異なる業界のサイクルやパターンを知りたがる傾向にある。
エグゼクティブな人は時間を大切にするので、天気の話なんかを振るようでは時間泥棒と思われる。短時間でこの人ともっと話したいと思わせる必要がある。会ったことないタイプの人だとか、面白い、こんな情報持ってるんだ!など。
そんな情報持ってないと不安に思われる方。大丈夫です。私もです。
著者の技に質問攻めというものがあるそうです。具体的には下記のようなことを聞くそうです。
①ビジネスを始めた(現在の仕事を選んだ)きっかけをお聞かせください
②過去の挫折体験を教えてください
③ブレイクスルー体験は、いつどんな時でしたか?
④現在のミッションは何ですか?
⑤ビジネスに関して、どんな価値観をお持ちですか?
⑥ビジネスに向き合う際の信念を教えてください
人は自分に興味を持ってくれる相手には好意を持って対応してくれる。
一切遠慮せず質問攻めにすると相手は自然と心を開いてくれる。
世界の一流からは教養を求められますが、教養はすぐ身につくものでもありません。それに比べ質問力は意外に短時間でできる。
テクニック
聞きにくいことを聞く時の技
「素朴な疑問なんですけど」と前置きしてストレートに聞いてしまう。
笑顔で相手と目を合わせる
何気なく聞く
相手が答えやすい状況を考えて事前に情報を集める
心構えと押さえておきたいポイント
雑談を一度きりのチャンス考える必要はない。
一度きりだと思い気張りすぎてあれやこれやと詰め込みすぎるのは逆効果。知り得た情報を次にどう活かすという視点を持つ。
ただランダムに情報を集めてもしょうがない。何のためにその情報が欲しいのかはっきり定め、知り得た情報を有効活用する。前回の情報をしっかり覚えておく。
同じ質問をしないようにメモをしておくとよい。相手のプライベートにいきなり踏み込まない。
結婚してるんですか?など唐突に聞いて、相手が結婚に悩みを持っていたら大変なことになりますからね。ファクトベースの質問は意外と危険。
大学はどこですか?とか聞いて、相手が受験に失敗した事をずっと引きずっていたら大惨事になりますからね。収入の話はしない。
日本ではもちろんの事、海外でもそうのようです。シュチュエーションを考えた雑談を心がける。
壁に耳あり障子に目あり、油断大敵という考え方は基本中の基本だと思いましょう。隣に座ってる人が明日の商談相手かも知れません。宗教の話を無理に避ける必要はない。
中途半端な知識を披露したり、その是非を議論するのは論外として、相手の宗教を知っていればできる配慮がある。肉は食べないとか。下ネタで距離が縮まることはない。
・・・なんかすみません。
下ネタで距離が縮まるという事は勘違いであると世の中の常識になっています。
まとめ
雑談に必要なのは、好奇心、知識、経験。
相手驚かさない程度の自己開示をし、相手に興味を持って、人間性や人となりを知ろうとする、信頼関係の構築を目的としているのを忘れない。
自己開示をするには自己認識が必要で、相手と良い雑談をしたいのであれば事前のリサーチや、目標設定、前回の復習を怠らない事。
困ったら質問攻めにすればいいが、的外れな質問は嫌われるので、鉄板の質問を暗記して普段から使い慣れておくと良い。
ここに書いていない社内での上司部下のコミュニケーションなども書かれているので、ぜひ読んでみてくださいね。