農林1号
どうせ私は、というのが農林1号の口癖だ。
超有名芋の子供なのに、彼女のことを知る人は少ない。
味は母ほどじゃないし、最近の品種のように特化した能力もない。
年の離れた妹は可愛らしい名前を授かり、順調に活動の場を広げている。
「あなたの頑張り、私は見てきましたよ」
「男爵様! このような暮れるばかりの夕宮に」
馬鈴薯としてはじめて農林省に登録された誇らしいその名。
王国のみならず西の春秋作を可能にした適応性。
チップスや澱粉の原料までこなした才色を誰が貶められましょう。
何より今につながる遺伝子をたくさん残したのですから、立派な芋になりましたね。
「母さんっ」
いい子、と男爵は甘えすがる農林1号を夕闇の中に抱き締めた。
(300字)
「Twitter300字ss」企画参加作品 第六十八回/お題「夕」
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