おつとめ
組のいざこざを収めるため服役中だ。
戻れば幹部だが、喧騒と隔たれた檻の中も悪くはない。
光沢スーツを脱いでからは、揃いの囚人服で牛や鶏の世話をし、麦畑を耕している。
模範囚ともなれば、製菓訓練を許された。
乳と卵、小麦粉から次々と狐色の菓子を生み出すマーさんのことが好きになった。
バナナマフィンが絶品だったから、マフィンのマーと呼ばれていた。
互いの肌をまさぐった夜、仄かな灯りでマーさんの背に貝の彫物が浮かんだ。
「そうだ、マドレーヌマフィアだよ。気づかなかったのか」
フィナンシェヤクザ、お前の兄貴を殺したのは俺だよ。
マーさんの声はひどく優しい。
オーブンから漂ってくる濃いバターの香り。
焼き上がるのはどちらか。
(300字)
「Twitter300字ss」企画参加作品 第七十回/お題「服」
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