おしえて
マドレーヌマフィアの作るフィナンシェを食べたことがある。
製菓訓練で一通り作らされるからだ。
「お手柔らかに頼むよヤクザさん」
楽しそうに焼き上げたのは、豊かなバターと砂糖の甘さが融合した見事な金塊で、貶すどころか教えを請うた。
頭を下げる時宜を見誤らないことが、極道では肝心だ。
白い粉の種類は?配合比率は?オーブンの温度は?マフィアはステンレスボールを抱えて親切に説いた。
泡立てのリズムを掴め、生地の重さを感じろ、焦らなくていい。
顔が近づき、手を添えられると狭くるしい色寝を錯覚した。
兄を知る彼に、似ているなんて言わせたくなかった。
銃も喧嘩も粉焼きも兄貴に届きたかったくせに今さら。
「マーさん、食ってくれ」
続編要素
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