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エヌビディア最大の脅威と噂されるセレブラス。企業とIPOの動向を解説します。

エヌビディアの対抗企業と見られるセレブラス

2024年9月30日、AI向半導体チップを開発するセレブラス社(旧セレブラス・システムズ)が米国ナスダック市場に新規株式公開(IPO)を申請したことが報じられました。
一般にはまだ馴染みのない企業ですが、このセレブラス、最強の名を欲しいままにするエヌビディアを脅かす存在になるのでは⁉と噂されている企業でもあります。
果たしてセレブラスとはどんな企業なのでしょうか。
またセレブラスのIPOの動向、投資先としての魅力について紹介します。

セレブラス/Cerebras

・代表者 アンドリュー・フェルドマンCEO
・本拠地 カリフォルニア州サニーベール
・設立年 2016年設立
・サイト https://cerebras.ai/

セレブラス(Cerebras)は2016年に設立された、AIモデル向けの半導体チップ開発に取り組むスタートアップ企業です。
エヌビディアのH100よりも多くのコア数とメモリを搭載した”地球上で最速のAIチップ”として「WSE-3」を発表し話題となっています。

アンドリュー・フェルドマンCEO

セレブラスのアンドリュー・フェルドマンCEOは、スタンフォード大学で学士号とMBAを取得後、リバーストーン・ネットワーク(RiverStone Networks)社で設立時からマーケティング兼企業開発担当副社長を務めました。
その後、フォース800ネットワークス(Force800 Networks)で製品管理、マーケティング、BD 担当副社長を務めます。
2007年にはゲイリー・ローターバック氏と共に高帯域幅マイクロサーバーを開発するシーマイクロ(SeaMicro)を設立し、同社のCEOを務めています。
シーマイクロ社は2012年にAMDに買収されています。

セレブラス・システムズ(現セレブラス)設立

2016年、フェルドマン氏とゲイリー氏、更にショーン・リー氏、JPフリッカー、マイケル・ジェームス氏などが集まりセレブラス・システムズ(現セレブラス)社を設立しました。
業界で実績を持つコンピューター アーキテクト、コンピューター科学者、深層学習研究者、エンジニアらで構成されるチームです。

多くのベンチャーキャピタルや投資家が出資

セレブラス社にはFoundation Capitalを筆頭に、Eclipse Ventures、Alpha Wave、Coatue、Altimeter、G42などの企業が出資している他、フェルドマンCEOやオープンAIのサム・アルトマン氏も出資者に名を連ねています。

GPUではないAI専用チップを開発

セレブラスでは、AIのディープ ラーニングには基本的に他の作業用に設計されたGPUでは無く、AI専用に最適化された新しいコンピューターを構築する必要があると考えました。
そこでAIの膨大な計算需要を満たすために、大型で高速の半導体チップ「WSE」を開発し、省電力で高いパフォーマンスを実現しました。

数多くのメディアで選出される

セレブラス社への評価は高く、Time誌の「最も影響力のある100社(2024年)」、フォーブスの「AI50社」、フォーチューン誌の「50AIイノベーター」など数多くの賞に選出されています。

エヌビディアが制圧するAI半導体

現在、AI向け半導体(GPU)の市場ではエヌビディアが圧倒的な優位を手にしています。
グーグル、マイクロソフトなど世界的IT企業が競って開発を進める基幹AI(大規模言語モデル(LLM))の開発には数千台〜数万台規模の高性能半導体チップが必要で、ここをエヌビディアのGPU製品「H100/H200」がほぼ独占しています。
エヌビディアのGPU製品は前モデルのA100時代から性能と信頼性で他を圧倒しており、H100の登場によってその評価は確定しました。
大規模言語モデルの開発に使われるGPUの約95%がエヌビディア製品という事実上の独占市場が生まれたのです。
H100は1台が4万ドル近くする高価格のGPUの製品なのですが、更にこれを8台セットにしたユニット(DGX-H100)を求めて世界中のIT企業が列を成しているというのが現在の状況です。
エヌビディアは既に次世代のAI向け半導体チップ「Blackwell B200」も公開しており、早くも受注が積み上がっています。
高性能GPUの市場においてエヌビディアの事業は盤石であるようにも見えます。

続々と現れるエヌビディアのライバル

エヌビディアの牙城を崩そうと多くの半導体メーカーやスタートアップ企業が製品開発を進め、市場を狙っています。
インテルやAMDといった大手半導体メーカーも高性能GPUの開発は進めており、特にAMDはH100を上回る性能を持つというGPU製品を発表していますが、現時点ではエヌビディア製品のような評価は得られていないようです。
や既存のメーカーだけではなく、スタートアップ企業もこの熱い市場を狙って高性能半導体の開発に挑んでいます。
Rain AIやEtchedといったスタートアップ企業はGPUとはまた別のAI開発に特化した半導体チップを開発し、既にエヌビディアのH100などを上回る高い性能値をマークしたと発表しています。

参入障壁は高い

但しエヌビディアの牙城を切り崩すのは容易ではありません。
高い性能を持つ半導体を開発しても、そのモデルを量産して、販売先を見つけて納めるのはまた全く別の話です。
半導体工場の建設には膨大なコストと年単位の時間が掛かります。
また同じ半導体製品を大量に生産しないとコストが下がらないため、大量の製品を安定的に購入してくれる顧客を確保する必要があります。
購入する側からすると、データ上の性能は良くても、製品が安定的に稼働してくれないと事業が成り立たなくなるので実績の無い企業は使いにくいという背景があります。
日本と比べて欧米の企業は過去の実績に捕らわれずに取引を行う傾向が強いですが、AI向け半導体のような高額の投資になれば信頼性の担保は必要です。
こうした要素があってエヌビディアの脅威となる企業がなかなか現れないという状況が続いています。
そうした背景を踏まえた上で、それでもこの会社には可能性があるのではと投資家の注目を集めているのが他ならぬセレブラスなのです。

セレブラスの強み

セレブラスのAIチップはTSMCが製造を担当する事で調整ができています。
更にUAEの企業・G42が2025年3月までに14億3000万ドル(約2000億円)相当のAIチップを購入する契約を締結しています。
つまりセレブラスのAIチップは生産と供給先の問題を既にクリアしており、この点で他のプロジェクトとは実現性に大きな差があるのです。
地球上最速と謳うAIチップ「WSE-3(Wafer-Scale Engine 3)」は総合的に見てもエヌビディアの牙城を崩す可能性を持つのではないかと評価されています。

セレブラスのIPO申請

セレブラスは2024年9月30日に米国証券取引委員会(SEC)に新規株式公開(IPO)の申請書を提出しました。
同社は米国ナスダック市場に上場する意向を示しています。
IPOを主導しているのはシティグループとバークレイズで、ティッカーは「CBRS」となる予定です。
早ければ10月中にもナスダック市場に上場する見込みとなっていました。
ところが2024年10月23日の時点ではセレブラスの具体的な上場日程や売出価格の価格帯は未定となっています。

G42との関係とIPOの見通し

前述した通り、セレブラスはアラブ首長国連邦(UAE)の企業グループ・G42からの出資を受けています。
また開発したAIチップをG42に購入してもらう契約をしています。
セレブラスの計画ではG42との取引がの売上高の9割近くを占め、G42への依存度が非常に高い企業となります。
AI向け半導体チップは米国の安全保障にも直結する製品であり、審査に影響を与えていると報じられています。
但しUAEは米国の敵対国では無く、G42はデータセンターの部品にまで非中国化を徹底するなど米国の要請に沿った対応をしている企業でもあります。
G42については関連記事を参照ください。
セレブラスは年内にはIPOの許可を受ける見込みと報じられています。


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