物流ってコストセンターだよねって舐めてた1か月前の私に告ぐ
近年ECの市場規模が拡大しており、それを支える物流はEC企業だけでなく一般消費者にとっても重要度が増しています。
しかし、物流の重要性について語られる場面はまだまだ少なく、ECはマーケティングやアプリのUIが大切でしょ?と言われることも多いです。
そこで今回は、角井亮一氏の書籍を参考に物流とはそもそもどんなものか、物流はどれだけ大切なものなのか、物流を重視している企業はどんな取り組みを行っているのかまとめました。
0.はじめに
このnoteでお伝えしたいことは、物流をプロフィットセンターと考え投資することで競争優位性を築ける、つまり物流は大変重要なものだということです。具体的な事例についてお話しする前に、そもそも物流とは何なのか、簡単に確認しておきます。
1.物流の定義と機能
物流と一口に言っても、具体的に何を指すのでしょうか。私は恥ずかしながら、物流ってとりあえず工場から物を運ぶことでしょ?と思っていました。しかし、物流にも種類があり、物を運ぶ以外にも様々な機能があるので、それを認識せず物流について議論してしまうと誤解が生じてしまいます。
以下ゲーム機器の製造を行うメーカーの例で考えてみます。
言ってしまえば、消費者にゲーム機器が届くまでのすべてが物流です。また、社内での移動や、返品も含みます。
細かく見ていくと、原材料や機材を仕入れるための「調達物流」、商品を生産拠点から販売拠点へ移動する「社内物流」、自社から顧客へ輸送する「販売物流」、直接消費者に届ける「消費者物流」、返品や材料の再利用のための「回収物流」があります。
また、荷物を運ぶ「運送」以外にも、倉庫での「保管」、ラベル貼りなどの「加工」、倉庫内から運搬する荷物を探す「荷役」、箱などに詰め込む「梱包」、忘れがちですが、在庫や配送状況のデータ管理などを行う「情報管理」も含みます。
次章では、物流を重視する企業の背景にある考え方について触れます。
2.物流重視企業の考え方
セブンイレブンは、地方に進出する際、店舗を作る前にまず倉庫の場所を決めたという話もある程、物流重視の企業です。
そのような企業は物流をプロフィットセンター(利益を生み出すもの)と考えて設備投資を行い、販売量を増やしたり、付加価値として商品の単価を上げたりします。
ここでいうプロフィットセンターというのは、物流で儲けている会社というよりも、物流に注力した結果、魅力的なサービスを提供することが出来、結果的に顧客に選好されているという意味合いが強いです。
一方、日本の多くの企業は物流をコストセンター(コスト削減の対象)と考え、コストを削減することで生産性を上げようとしており、物流が軽視されてしまっています。
次章では各社の具体的な事例を見ていきます。
3.事例集
物流に注力している企業として、Amazon、ニトリHD、カクヤスの事例を取り上げ、投資事例や物流による他社との差別化戦略について触れます。
1つ目の例はAmazonです。私自身、AmazonPrime会員で書籍をよく購入するのですが、いつの間にか時間指定や翌日配送が当たり前になっていて大変便利だなと感じています。また、過去にAmazonではない通販で購入をキャンセルした際、メールでは受け付けてもらえず仕方なく電話でキャンセルを行った経験があり、アプリから荷物の追跡やキャンセルが行えるAmazonはかなりの安心感があります。このような経緯から、買いたいものがあるときは反射的にAmazonで調べるようになりました。
ここから本題に入ります。Amazonは会社の設立以来、物流の効率化を進めてきましたが、2009年以降一転して配送費率がプラスに転じています。これは、後ほど詳しく触れますが顧客に荷物を確実に届けるための配送会社の分散化や、2012年にアメリカでスタートしたAmazonFlexの準備のためだと見受けられます。
物流体制を強化し、日本国内では、2016年に最短で1時間以内に配達を行う「プライムナウ」が東京23区内でスタート、翌年にはプライム会員向けに生鮮食品や日用品の宅配を行う「アマゾンフレッシュ」も開始。2019年に個人事業者に宅配を委託する「アマゾンフレックス」を開始しました。
2020年現在でも、年内に4か所の物流拠点「フルフィルメントセンター(FC)」を新設。国内の拠点は合計21拠点になります。物流拠点の拡大で商品の品揃えの強化とより迅速な配送を目指します。
Amazonは確実に顧客に荷物を届ける物流体制を構築し、他社との差別化を図っています。
例えば、楽天で商品を頼むと出店企業ごとに配送品質がバラバラですが、Amazonで商品を頼むと、確実に明日商品が届くという安心感があります。そのため、顧客は価格など他の条件が同じならAmazonを選びます。
具体的な事例では、Amazonは配送会社の分散化により、繁忙期などで出荷量が増えても確実に顧客に荷物を届けられる体制を整えました。
一般的なECサイトが配送会社の9割を業界一位のUPS(アメリカの運送会社)に依存する中、業界3位のUSPS(アメリカの公社で日本の郵便局にあたる)や地域配送会社を活用しました。
補足ですが、USPSはもともと労働組合が強く、土日配送を行っていませんでしたが、Amazonが配送前の仕分け作業を肩代わりすることで土日配送が可能になりました。
先ほども触れたアマゾンフレックスは、物流版Uberと言われており、日本では限定されたエリアで展開されています。UberEatsなどの競合に比べて高時給なことから、ドライバーが集まり案件が獲得しにくい状況は生まれているようでした。
UberEatsと同時に行うドライバーが多く、AmazonFlexの合間にUberEatsの案件をこなすスタイルで取り組まれているようでした。
2つ目はニトリの例です。私は以前本棚を購入した際に自分で組み立てたことがあるのですが、ネジが上手く取り付けられず木が欠けてしまったり、力も必要で組み立てに2時間以上かかってしまいめちゃめちゃ大変でした。ニトリで家具を購入すると、ベットやソファなどの大型家具でもわずか30分程度、数千円で組み立てを行ってくれ、もちろん買ったばかりの家具が壊れてしまうなんていう悲劇も起きません。
そんなニトリの物流には以下の特徴があります。
・顧客への配送までグループ内完結
・組み立てや設置が必要な大型家具の配送を行い、全国46都道府県、
国内人口の99%をカバー。年間800万件以上配送
・社内外を超えたセールスマンの教育に注力
また、ニトリは物流のノウハウを他社に外販しており、物流がプロフィットセンターになっている例として大変興味深いです。
ニトリの物流子会社であるホームロジスティクスは荷物を最小限の人数で運搬・設置取り付けまでを行う日本唯一の会社という強みを活かし、ラストワンマイルを中心とした輸送サービスを提案。外販事業は現在子会社の売上の5%程度で、30%を目標にサービス展開を行っています。
3つ目は酒類販売のカクヤスの例です。カクヤスは何と言っても無料配送サービスが特徴で、例えば屋外でのバーベキューの際に冷えたビールを時間指定・配送料無料で届けてくれます。重い飲み物を持っていかなくても良いのは大変便利です。
セブン同様、1.2Kmの商圏を前提にまず出店場所を決定する物流重視の企業で、物流を強化したことによって、他社が真似できない細やかなサービスを展開、差別化要因となっています。
1.2Km圏内は自転車でも1時間ごとに回れる距離のため、電話やネット注文でも無料で最短30分で配送が可能になりました。店舗をストックポイント(在庫を置いておく場所)と設定し、在庫を出来るだけ顧客の近くに置いておくことで利便性を高めています。
カクヤスの売上の7割を占めているのは飲食店です。これまでの仕入れ先では、前の晩に注文しても配達は一日一度だけでしたが、カクヤスの場合は依頼をしたタイミングでいつでも配達してくれるため、急なお客さんのオーダーにも対応可能になっています。
このように、物流を意識した出店戦略によって、商品の種類・配達料・決算方法・アフターフォローの頻度をニーズに合わせて対応することが出来るため、顧客に選ばれています。
物流はプロフィットセンターだと主張しても、実際に投資対象と考えるのは難しいのが実情です。ただ、近年物流に投資する企業の事例が出てきているのは、一回の売り上げよりも顧客満足度やリピート率、LTVといった指標を重視するように世の中が変わってきているという背景もあるのではないでしょうか。
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