スナック忘れな草~サン・トワ・マミー・2024菊花賞①注目ゲート決定編~
■ 好調くろたん
2024年10月14日(祝・月)午後5時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「くろたんさんは好調だなあ」
府中牝馬ステークスが確定したのをスマホで確認し、タコ社長がいった。
くろたんは秋華賞ではボンドガールに、府中牝馬ステークスでは10番人気のシンティレーションに本命を打っていた。いずれも2着と馬券になっている。秋華賞のアドマイヤベルや、府中牝馬ステークスの4-4ゾロ目が不発だったスナック忘れな草の予想とは、実に好対照な結果となった。
「菊花賞では巻き返さなくちゃね」
ギョニ子がそういって、口を真一文字に結んだ。みんながうんうんと頷く。
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くろたんvsスナック忘れな草
2024 秋のGⅠキングバトル
●スプリンターズS
くろたん サトノレーヴ 7着 配当なし
スナ忘 ウインマーベル 5着 配当なし
●秋華賞
くろたん ボンドガール【2着 複勝290円】
スナ忘 アドマイヤベル 12着 配当なし
※途中経過
くろたん 290円
スナ忘 0円
■ スリーペア
ちょっと菊花賞の展望でも話そうかということになり、真一郎がまず注目ゲートを挙げた。
「秋華賞の結果をみて、ふと気づいたことがあるんです。今年の牡馬牝馬三冠路線ですが、5戦が終了し5と12のペアができています」
<2024 牡馬牝馬 三冠>
桜花賞 12番
オークス 12番
秋華賞 5番
皐月賞 13番
ダービー 5番
菊花賞 ?番
「菊花賞が13番の優勝なら・・」
麗子ママがいった。
「5と12と13。スリーペアの完成ね」
みんながなるほどと頷き、ひとまず13番を注目ゲートとすることになった。
スナック忘れな草
菊花賞 注目ゲート
13番(スリーペア完成)
■ やっぱり猫が好き
そのあと、話題はふたたびくろたんのこととなった。
「以前にも訊いたかもですが、マスターとくろたんの出会いはいつだったんですか?」
真一郎が尋ねる。
「くろたんとの出会いは、キムラハヤオさんの古い掲示板でしたね」
マスターが、少し遠くを見るような表情でいった。
「当時くろたんは、『やっぱり猫が好き』というハンドルネームで掲示板に一時期投稿していました。重賞インフォメーションのトップ画像や、出走馬情報の誤り画像など、そのころにくろたんから教わったと記憶しています」
重賞インフォメーションの再生ボタンを押したときに、停止画像となるいわゆる「トップ画像」や、出走馬情報の紹介馬に直近勝利ではない画像が使用される「誤り画像」という考え方は、それまでのマスターの引き出しになかったものだ。
「その他にも、くろたんから教わった考え方、切り口は枚挙にいとまがないですよ。まあ、いってみれば心の師匠のような存在です」
「ふうん、そうなんだあ」
ギョニ子がいった。
「ところでくろたんさんて、やっぱり猫が好きをハンネにするくらいだから、あのドラマが好きだったのかしら?」
「いや、そうとは限らねえぜ」
タコ社長がニヤリと笑っていった。
「奥さんが、女優のもたいまさこに似てるんじゃねえか?」
まさかあとギョニ子が笑って突っ込んだとき、店に入ってくる男がいた。くろたんだった。今日もタキシードをビシッと決めている。
先週連れてきた美女はひとりだったが、今週は両サイドに白人の美女をはべらせている。いずれもモデルのような長身でブロンドヘアー、ボリュームのある胸をあらわにしたぴったりとしたサイズのドレスは、見事なプロポーションを強調している。
「私の妻はもたいまさこなんかじゃありませんよ」
くろたんはタコ社長を睨みつけていった。
「うちの妻は、吉瀬美智子と井川遥を足して、マッコリで割ったような美形です」
「マッコリで割るってどういうことなのよ!」
ギョニ子の突っ込みを無視し、くろたんはタキシードの内ポケットから札束を取り出すと、それを空中に次々と放り投げた。テーブル客がその札束に群がったが、なんだよ偽札じゃねえかと声が挙がった。
みると、それはモノポリーで使用するお札だった。くろたんはそれを一枚拾い上げると、これはこういう風に使うんですよといい、美女の胸の谷間にお札を入れた。
おお、そういうことかとエロ親父たちから声が挙がり、男たちはみな争ってお札を美女たちの胸に押し込みはじめた。最後のほうは、お札を持っていない手で直接生乳を揉んだり、ピンク色の乳首を親指を人差し指でコリコリとする者まで出る始末だった。
「さあ、もういいでしょう! キャサリン、ステファニー、今日はありがとう!」
くろたんの言葉を聞き、美女2名は店外へと消えた。今日のアルバイト代ひとり10万円は、事前に彼女たちに払ってある。先週の3万円と合わせ、23万円の出費だが、馬券師くろたんを演出するには必要な経費だ。
店の外には、あのボブ・サップ野郎がジャガーで待っている。今日は3Pでやりまくるのだろう。
タコ社長の右隣りに座ったくろたんの目の前には、すでに響のロックが置かれていた。
くろたんは、金髪白人美女との3Pを想像していた。今日はこのあと、コンビニにいってAmazonからの荷物を受け取ることになっている。POL3が届いたのだ。POL3とは、パーフェクト・オナニー・ライフ3種の神器の略で、くろたんが命名したものだ。VR用のメガネ、オナホール、そしてバイアグラ。
妻に内緒で借りた安アパートの一室で、今日は洋モノを見ながらたっぷりとオナニーライフを満喫するのだ。ああ、めくるめく快感。ええか、ええのんか、最高かー、日本一やー。
「くろたんさん、大丈夫かい?」
そうタコ社長に尋ねられ、くろたんは我に返った。
「あんまりそうやってグラスをしごくと、ロックがお湯割りになっちまうぜ?」
「あ、ああ。ちょっと考えごとをしていました。これは考えごとをするときの癖でね・・」
くろたんは苦しい言い訳をした。どうやら、右手でロックグラスを思い切りしごいていたらしい。ロックアイスは、すでにサイコロ大の大きさまで小さくなっていた。
「ふうん・・・」
タコ社長は軽く受け流したが、目は信用していなかった。
くろたんは、響を一気に喉に流し込むと、ドアのほうへと歩き出した。
「あら、くろたんさん。何かネタがあるんじゃないの?」
ギョニ子が背中に声を掛けると、くろたんは振り返っていった。
「披露したところで、どうせみなさんは私の見解なんか無視するでしょうからね・・・みなさんの奇想天外な妄想を期待していますよ。今回はどんな『絵に描いた餅』を見せてくれるんでしょうねえ」
くろたんはそこでニヤリと笑うと、店外へと消えた。
■ 3000メートル
2024年10月15日(火)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
その日、スナック忘れな草のカウンター右サイドに真一郎とギョニ子の姿はなかった。昨日はふたりとも仕事が休みだったので来店していたが、平日はふたりの時間を大事にしたいという習慣は、今週も続いていたのだ。次の来店は、枠順が確定する木曜日になるという。
「さあマスター、何かいいネタはあるかい?」
タコ社長がもみ手をしながら、すし屋の板前にネタを尋ねるような口調で訊いた。
「そうですねえ・・」
マスターも、ガラスのネタケースにある鮮魚を確認するように、視線を少し左右に泳がせてからいった。
「データ分析コピーがなかなか面白いですよ」
<データ分析コピー「3000」>
※2020年以降
2024 菊花賞
「3000メートルの長丁場で争うクラシック最終戦」
2020 ダイヤモンドS
「日本で唯一、3000メートル以上で行われる平地のハンデ重賞」
「2020年以降のデータ分析コピーで、『3000』が使用されたのはわずか一例でした。2020年のダイヤモンドステークスです」
2020/2/22(土)
第70回 ダイヤモンドS 16頭
1着:8-16 ミライヘノツバサ(16人気)
2着:7-14 メイショウテンゲン
3着:1-01 オセアグレイト
「ミライヘノツバサ!」
タコ社長が大きな声でいった。
「あれには度肝を抜かれたぜ!」
「第70回というのが意味深ね・・」
麗子ママがいった。今年はJRA発足70周年。そのことをいっている。マスターが頷いていった。
「ダイヤモンド、そして3000。メジャーで3000本安打を達成した、イチローのことかもしれませんよ」
「なるほど。野球にはダイヤモンドがつきものだ・・・で、そっからどう読むんでい?」
「イチローの背番号といえば51。ダノンデサイルが勝てば、この51という数字がいきてきます」
1973 タケホープ
ダービー、菊花賞で二冠
2024 ダノンデサイル
ダービー、菊花賞で二冠
※51年ぶり
秋華賞ではチェルヴィニアがオークスと秋華賞の二冠を達成した。これは、エリザベス女王杯時代も含めると、トウコウエルザ、メジロドーベル、カワカミプリンセス、メイショウマンボ、ミッキークイーンに続く史上6頭目の記録だ。
一方牡馬のほうは、ダービーと菊花賞の二冠馬は、変則三冠馬の牝馬クリフジを含めても2頭しかいない。その最後の馬が、51年前のタケホープというわけである。
「もしダノンデサイルが二冠達成なら、JRAのトップ画像、左回りの競馬場のようにみえるアングルともつながるわ!」
麗子ママはそういうと、カラオケのリモコンである曲を入れた。麻丘めぐみの『私の彼は左きき』だ。
歌い終わり、タコ社長やテーブル客からやんやの喝采を受けた麗子ママは、丁寧にお辞儀をしたあとにいった。
「この曲、1973年のリリースなの。タケホープが二冠を達成した年と同じ年ね」
<1973 出来事>
麻丘めぐみ
『私の彼は左きき』リリース
タケホープ
ダービー、菊花賞 二冠達成
「人気でしょうが、ダノンデサイルは注目ですね」
マスターがそういうと、タコ社長と麗子ママが頷いた。
スナック忘れな草 菊花賞
注目ゲート
13番(スリーペア完成)
注目馬
ダノンデサイル
(タケホープ以来のダービー、菊花賞二冠馬)
■ 三姉妹
2024年10月16日(水)午前8時
-東京都某区 ギョニ子が勤務する病院-
ギョニ子はナース服に着替えると、昨日も朝に訪れた女性患者のもとへ急いだ。ノックをし、おはようございますといいながら入室すると、その女性患者はスマホの画面を嬉しそうに眺めていた。
「生まれたんですね!」
ギョニ子が尋ねると、女性患者はギョニ子のほうを見てにっこりと頷いた。見せてくれた画面には、生まれたばかりの赤ん坊を抱いてピースサインをしている、30代後半の女性が映っている。
先週の半ばあたりに、日曜日が娘の出産予定日だと聞かされていた。今日が水曜日なので、3日ほど遅れたことになる。
「それで、性別は?」
「またしても女の子。予感が的中したわ」
70代前半である女性患者は苦笑した。自身も三姉妹の長女だったから、一人娘の三人目も女の子だろうと予想していたという。
「あたしが二度流産して、やっと生まれた一人娘がこの子なの。彼女も一度目は流産したんだけれど、28歳にして長女が生まれ、33歳で次女、そして38歳の今年、三女が生まれたってわけ」
三姉妹か。ギョニ子の頭には、月曜日のスナック忘れな草のことがあったから、ついいってみた。
「元気な女の子が三人。ますますにぎやかになりますね。ドラマの『やっぱり猫が好き』みたいに」
あはは面白いこというわねと、3人の孫のおばあちゃんになった患者は笑った。そして、少しだけ眉根を寄せてからいった。
「あたしもあのドラマ好きでよく見たけれど、あれって成人女性の三姉妹でしょ? うちのは10歳に5歳に0カ月だから、ドラマでいったらあれのほうがぴったりだわ・・」
■ 緊急招集
2024年10月16日(水)午後6時
-東京都某区 スナック忘れな草へ向かう真一郎-
赤信号で捕まった真一郎は、ジーンズの尻ポケットからスマホを取り出して、ギョニ子からのLINEを確認した。
大スクープ!
仕事が終わったらスナ忘に集合
ナルハヤで!
ギョニ子とは、次に店に行くのは木曜日にしようと決めていた。枠順が確定してからのほうが、予想材料は多いだろうからだ。それを一日前倒ししたとなると、何か大きなネタを掴んだのだろう。
店の少し手前でギョニ子と合流し、ふたりは店の中へ入った。
■ 海外ドラマ
生ビールが半分ほどになり、人心地ついたところでギョニ子はバッグからトランプを出した。何か演出があるらしい。
それから彼女は、よく見えるようにこっちへ来てとタコ社長に声をかける。眞露の水割りセットごと移動してきたタコ社長が、ギョニ子の左に座る。
ギョニ子は、6枚のトランプを抜き出して並べてからいった。
「月曜日に、菊花賞で13番が勝てばスリーペア完成って話が出たわよね?」
みんながうんうんと頷く。
「ひとまずこのKをないものとするわ。ポーカーに3ペアなんて役はないでしょう?」
ギョニ子は皐月賞の位置にあたるKをひっくり返した。ジャスティンミラノの13番だ。
「こうしてみると、菊花賞にふさわしい番号はこの2枚しかないわ」
ギョニ子が、菊花賞の位置にあるクラブのKの代わりに置いたのは、クラブの5とスペードのQだった。
「なるほど、フルハウスの完成ってわけだ」
タコ社長がいった。ギョニ子が頷く。
「5のスリーカード、Qのスリーカード。どちらかはわからないけど、三姉妹の強調ならQのほうかも」
「フルハウスを狙う根拠はあるんだな?」
「もちろんよ」
ギョニ子はタコ社長にウインクをしてみせた。
「昔、海外ドラマに『フルハウス』ってあったでしょう?」
「忙しい実父の代わりに、子供の面倒を見るふたりのパパと三姉妹。それでフルハウス。三姉妹の長女の名前、覚えてる?」
「ええと長女は・・」
マスターが記憶を手繰り寄せるような表情でいった。
「ドナ・ジョー・マーガレット・タナー・・・・・通称DJ・・」
いってから、マスターは自分であっと声を挙げていた。
「そうか! DJ KOOとここでつながるんだ!」
ポンと手を叩いたマスターに、麗子ママと真一郎がなるほどと声を挙げる。タコ社長がいった。
「13番は? ジャスティンミラノの13番をないものとするのは都合がよすぎるんじゃねえか?」
「この13番は・・」
ギョニ子が左を向いていった。
「サイン発信役だと思うの。トランプはAからKまでの13枚。それが4種類で52枚でしょ? トランプがサインですと教えていると思うの。13の強調は、秋のGⅠ初戦であったものね?」
そういってギョニ子は、今度は真一郎のほうを向いた。打ち合わせをしていたわけではないが、阿吽の呼吸で真一郎が応じる。
「そうか! 秋華賞をルメールが勝ったことで、あの法則が途切れたんだった。今年の、平地GⅠを異なる騎手が勝つ法則。13戦目のスプリンターズステークスが最後となった!」
麗子ママがすかさず援護射撃を出す。
「しかも、ルガルのゼッケンは13だったわ!」
おおという声が店内に響いた。ただし、タコ社長はまだ乗り気ではないようで、腕を組んで体を反り気味にしている。
「じゃあヒコロヒーはどうなるんでい? アニマルなんちゃらはDJ KOOだけじゃねえだろ?」
「それは言われるとちょっと困るんだけど・・」
ギョニ子は正直にいった。
「ヒコロヒーは川田将雅と同じ10月15日生まれ。川田将雅といえば、昨年牝馬三冠を達成したリバティアイランドよね? 牝馬三冠からの三姉妹ってことで勘弁して」
ふうんとタコ社長は少しバカにしたような反応をした。だが、タコ社長のそういう態度もそこまでだった。マスターがすぐに、テーマがフルハウスであることを決定づける発言をしたからだ。
「ジャスティンミラノが仲間外れであることに、もうひとつ意味がありましたよ」
みんながマスターに注目する。
「ジャスティンミラノの三木正浩といえば・・・」
「ABCマートの創業者だな」
答えたタコ社長に、マスターが続ける。
「海外ドラマ『フルハウス』。製作はアメリカのABCテレビです!」
皐月賞
13番 ジャスティンミラノ
(三木正浩=ABCマート)
13 = トランプ
ABCマート ≒ ABCテレビ(フルハウス)
みんながおおという声を挙げた。今度は、その中にタコ社長の声も入っていた。
■ ポーカーフェイス
30分後、タコ社長は立ち飲み処UEGOMORIにひとりで来ていた。
あのあと、真一郎とギョニ子のペア、マスターと麗子ママのペアに分かれ、さらなるシナリオ解析に取り組んでいた。マスター側に誘われたタコ社長は、俺はひとりでいいとグループには入らなかった。
それぞれのペアから、おおとかなるほどという声が挙がり、何か見つけたらしい雰囲気が伝わってきた。取っ掛かりすらないタコ社長は、気分を変えるためにキャロラインママのところにやってきたのだ。
「あら珍しい・・・なにか行き詰っているようね」
眞露の水割りが目の前に置かれたタコ社長は、さきほどまでのいきさつを話して聞かせた。
「ふうん・・・DJ KOOからのフルハウスねえ・・・面白いじゃない」
いつものようにクールなキャロラインママの表情は、何を考えているかわからない。まったくのポーカーフェイスだ。
すると彼女、いや彼は、左のピンヒールを軸にし、右足のつま先で床を蹴り反時計回りに回転を始めた。タコ社長の前で初めて見せる秘儀、スタンディング・キャロライン・トルネードだ。
その回転がどんどん速くなり、ついにはトリプルアクセルをスローモーションで再生したときのように顔が激しくゆがんだときに、回転はゆっくりとおさまっていった。
やがて、完全に静止したキャロラインママはいった。
「社長さん、ポーカー、スペース、役一覧で検索して、上位に表示されたサイトをみてみて」
言われるまま、タコ社長はスマホを操作した。ふんふん、なるほどなるほどなど言いながら、タコ社長はスマホをスクロールする。10分後、スマホを上着のポケットにしまったタコ社長は、眞露を一口だけ飲んでから津田梅子を一枚カウンターに置いた。
「あら梅ちゃんじゃないの。ええとお釣りを今用意するわね」
「釣りはいらねえぜ。情報料だ!」
ちょっと待ってと声を掛けたキャロラインママを無視して、タコ社長は店を出て行った。
「あらあら・・・まあ、素直に受け取っておこうかしら・・・・・向こうで4人が待っているわ。社長さんが揃えば、フルハウスの完成ね」
■ 遅れてきたシンデレラ
タコ社長がふたたびギョニ子の左に座り、それぞれの成果を発表することとなった。まずは真一郎とギョニ子のペアだ。真一郎がいった。
「そんなに大きなネタではないですが、藤田菜七子引退で閲覧できなくなってしまった、KBAZNからのネタです」
ギョニ子が続く。
「サッシャが塗り絵の説明を、ラジオNIKKEIの米田元気アナから受ける場面。その東京7レースを勝ったのが、アスクカムオンモアって話は以前したわよね?」
三人がうんうんと頷く。
「アスクの馬主、廣崎利洋氏が所有していた馬で、最大の活躍馬といえば・・・」
「ストレイトガールだな!」
タコ社長が口を挟んだ。
「ヴィクトリアマイル連覇にスプリンターズステークス」
真一郎が大きく顎を引いていった。
「そうです。ストレイトガールの『ストレイト』。ポーカーの役にありますね」
タコ社長が悪くねえなといった。控えめな称賛だが、内心はニンマリとしていた。
次は、マスターと麗子ママの番だ。
■ シンクグローバル
マスターがスマホをみんなに見せながらいった。
「私たちが使った素材はこれです。島耕作」
三人が顔には一様に、意外だなという表情が浮かんだ。
「へえー。島耕作ですか?」
真一郎がいった。
「何度か読み返してみましたが、トランプやポーカーにつながる場面なんてあったかな?・・・・」
麗子ママがいった。
「シンクグローバルという馬が主役だったわよね? デビュー戦が東京芝2000メートル。ゼッケンは4番。着順は1着」
麗子ママが話している間、マスターはパソコンで競馬ソフトのターゲットフロンティアを操作していた。
そして、検索結果をみんなに見せていった。
「このソフトで検索できる1986年以降、この条件に該当する馬はたったの6頭です。アイズオンリーは、着順が2着となっていますが、これは入線順位。1位入線馬が降着したために、確定着順は1着となっています」
麗子ママが続ける。
「さあ、シンクグローバルの第2戦は、右回りの競馬場、10番で2着」
「この6頭の中で、この戦歴に合致する馬はただ一頭。今、名前があがったアイズオンリーよ」
みんながうんうんと頷く。
「このアイズオンリーのデビュー戦の日に、大きな仕掛けがあったわ!」
話を聞いていた三人からは、固唾を飲む気配がした。アイズオンリーがデビュー戦を勝った日。この日のメインレースに、シナリオにつながるものがあるに違いない。
マスターはそこで、いったんパソコンの画面を自分の側に向けた。三人からはパソコンの背面が見えている。マスターがいった。
「私たちが菊花賞で狙っているのはフルハウスの完成です。そして、さきほどしんちゃんたちから出てきたのがストレート」
マスターはそこで、タコ社長のほうを向いた。
「社長さん、ポーカーの役を強さ順に並べると、ストレートとフルハウスの間にもうひとつ役がありますね?」
問われたタコ社長の表情が、一瞬にして凍り付いた。
それから彼は、天井を数秒見上げてから戻し、目を閉じて首を左右に数回振ってから静かにいった。まるで、負けを認めた将棋の棋士が、形づくりのための最後の一手を指すときのように。
「・・・・フラッシュ・・・・・だな?」
マスターは満足そうに大きく頷くと、パソコンの画面をゆっくりとみんなのほうに見せた。
2012/10/28 アイズオンリー デビュー日
同日同場メイン 第146回 天皇賞(秋)天覧競馬
「きゃーーー! エイシンフラッシュ! しかも12番じゃない!!」
ギョニ子が、胸の前で小さく拍手をしながらいった。
■ RSF
「さあ、最後は俺の番だな」
タコ社長がいった。
「しっかり仕上げるから、瞬き厳禁だぜ!」
みんながタコ社長のほうに注目して、前傾姿勢となる。
「DJ KOO・・・ギョニ子が挙げてくれたように、DJはドラマ『フルハウス』とつながる。だがそれだけじゃなかったぜ。いいかい? ポーカーの役には、フルハウスの上にもまだ強い役が3つある。ひとつ上がフォーカード、その次がストレートフラッシュ。そして最上位が・・」
「ロイヤル・ストレート・フラッシュ!」
真一郎がいった。タコ社長が軽く頷く。
「俺もそう覚えてた。マッチの歌にあったものなあ・・・だがしかし。ポーカーのサイトをいろいろ見てみたら、ストレートを省いてロイヤルフラッシュでいいらしいんだ。頭文字ならRFだな?」
みんながうんうんと頷く。マスターの頷き方が一番大きいのは、すでに先がわかったからだろう。
「ロイヤルフラッシュは、10、J、Q、K、Aの順だな? 最も小さい数字の10・・・これが、ポーカーの指南サイトによってはTと表現されてるんだ。テンのTだ」
みんなが黙って次の言葉を待つ。
「つまりだ! Tから始まるストレートフラッシュが、RF・・・ロイヤルフラッシュってわけさ!」
「TRF!! DJ KOOといえばTRFだわ!!」
ギョニ子がそういって立ち上がった。
マスターと麗子ママもおおという声を挙げ、拍手をしようとしたときだった。真一郎が、顔の前で両腕を大きくクロスし、みんなの拍手を制止する。
「拍手はまだですよ! 社長さん、最後のネタをどうぞ!」
虚を突かれたタコ社長は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
「さ、最後のネタ? いやあ、これでおしめえなんだが・・・」
「え!? 本当ですか? ではありがたく、ごっつあんゴールを決めさせてもらいます!」
真一郎は、勝った力士が懸賞金の束を受け取るときのように、右手で心の文字を描いてからいった。
「ポーカーの最高役ロイヤルフラッシュ。Tから始まりAで終わる。Aは、Kの次ですから、ここでは数字の14ですよね?」
みんながうんうんと頷く。誰かからはっと息を飲むような気配がある。
「今年、馬名がTから始まり、14番でGⅠを勝った馬が一頭だけいます!!」
「テーオーロイヤル!!」
マスターが叫んだ。
「なるほど、ロイヤルフラッシュを示唆していますね!!」
2024 天皇賞(春)
14番(テー)オーロイヤル
テー(T)=10
14=A
三人が真一郎に拍手を送る中、タコ社長はしゃがみ込んで頭を抱えていた。これを決めれば試合終了というPKを外した、サッカー選手のように。
スナック忘れな草
菊花賞 注目ゲート
12番(5のワンペア、Qのスリーカードのフルハウス完成)
to be continued
トップ画像引用:サントワマミー【歌詞付】/ 忌野清志郎