競馬小説カフェ・ド・イーグル~タイムマシンにお願い・2025すばるS・初凪賞~
トップ画像引用:ENCOUNT
■ ロケットスタート
2025年1月10日(金)午後7時
-岩手県某市早起村 町中華「中華雑技団」-
アポロとアグネスに店を任せて、くろたんは経営する町中華「中華雑技団」を出た。向かう先は向かいにあるカフェ・ド・イーグルだ。
道路を渡りながら、頭の中で何度もシミュレーションした会話をもう一度さらった。
「やあ、くろたん! 正月競馬は見事な幕開けだったじゃないですか! 月曜日の本命馬3連勝、なかなかできることじゃないですよ」
「ふふふ。ほんの序の口ですよ・・・そういうみなさんだって、本命ロジリオン3着、対抗サクラトゥジュール1着の京都金杯は素晴らしかったですよ」
完璧だ。あくまでも会話の取っ掛かりはあいつらだ。こちらから話すのでは自慢していると思われる。差し詰め、気が利く聖子ママあたりが話題を振ってくることだろう。
浮かび上がる笑みを押し殺し、くろたんはカフェ・ド・イーグルのドアを開けた。
「あら、くろたんさん!待ってたわ!」
聖子ママが満面の笑みで話しかけてきた。ほうら。さっそくお出ましだ。
「大量に作ったお雑煮がちょうど一人前余ってたの。今から温めるわね」
なんだよ、お雑煮って。俺は残飯処理係じゃない。
「・・・ほう、お雑煮ですか。いいですねえ、ちょうど小腹がすいていたところです」
怒りを抑え無難な社交辞令で取り繕い、くろたんはイカ社長の右に座った。
数分後、目の前にお雑煮が置かれたときに貫一郎がやってきた。カウンター右端、すでに店に来ていたケチャ子の右に座る。
生ビールを注文し、貫一郎は両耳に装着していたイヤホンを外した。
「おお貫ちゃん。最近は何を聴いてるんだい?」
イカ社長の質問に貫一郎が答える。
「池井戸潤の『下町ロケット』です。紙では一度読んだことがあるのですが、オーディブルでも聴いてみようと思いまして」
「『下町ロケット』か・・・」
イカ社長はそういって、隣のくろたんを見た。
「『ロケット』といえばくろたん・・・」
ほう。そういう趣向だったか。くろたんは心の中でニヤリと笑った。貫一郎が聴いている『下町ロケット』からの流れで、私のロケットスタートを祝おうという魂胆だ。くろたん、見事なロケットスタートでしたねと。
「なんでしょうか?」
「ロケット型の巨乳を持つグラドル。誰が好きだい?」
なんだよくだらない。このハゲ親父はいい年していつもそんなことを考えているのか。
「ロケット型の巨乳を持つグラドルですか・・・ちょっと思い浮かびませんねえ」
「ちょっとくろたん!」
ケチャ子が鋭い声を発した。
「ロケット型の巨乳といったらあたしがいるじゃない!」
ケチャ子は両手で乳の下を支えるポーズをし、唇をわざとらしく尖らし、ブブッピドゥーとマリリン・モンローの真似をする。
くろたんは軽く嘆息し、響のロックを舐めた。こいつらはダメだ。あとはミスターしかいない。
ミスターがいった。
「ロケットといえば、見事なロケットスタートでしたね」
ほうらやっときた。さすがはミスターだ。ここは少しじらそう。
「ロケットスタートというと?」
「おやおや、おとぼけですか? 正月はお店が大繁盛だったじゃないですか。『中華雑技団』が満員で入れなかったという客が、うちにずいぶん流れてきましたよ。ねえ、ママ?」
「そうよ、くろたん。おかげさまでおこぼれにあずかれたわ。そのお雑煮はサービスね」
「そうでしたか。あの数日間はてんてこ舞いでしたよ」
くろたんはそういうと、お金をカウンターに置きドアへと歩いて行った。
「あら、もうお帰り?」
背中から聖子ママの声が聞こえてきたが、くろたんは軽く右手を挙げてそのまま店を出た。
「ミスター、ちょっとやりすぎだったんじゃねえか? メジャーリーグでホームランを打ったバッターに、サイレント・トリートメントをする場面があるが、最後にみんなで祝福するオチがあってこそだ」
イカ社長が腕を組んでいった。
「大丈夫ですよ。あとでフォローしておきます」
ミスターがいった。
「今年のくろたんはひと味違うと思っています。Xの固定ポストに、本命馬の収支を貼り付けてあるのがその現れです」
「調子が悪くなったらこっそり固定ポストを入れ替える・・・そんなことはせず、一年間収支報告を続けると思いますよ」
なるほどなあとみんなが頷いた。
■ 藤岡佑介
東西金杯を振り返ろうという話になり、イカ社長が口火を切った。
「京都金杯がサクラ馬名のサクラトゥジュール。んでもって中山金杯が藤岡佑介のアルナシーム・・・桜花賞ウィークに落馬した藤岡康太を思い出したのは俺だけかなあ・・」
「いや、僕もそれ思いました!」
貫一郎がいった。
「でも、それってどういう意味なんでしょうね? おめでたい正月競馬なのに・・・」
「正月競馬だからこそ、かもしれませんね」
ミスターがいった。みんなが注目する。
「藤岡康太騎手に限らず、昨年は若手騎手の引退が相次ぎました。落馬した藤岡康太騎手以外は、自身の不適切な行動がもとです」
みんながうんうんと頷き、店内に沈黙が下りた。
角田大河騎手は競馬場内を車で走行したことが、藤田菜七子騎手と永野猛蔵騎手は、スマートフォンの不適切な使用が原因だ。
「今年はそのような事態が起きないようにという、JRAからのメッセージかもしれません。落馬事故は競馬が続く限りゼロにはできませんが、スマートフォンの不適切な使用は、騎手の心構えひとつでゼロにできることです。岩田康誠騎手の処分は、疑わしきは罰するというJRAの姿勢を示したものでしょう」
昨年12月、移動中にスマートフォンで動画を閲覧したとして、岩田康誠騎手が30日間の騎乗停止処分を受けている。それを受けた週に、何人かのジョッキーが岩田康誠騎手の名前入りパンツを履いて騎乗したことが話題となった。
これに対してネットでは、JRAの処分を不服とする騎手たちの、メッセージではないかという意見が散見された。
■ ドウデュース
「東西金杯の勝利ゼッケンだけど・・」
ケチャ子がいった。
「ドウデュースのゼッケンともとれるわね。中山金杯の2番は、幻のラストランとなった有馬記念のもの。一方京都金杯の7番は、秋天の7番でしょ? 秋天と同じ芝2000の中山金杯でも、2着が7番マイネルモーントだったわ」
みんながなるほどと頷いた。
■ レガシー
「さあ、今週は3日間開催だな。レース数が多い分目移りするが、勝負レースをきっちり見分けたいところだぜ!」
イカ社長がパンと手を叩いていった。
「そこでだ。ふたつあるマイル重賞の前に、俺は土曜日中京メインのすばるステークスが気になるぜ」
イカ社長の推理はこうだった。すばるといえば自動車メーカーのスバル(SUBARU)だが、今年3月にレガシィアウトバックが生産終了となる。今年のすばるステークスは、レガシー馬名馬がサインを送るのではないか。
「それは面白いかもしれませんね」
ミスターが前のめりになった。
「スバルはトヨタ自動車の傘下ですから、中京代替となる今年のすばるステークス、なにかありそうですよ」
みんながおおという声を挙げた。検索すると、現役のレガシー馬名馬は2頭いた。
テーオーレガシー
ラストレガシー
「ラストレガシー!」
ケチャ子が大きな声を出した。
「おあつらえ向きの馬がいたじゃない!」
ミスターがパソコンでさっそくラストレガシーの戦歴をチェックする。未勝利馬だから直近レースに注目だ。
2024/8/17(土)札幌2R
1着:3-03 ルージュロマーネ
2着:8-13 スティーヴバローズ
3着:1-01(ラストレガシー)
すばるS
2-(03)ナスティウェザー
「勝ち馬のゼッケン重視なら、同じ3番のナスティウェザーだな」
イカ社長がいった。
「一富士二鷹三茄子・・・1番に富士がいるからいいんじゃねえか?」
すばるS
1-01 伊(藤)圭三
2-(03)(ナス)ティウェザー
みんながなるほどと頷いた。
■ ドリフターズ
「ナスティウェザーの2枠。加藤と高木の同居ですね」
貫一郎がいった。
すばるS
2-03 ナスティウェザー(加藤)征弘
2-04 バトルクライ (高木)登
「加藤茶に高木ブー・・・」
聖子ママが少し眉根を寄せていった。
「ドリフターズの残ったメンバーよね?」
それを受けてミスターがいった。
「ドリフターズのドリフト・・・車関連レースには一応お似合いといえますね」
みんなが頷いた。
■ ナイス・エイジ
それから30分ほどは2枠を強調する材料が見つからず、10分間の休憩を取った。
休憩中もパソコンを操作していたミスターが、みんなが揃ったのを見計らって話しだした。
「先週の京都金杯。巳年スタートということでスネークマンショ―とYMOに注目しましたよね?」
みんながそうそうと頷いた。
1/5(日)中京3R
1-01 エッグハント(鮫島克駿・小林真也)
「克」&「小林・也」 → 「小林克也」
3-06(テクノ)グルーヴ(幸)英明
(4-07)
4-08(ピコ)ビジュー(高橋)一哉
「高橋」&「幸」 → 「高橋幸宏」
京都金杯
(1-01)ロジリオン 3着
(4-07)サクラトゥジュール 1着
「小林克也3着、高橋幸宏1着。スネークマンショ―馬券が実際にあったとしてですが、裏の中山金杯では2番が勝った」
みんなが頷いて先を促した。
「YMOのアルバム『増殖』ですが、2曲目は『ナイス・エイジ』という曲です。その曲の中で、福井ミカがニュースを読む場面が使われています」
「福井ミカ・・・・サディスティック・ミカ・バンドか!」
イカ社長がパシっとおでこを叩いた。初期のサディスティック・ミカ・バンドには、角田ひろ脱退後のドラムスとして高橋幸宏もいた。ミスターが満足そうに頷いて続ける。
「ドリフターズといえばザ・ビートルズの、サディスティック・ミカ・バンドといえばロキシーミュージックのオープニングアクト、つまり前座を務めています」
みんながなるほどと頷いた。
「サディスティック・ミカ・バンドには、当時福井ミカの夫だった加藤和彦がいました。すばるステークスの2枠3番の加藤征弘は、加藤和彦のことも示唆しているのかもしれません。中山10レースの初凪賞の2枠を見てください」
1/11(土)
中山10R 初凪賞
2-03(加藤和)宏
2-04(加藤征弘)
すばるS
1-02 ロードラ(ディ)ウ(ス)
2-03 ナス(ティ)ウェザー(加藤征弘)
2-04 バトル(ク)ライ
2.3.4番 → サ(ディスティ)ッ(ク)
みんながなるほどと頷いた。
■ あの素晴らしい愛をもう一度
ミスターが続ける。
「加藤和彦といえば、北山修とのコンビで発表した曲もありましたね」
「『あの素晴らしい愛をもう一度』ね」
聖子ママがいった。貫一郎がえっという声を挙げた。
「あの曲、加藤和彦の曲だったんですか?」
そうよと答える聖子ママに貫一郎がいった。
「中学生のころだったかな・・・校内の合唱コンクールで、僕のいたクラスの課題曲がそれだったんです」
「スバル、レガシィ・・・」
イカ社長が腕を組んでいった。
「あの スバルレガシィ 愛をもう一度・・・・ってか?」
みんなが失笑した。くだらないが一応ダジャレにはなっている。
「よし! すばるステークスはナスティウェザーで行きましょう! 鞍上はフォーエバーヤングの坂井瑠星。2024年度JRA賞、特別賞のお祝いがあるかもしれません」
ミスターの声に、みんなが同意した。
「サディスティック・ミカ・バンド馬券なら・・」
ケチャ子がいった。
「女性ボーカルが必要じゃない? 相手は15番の永島まなみ。調教師は高橋幸宏からの高橋康之だし、馬名はサディスティック・ミカ・バンド同様、『サ』から始まるサトノルフィアンよ!」
すばるS
8-15(サ)トノルフィアン
永島まなみ・高橋康之
みんながおおという声を挙げ、ナスティウェザーの相手は15番サトノルフィアンとなった。
ケチャ子はカラオケのリモコンを操作すると、サディスティック・ミカ・バンドの曲を入れた。
ケチャ子が歌う『タイムマシンにお願い』を聞きながら、そういえば今年のJRA年間プロモーションは、「Hello, Special Times.」だったなとミスターは思いだしていた。
カフェ・ド・イーグル
すばるS 勝負馬券
◎3番 ナスティウェザー
〇15番 サトノルフィアン
単勝:3番、15番
馬連・ワイド:3-15
3連複:(3.15)-(4.7.10.12)4点
■ 初凪賞
10分間の休憩後、土曜中山10Rの初凪賞が気になるといったのは貫一郎だった。
「すばるステークスと初凪賞。調べてみたら同日施行は初めてなんです」
みんなが貫一郎に注目した。まだ話が見えない。
「すばるといえば元関ジャニ∞の渋谷すばる。YMOの『増殖』にも同じ∞の記号が使われてますよね?」
みんなが頷いた。渋谷すばるは、阪神開催だった2021年の春の天皇賞でJRAとコラボした実績があり、悪くない推理だ。
「その渋谷すばるからの渋谷凪咲・・・ちょっと強引ですが、あさって日曜の中山9レースに初咲賞があるんです。同じ『初』から始まる中山の特別戦・・・初咲賞と初凪賞が同一週に施行されるのは2010年以来15年ぶり・・・すばるステークスと合わせて、渋谷凪咲というわけです」
1/11(土)
中山10R 初(凪)賞
中京11R すばるS ≒(渋谷)
1/12(日)
中山09R 初(咲)賞
→ 渋谷凪咲
「なんとなくはわかったぜ・・」
最近の芸能界にうといイカ社長がいった。
「んで、その渋谷凪咲からの狙いはなんだい?」
「初凪賞の4枠8番アイアムイチリュウです。渋谷凪咲は元NMB48ですから」
初凪賞
(4)-(8)アイアムイチリュウ(菅原隆一)
「菅原隆一!」
ミスターがパンと手を叩いていった。
「昨年末、フリーになることが発表されたばかりですが、今週今度は、小手川準厩舎への所属変更が発表になりましたね」
みんながおおという声を挙げ、貫一郎は満足そうに頷いた。そのニュースも込みでの狙いだったようだ。
「そうなんです。菅原隆一といえば映画『釣りバカ日誌』の鯉太郎役・・・昨年10月17日に西田敏行さんが亡くなってから、菅原隆一はまだ馬券になっていません。今年の初騎乗が鈴木慎太郎厩舎の馬・・・スーさんです。そして今日は、西田雄一郎厩舎の馬も後押ししています!」
映画『釣りバカ日誌』
鈴木一之助:三國連太郎
浜崎 伝助:西田敏行
浜崎鯉太郎:菅原隆一
1/6(月)
5-09 ブリンブリン(鈴木)慎太郎
※ 菅原隆一 2025 初騎乗
1/11(土)
中山8R
(4-08)カラフルメロディー(西田)雄一郎
中山10R 初凪賞
(4-08)アイアムイチリュウ(菅原隆一)
「よし!」
イカ社長がいった。
「貫ちゃんのネタに乗っかるぜ! ここは単複で勝負だ!」
みんながうんうんと頷き、カフェ・ド・イーグルの勝負馬券が決まった。
1/11(土)
中山10R 初凪賞
◎8番 アイアムイチリュウ
単複:8番
■ 編集後記
・1/12(日)中山9R 初咲賞
今日の初凪賞が不発でも、明日の初咲賞に楽しみが残っています。
両レースが同一節で最後に施行されたのが2010年でした。
2010/1/16(土)
中山9R 初凪賞 16頭
枠6-8-8・馬11-16-15
2010/1/17(日)
中山9R 初咲賞 13頭
枠6-7-7・馬9-10-11
「1着6枠」、「2.3着ゾロ目」という共通点。
渋谷凪咲がNMB48に加入したのが2012年。
それから初となる、「しぶや(すばるS)」「凪」「咲」勢揃い週ですから、なんらかの連動があるかもと思っています。
・ファイナライズのどうでもいい近況
昨年末にAmazonのFIREタブレットを買いました。
最近は朝起きると、アレクサにあれこれ聞いています。
今日のやり取り。
「アレクサ、今日生まれた有名人は?」
「誕生日が1月11日の人たちは、映画女優のソン・イェジン、女優の江利チエミ、俳優の深津絵里・・・」
今、たまたま小川洋子の『博士の愛した数式』を読んでいて、映画『博士の愛した数式』での家政婦役が深津絵里だったのを覚えていたので、訊いてみました。
「アレクサ、映画『博士の愛した数式』のテーマソングは?」
「Amazonミュージックでみつかった、葉加瀬太郎の曲です」
「アレクサ! 葉加瀬太郎じゃねえよ!」
「・・・・・すみません。お役に立てません」
その数分後、葉加瀬太郎の「情熱大陸」を聞いていました(笑)