競馬小説カフェ・ド・イーグル~コウノトリ・小倉2R~
トップ画像引用:天皇皇后両陛下(皇太子さま 雅子さま)の婚約内定会見
■ 惨敗
2025年1月25日(土)午後7時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-
常連客が勢揃いしたカフェ・ド・イーグルだが、店内は重苦しい雰囲気が漂っていた。
渾身の予想と踏んでいた第1回の小倉牝馬ステークスが、5枠も8枠も5着以内に一頭もいないという、大惨敗を喫したからである。
しかも、原爆投下というシナリオを読み始めるきっかけとなったのがミスターのメモであり、そのミスターは現在自宅療養中だ。誰も口にはしなかったが、取り上げたネタが悪かったという空気があった。
いない人のせいにするのはたやすいが、シナリオ読みを進めていったのはあくまで自分たちである。怒りのやり場のなさが、みんなの口を重くしていた。
「『勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。』・・・か」
イカ社長が声を絞り出すようにいった。
「なんでしたっけ、それ?」
「野村克也監督の言葉さ。負けるべくして負けた。つまりちゃんと理由があるってことだな」
なるほどと頷いた貫一郎だったが、次の言葉は出てこなかった。今日もカウンター内で聖子ママの手伝いをしている貫一郎は、明日日曜が最後の手伝いとなる。月曜からはミスターが復帰するからだ。
「広島と長崎・・・読みは悪くなかったと思いますよ」
そのとき、そういって入ってくる男がいた。向かいの町中華「中華雑技団」のオーナー兼料理人、くろたんだった。
「JRAの発信する媒体にそれらしきものがありました・・・ま、それはあとで教えるとして、明日は平場でまず勝負をかけてみますよ」
■ マンスリーカレンダー
「平場のレース? 早い時間帯のレースも勝負するのね」
ケチャ子の問いに、くろたんは顎を引いた。聖子ママが用意した響のロックをひと舐めする。
「というより、平場のほうが相性がいいのかもしれません。出馬表読みとその日の流れを読んでの勝負。これで毎週凌いでいます。流れを読みながらの勝負なので、どうしてもリアルタイムの発信が難しいところがありますが」
「なるほどねえ」
聖子ママがいった。
「で、勝負レースのネタは?」
「優駿のマンスリーカレンダーです。明日26日のところに、GⅠ馬ルヴァンスレーヴの名前があります。最後の勝利はチャンピオンズカップ」
優駿マンスリーカレンダー
1/26 ルヴァンスレーヴ
最後の勝利
2018 チャンピオンC D1800
1着 2-2 ルヴァンスレーヴ M.デムーロ
1/26
中京1.8.10R (2-2) M.デムーロ
中京1R (D1800)
◎(2-2)クインズショコラ(M.デムーロ)
「2018年のチャンピオンズカップ、ルヴァンスレーヴのいたゲート2枠2番に明日、ミルコ・デムーロが3鞍騎乗します。チャンピオンズカップと同条件の中京ダート1800戦である、1レースのクインズショコラ。これが朝のメイチ勝負となります」
みんながなるほどと頷いた。くろたんは琥珀色の液体を喉に流し込むと、ドアのほうへ歩き始めた。ドアに手を掛けたところで振り向きいった。
「そうそう。重賞インフォメーションがリニューアルされました。なかなか興味深い作りになっています。みなさんの原爆投下ネタ・・・あきらめるのはまだ早いかもしれませんよ」
■ 重賞インフォメーション
くろたんが店の外に出ていくのを確認し、みんながスマホを手に取った。最近は重賞インフォメーションを題材に取り上げていなかったので、リニューアルされていたことも話題にはあがっていなかったのだ。
「あ、ほんとだ! 過去の優勝馬がそれぞれの重賞で紹介されるのではなく、冒頭に一頭だけ紹介されていますね」
貫一郎の言葉にイカ社長が続いた。
「2010年のネヴァブションか・・・渋いところ持ってくるぜ!」
重賞インフォメーション
過去の優勝馬 2010 AJCC
6-09 ネヴァブション(連覇・横山典弘)
馬主:ティーエイチ(現:廣崎利洋HD)
「原爆投下につながるってどういうことかしら?」
ケチャ子がいった。聖子ママが答える。
「ネヴァブションのゲート、6枠9番・・・6日が広島、9日が長崎だったわね?」
ああそうかとケチャ子と貫一郎があげた声にかぶせるように、イカ社長がいった。
「いや、それだけじゃねえぜ! ネヴァブションのオーナーも広島と長崎を暗示してる。このAJCC連覇時はティーエイチという名義だったが、その後本名の廣崎利洋に変更なっている。廣崎・・・つまり広島と長崎さ!」
ネヴァブション(ティーエイチ → 廣崎利洋)
廣(広)→(広)島
崎 → 長(崎)
みんながおおという声を挙げた。やはり今週は「終戦80周年」や「原爆投下」がテーマなのだろうか。
■ エリア51
約10分後に貫一郎が、ネヴァブション登場が今週の時事ネタにもつながっていることを発見した。
「ネヴァブションが勝ったAJCCを連覇したのは第51回。今週、イチローがアメリカの野球殿堂入りしたことが話題になりましたよね?」
みんながうんうんと頷く。
「イチローといえば『エリア51』なんてニックネームがありましたが、『エリア51』の本来の意味は、ネバダ州にある施設のことみたいです。ネヴァブションの『ネヴァ』に第51回。つながりますよね?」
みんながなるほどと声を挙げた。
ネバダ州レイチェルにある、アメリカ空軍ネリス試験訓練場内の機密性の高い施設は、通称「エリア51」と呼ばれている。
「イチローからなにがあるかしら?」
ケチャ子の問いに、みんなで読みを進めていくような興味深い答えは返ってこなかった。
鈴木姓、背番号からの51、イチローからの16など、取り上げたらキリがない。51や16にしたって、枠連と馬連の両方で出る可能性がある。イチローだからこのレースという、レース特定がまずできないと、いたずらに資金を溶かす結果となる。
■ パーフェクトゲーム
10分程度の休憩をとったあと、とりあえずイチローはわきに置いておいて、他のネタを探そうということになった。
JRAニュースから、面白そうなネタを見つけたのは聖子ママだった。
「貫ちゃんがあげてくれたイチローの『エリア51』。エクセル博多のニュースにも『エリア』というワードが使われているわ」
「お! 野球ネタがビンゴなら、ミスターパーフェクトのことかもしれねえぜ?」
そのニュースを読み進めていたイカ社長がいった。ニュース内に「完全」というワードがあるという。
「いいかい? エクセル博多といやあもちろん福岡県だ。福岡で完全とくりゃあ、槙原寛己、ミスターパーフェクトさ!」
みんながなるほどと声を挙げた。調べてみると、槙原寛己が完全試合を達成しいた日にサードを守っていたのが長嶋一茂であり、明日26日が長嶋一茂の59回目の誕生日であることも後押しとなった。
貫一郎がいった。
「槙原寛己の次に完全試合を達成したのが、今週ドジャース入りが発表された佐々木朗希ですよね? 背番号はいずれも17です!」
みんながおおという声を挙げた。
重賞インフォメーションからのイチロー。エクセル博多からの佐々木朗希。いずれも今週話題になった野球人だ。問題は、JRAがどこでサインを使ってくるかだ。
「槙原寛己と佐々木朗希。それぞれの完全試合達成日をまずは見てみるわ」
ケチャ子がそういってスマホを操作した。槙原寛己は5月18日、佐々木朗希は4月10日が完全試合達成日だった。
1994/5/18 福岡ドーム 対広島戦
槙原寛己(巨人・背番号17)
2022/4/10 ZOZOマリンスタジアム 対オリックス戦
佐々木朗希(ロッテ・背番号17)
<1/26(日)出走馬>
4月10生まれ
小倉02R 2-03 ベイビーキッス
中山02R 8-16 キタノラブミー
小倉08R 5-06 レグロスヴァーグ
小倉10R 3-05 スピーディブレイク
中山10R 8-14 エメラルドビーチ
5月18日生まれ
中山06R 2-04 ディズレーリ
小倉09R 3-06 ウインアステロイド
中京12R 5-07 アスクドリームモア
<1/26 調教師>
4月10日生まれ
松永幹夫
5月18日生まれ
柴田 卓(未開業)
※4/10生まれ、5/18生まれの現役騎手はなし
「ちょっと対象馬が多すぎるわね・・」
ケチャ子が眉根を寄せた。貫一郎が助け舟を出す。
「小倉2レースのベイビーキッスなんてどうでしょう? 重賞インフォメーションのネヴァブションを厩務員時代に担当していた、青木孝文厩舎です」
1/26(日)小倉2R
2-03 ベイビーキッス(菊沢一樹・青木孝文)
ネヴァブション(AJCC連覇)
担当厩務員:青木孝文(現調教師)
みんながなるほどと声を挙げた。前売り開始後間もないためオッズは固まっていないが、前走3着にも関わらずあまり売れておらず、単勝で10倍はつきそうだ。
「2枠3番っつうのがいいじゃねえか? 終戦記念日がテーマなら皇室が絡んでくるはず。23は上皇陛下と徳仁天皇の誕生日だよな?」
上皇陛下 1933年12月23日生まれ
今上天皇 徳仁 1960年 2月23日生まれ
「鞍上の菊沢一樹!」
聖子ママが続いた。
「父の菊沢隆徳には徳仁の『徳』があり、義理の兄は"天皇陛下"の横山パパだわ!」
2-03 ベイビーキッス(菊沢一樹)
23 → 上皇陛下・今上天皇 誕生日
菊沢一樹 → 父菊沢隆徳・伯父横山典弘(≒今上天皇)
「皇室といえば・・」
貫一郎がいった。
「明日の隠れ取消2頭。騎乗予定だった騎手2名で上皇陛下『明人』になります」
1/26(日)隠れ取消(枠順確定前取消)
中山10R サザンエルフ 菅原(明)良
小倉02R アッケシ 小沢大(仁)
→ 上皇陛下(明仁)
みんながおおという声を挙げた。ケチャ子がとどめをさす。
「ベイビーキッスのとなりにいる1枠2番コトリノウタウウタ。馬名にコウノトリが入ってるわ! 天皇陛下が皇太子のころにコウノトリの話をしてなかったかしら?」
「そうそう!」
聖子ママがうれしそうにいった。
「婚約内定の会見だったかしら・・記者に子供は何人くらい欲しいかと問われて、それはコウノトリのご機嫌に任せてって答えたのよね」
「それな! ていうかママが知ってるのは当然として、ケチャ子おめえよくそんなの知ってたな? さては年をごまか・・」
「シャーーラップ!! 誰が年齢詐称よ! 幅広い知識があるとほめてもらいたいわ!」
ケチャ子はイカ社長に最後までいわせず、腕を組んでひと睨みしたのでみんなが笑った。
貫一郎がまとめる。
「よし! ネヴァブションとエクセル博多と終戦ネタからのベイビーキッス。ベイビーの隣には白いコウノトリがいるということで、ベイビーキッスの単複で勝負しましょう!」
みんなが同意し、カフェ・ド・イーグルの勝負馬券が決まった。
小倉2R
1-02 コトリノウタウウタ
2-03 ベイビーキッス
カフェ・ド・イーグル
小倉2R 勝負馬券
◎3番 ベイビーキッス
単複:3番
■ プロキオンS
10分間の休憩後、プロキオンステークスの予想検討となった。こちらはすんなりと軸馬が決まった。9番のサンライズジパングだ。
<2025 中京代替古馬重賞>
京都金杯 7番 サクラトゥジュール
日経新春杯 8番 ロードデルレイ
プロキオンS 9番 サンライズジパング?
9番を推したのは貫一郎だった。小倉牝馬ステークスでは原爆投下ネタは不発だったが、核爆発イコール核分裂の連鎖なら、中京代替古馬重賞というトリオレースで数字の連鎖があるという読みである。
「馬名もいいじゃねえか?」
イカ社長がいった。
「サンライズ・・日の出、ジパングは日本。2発の原爆にも負けず、日はまた昇るってな」
「相手が難しいわよねえ・・」
ケチャ子が自ら発した言葉の通り難しい顔をしていった。
「小倉牝馬ステークスからの読みなんだけど・・」
聖子ママがいった。
「第1回の1着同着で思い出したのよ。シンコウウインディって覚えてるかしら?」
ケチャ子と貫一郎は首を傾げたが、イカ社長は頷いていった。
「懐かしいぜ・・・たしか第1回のユニコーンステークスを勝ったんじゃなかったかい?」
「そうよ、社長さん! そのレースは1着同着じゃなかったけれど、シンコウウインディが次に勝った重賞が翌年の平安ステークス。これがトーヨーシアトルとの1着同着なのよ!」
1996/9/28 第1回 ユニコーンS
1-01 シンコウウインディ
1997/1/6 第4回 平安S
7-13 シンコウウインディ(四位洋文)
8-15 トーヨーシアトル 1着同着
ケチャ子と貫一郎がおおという声を挙げた。合わせ技ではあるが、昨日の小倉牝馬ステークスから浮上してくるといっていい。
しかも平安ステークスを勝った年に、シンコウウインディはGⅠ昇格初年度のフェブラリーステークスを制している。つまり、“第1回”GⅠフェブラリーステークスの覇者なのだ。
1997/2/16 第14回 フェブラリーS(GⅠ)
1着:4-08 シンコウウインディ(岡部幸雄)
2着:6-11 ストーンステッパー
※GⅠ昇格初年度
「1着同着の相手が、トーヨーシアトルというのがまた面白いですね」
貫一郎が感心したようにいった。
「エリア51からイチローの話題がでましたよね? イチローの最初のメジャー入団球団はシアトルマリナーズです」
みんながなるほどと声を挙げた。聖子ママが続ける。
「シンコウウインディがユニコーンステークスで背負った1枠1番からサンデーファンデー。そして、平安ステークスで鞍上にいた四位洋文から穴で11番ディープリボーンはどうかしら? 11番は佐々木朗希の新しい背番号でもあるし、シンコウウインディの2着したストーンステッパーの番号でもある」
1996/9/28 第1回 ユニコーンS
1-01 シンコウウインディ
1-01 サンデーファンデー
1997/1/6 第4回 平安S
7-13 シンコウウインディ(四位洋文)
1997/2/16 第14回 フェブラリーS(GⅠ)
1着:4-08 シンコウウインディ(岡部幸雄)
2着:6-11 ストーンステッパー
6-11 ディープリボーン(四位洋文)
「よし! サンライズジパングからサンデーファンデーとディープリボーンで勝負だな!」
イカ社長がまとめて、カフェ・ド・イーグルの勝負馬券が決まった。
カフェ・ド・イーグル
プロキオンS 勝負馬券
◎9番 サンライズジパング
〇1番 サンデーファンデー
▲11番 ディープリボーン
馬連・ワイド:9-(1.11)4点
■ AJCC
残る重賞予想はAJCCのみとなった。聖子ママが気になることがあるという。
「重賞インフォメーションのネヴァブション。白川次郎アナの実況だと思うんだけれど、ゴールの瞬間『2連勝でゴールイン』といってるの」
過去の優勝馬 2010 AJCC
6-09 ネヴァブション(連覇・横山典弘)
前走:2009 有馬記念 12着
みんながなるほどと声を挙げた。
ネヴァブションは上記のように、前走は有馬記念12着で連勝ではない。白川次郎アナはAJCC連覇のことを「2連勝」といっているのだろうが、普通は連覇達成などと実況するはずで、2連勝というと馬にとっての連続したレースと解釈する人が多いだろう。
「するってえと、前走勝ってる馬が怪しい・・・だな?」
イカ社長が先回りして解説してくれたおかげで、聖子ママは話す手間が省けてにっこりと笑った。
「そうなの。明日の3場メイン、前走1着馬は次の3頭よ」
小倉11R 壇之浦S
前走1着馬:なし
中京11R プロキオンS
前走1着馬:1番サンデーファンデー、12番フタイテンロック
中山11R AJCC
前走1着馬:12番 アラタ
「意外と少ないですね」
貫一郎が驚いたような表情をした。
「プロキオンSで挙げたサンデーファンデーがいるのはいいですね。フタイテンロックは盲点でした。ちょっとこの馬からも買ってみます」
ケチャ子が続いた。
「アラタの同枠はネヴァブションの横山典弘、マテンロウレオ。6枠から流してみようかしら」
「面白そうね」
聖子ママが胸の前で手を合わせていった。
「18頭立てのAJCCは初めてでしょ? ダノンデサイルとかレーベンスティールから買ったって面白くないわ。アラタの馬主は村田能光(たかみつ)さん。槙原寛己の完全試合はキャッチャーが村田真一だったはず・・・・枠で6枠から総流ししてみるわ」
6枠から総流ししても十分にペイできるオッズだ。みんなが同意してカフェ・ド・イーグルの勝負馬券が決まった。
カフェ・ド・イーグル
AJCC 勝負馬券
◎12番 アラタ
〇11番 マテンロウレオ
単勝:11番、12番
枠連:6-総流し
ワイド:(11.12)-(2.4.8.11.13.16.17)