スナック忘れな草~舟唄・恋唄・涙唄・2024愛知杯~
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八代亜紀 / 舟唄
■ 肴は炙ったイカでいい
2024年1月10日(水)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
スナック忘れな草の店内には、イカを焼く香ばしい匂いが漂っていた。前日、八代亜紀の訃報が流れたことを受け、タコ社長が麗子ママに注文したのだった。
「73歳っつうのは早いよなあ・・・」
しんみりとした口調でタコ社長が言った。マスターが頷く。
「またひとつ、昭和が遠くに行ってしまったような気がしますね」
「さあできたわよ。お好みで七味マヨネーズをどうぞ」
イカの一夜干しを焼いたものをみんなに配りながら、麗子ママが言った。
「うん、おいしい!鯵ヶ沢の路上で買ったイカを思い出します」
さっそく手をつけた真一郎が言った。昔青森に旅行に行った際、鯵ヶ沢の道路沿いで売っていたイカの一夜干しを食べたことを思い出したという。いつもは魚肉ソーセージばかり食べているギョニ子も、手が止まらない様子だった。
「このちょうどいい塩加減、生ビールに合うわね!」
そう言って生ビールをグビグビとやっている。その後、麗子ママが『舟唄』をしっとりと歌い上げ、ギョニ子は振り付きで『雨の慕情』を歌い、店内は大いに盛り上がった。
さあ、そろそろ今週の重賞検討でもやろうかというとき、店内に勢いよく入って来た男がいた。
■ 怒るでしかし
入って来たのはくろたんだった。上は水色のジャケット、下はクリーム色の細身のスラックス。黒縁の眼鏡をかけ、髪は七三分けで白髪が6割ほど混ざっている。胴体には浮き輪のようなかたちで、底に穴の開いたボートがあり、その側面には「竜雷太」と書かれている。眼鏡の中央を人差し指で押し上げながら、くろたんが言った。
「正月からわしの出番がないっちゅうのはどういうこっちゃ!怒るでしかし!怒るでしかしーーー!!
おっこるーで しかし♪
おっこるーで しかし♪
おーこ おーこおこ おこるでしかし♪」
最後はプロポーズ大作戦のテーマ曲のメロディだった。
「あら、くろたんさん。お見えにならないから心配してましたよ」
麗子ママが女神のような微笑みを浮かべて言った。タコ社長、ギョニ子、真一郎が麗子ママの言葉に頷き、くろたんのほうを見た。
「来たがな!来たら臨時休業の紙貼っとんたんや!どないやねん!怒るでしかし!」
くろたんが眼鏡を指で押し上げながら言った。先週、臨時休業の紙を貼り常連客だけで検討した日があった。くろたんは合言葉を知らなかったため、帰ってしまったという。
「そう言えば、くろたんには合言葉を教えてなかったわね。臨時休業の紙が貼ってあっても、合言葉が合えば入れるときがあるから、今度はそうしてね」
「合言葉ってなんやねん!」
「すごく簡単よ。例えば・・・イクイ?」
「ノックスかいな?」
「そうよ簡単でしょう?ミホノ?」
「ブルボン」
「テイエム?」
「オペラオー。なんや簡単やないかい!これなら百発百中やで!」
そう言ってくろたんはボートを体から外し、タコ社長の右隣りに座った。
「くろたん、合言葉ゲームでウイスキーをゲットしませんか?」
マスターが封を開けていない響のボトルを掲げて言った。
「合言葉ゲーム?」
「はい。今の要領で合言葉の後半を当ててもらいます。5問連続正解でこの響を差し上げます」
「ほんまかいな?眉に唾でっせー」
「まあ試しにやってみましょう」
そう言ってマスターは右手の掌をくろたんの前に突き出した。
「一回千円です」
「なんや!金取るんかいな!」
「そりゃそうですよ。響がいくらすると思ってるんですか・・・それとも、5問連続正解する自信がないんですか?」
「あ、あるがな!千円やな、ほれ!」
マスターの挑発に、くろたんはまんまと乗っかってきた。千円をマスターに渡す。
「では始めますね。ブエナ?」
「ビスタ」
「ジェンティル?」
「ドンナ」
「ダイワ?」
「スカーレット」
「スティルイン?」
「ラブ」
「さあ5問目です。シンボリ?」
「ルドルフ!やったーーー!」
「残念!!」
「あちゃー、クリスエスのほうかいな!?」
「正解はインディです」
「シンボリインディ!渋い!渋すぎるでー、ふたつの意味で!」
くろたんは地団駄を踏んで悔しがった。
「もう一回!もう一回やでー!」
マスターが誘う前に、くろたんは自ら千円を指しだした。
「では再チャレンジ、行きますね。アーモンド?」
「アイ」
「コント?」
「レイル」
「ゴールド?」
「シップ」
「オルフェー?」
「ヴル!来たでー、響にリーチや!」
「シゲル?」
「シ、シゲル!?汚いのうわれ!シゲルの馬なんて何百頭おると思っとんねん!!」
クイズのからくりに気づいたくろたんは、椅子から立ち上がりクレームをつけた。顔が真っ赤になっている。
「まあまあくろたんさん、私たちもそこまで鬼じゃないわ」
麗子ママが言った。
「店内をよーく見てみて。何かヒントがあるかもしれないわよ」
くろたんは店内を見回した。すると、マスターがいつの間にか変装していた。日焼けサロンで焼いたようなチョコレート色の顔に、人工的に真っ白いピカピカと光る歯。白いギターを奏で「愛のメモリー」を歌っている。
「美しい人生よーー 限りない喜びよー♪」
「ほ、ほんまかいな?引っ掛けやないやろな?」
くろたんは腕を組んで言った。マスターの恰好と歌からは、あの人物しかいない。意を決したくろたんは言った。
「マツザキ!シゲルマツザキやでー!」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー!」
「ブブーッ!!残念、ボッシュートです!」
マスターは、ひょうきん懺悔室のブッチー武者のような冷酷なバッテンを両腕で作り、くろたんの千円を没収した。
「なんでハズレやねん!シゲルマツザキやろがい!!」
暴れまくるくろたんに、麗子ママが言った。
「シゲルマツザキなんて馬はいないでしょう?私のこの手を見て?」
麗子ママはそう言って、左手をくろたんに見せた。ピンクダイヤの指輪が薬指に光っていた。
「シゲルピンクダイヤかいな・・・」
くろたんはがっくりとうなだれた。シゲルピンクダイヤと答えていたら、シゲルマツザキが正解と言われたに決まっている。そう思ったがもうクレームをつける気にはならなかった。
■ 時が止まる店
タコ社長にまあまあとなだめられているくろたんだったが、さめざめと泣いていた。愚かだった。なぜ誘いに乗ってしまったのだろう・・・その時、くろたんの前にボトルが置かれた。
「くろたん、冗談ですよ冗談。これは店からのサービスです。二千円もお返しします」
そう言ってマスターは響のボトルを開封し、「令和6年1月10日 くろたん」と書いた札をさげた。
「マスター!!おおきに、おおきにやでー!」
くろたんはそう言って、響のロックをおいしそうに一口飲んだ。
「あ、そうそうくろたん。正月は3日まで休業したのですが、その間にちょっとした工事を行ったんです」
マスターがやや声をひそめて言った。
「実はですねえ、スベるようなことを言ったら、店内の時が止まるような仕掛けになっているんです」
「時が止まる?そんなことありまっかいな!」
くろたんは一笑に付した。タコ社長が言った。
「くろたんさん、試しにやってみようぜ!ズッキーニの歌を知ってるかい?」
そう言ってタコ社長は、都はるみの「好きになった人」を歌った。
さよーなーら さよなーらー♪
ズッキーニ なったひとー♪」
くだらないダジャレではあったが、店内がどっと沸いた。スベらなかったので、時は止まらなかった。
「なんや!そんなのでええんかいな?ほならわしもいきまっせ!ブロッコリーの歌や!」
くろたんがチョイスしたのは、山口百恵の「横須賀ストーリー」だった。
「ぶろっこりー ぶろっこりー もう♪
ぶろっこりー ですかーー♪」
その瞬間、店内が静寂に包まれた。タコ社長は眞露の水割りが入ったグラスを手に持って止まっている。マスターはグラスを磨きながら止まっており、麗子ママはジョッキにビールを注ぐ機械の前でぴくりとも動かない。真一郎は生ビールのジョッキに口をつけた状態で固まっており、ギョニ子はイカの一夜干しを噛みちぎろうとした状態で静止していた。店内の一切合切に動きがない。時が完全に止まっていたのだ。
「な、なんや!ほんまに時が止まったで!」
くろたんはギョニ子の耳元に息を吹きかけてみた。くすぐったがる様子は微塵もない。
「あれや!あれやで!AVでよう見た夢のシチュエーションや!・・・あんなことやこんなことができるんやでーー!!」
くろたんはギョニ子の豊満なバストに手を伸ばそうとした。
「あかんあかん!一線を越えたらあかん!どないしよ」
くろたんは、カウンターの上にあるリモコンのような物体を見つけた。「時が止まったときに使うスイッチ」と書いた紙が貼ってある。くろたんはスイッチを押した。その瞬間、動きを止めていたみんなが一斉に動き出した。
「おお!戻ったでーー!時が再び動きだしたんやー!」
その言葉に麗子ママが反応した。
「ええ!?もしかしたら今、時が止まっていたのかしら?」
タコ社長がくろたんを見て言った。
「さてはスベるようなことを言ったんだね、くろたんさん?」
「やだー、どうしよう」
ギョニ子が泣きそうな顔で言った。
「時が止まってるあいだに、何かされたかも・・・だってほら?口の中がイカ臭いもん」
ギョニ子はそう言って、両手を口で覆いはあーっと息を吐き口の中の匂いを嗅いだ。
「あんたイカ食うてるやんけ!ていうか店ん中全部がイカ臭いんじゃい!!」
くろたんは全力で性加害疑惑を否定した。
「そういやあ、俺はなんだかケツの穴がひりひりするぜ!」
タコ社長がオシリをさすりながら言った。
「するかーーー!!」
タコ社長に殴りかからんとするくろたんに、麗子ママが言った。
「キャロラインママに開発されて、とうとう目覚めたのね、くろたんさん。性加害の連鎖・・・いや、この場合は“連結”と言ったほうがいいかしら?」
タコ社長が麗子ママのパスを受け取って言った。
「ナイスだぜママさん。するってえとここは盛岡だな」
「盛岡?盛岡ってなんやねん?」
「新幹線の“はやて”と“こまち”が連結するのさ。行先は新函館駅。青函トンネルを経由してな」
「ロンとヤスはもうええっちゅうねん!!」
くろたんは両手をぶるんぶるんと振り回しながら言った。ギョニ子が真一郎の胸で泣いている。どっちもいやだと言っている。
「どうしたんだい、今日子ちゃん?」
真一郎が尋ねると、ギョニ子が答えた。
「だってね、もしタコ社長が先であたしが後だとしたら、タコ社長のお尻に入ったものをあたしは咥えたってことでしょう?」
うんうん辛かったねと真一郎はなぐさめている。
「そうじゃなくて、もしあたしが先でタコ社長が後だとしたら、あたしでは満足できなかったってことでしょう?女のあたしがハゲ散らかしたタコ社長に負けるなんて・・・」
ギョニ子はそう言って嗚咽を漏らした。真一郎がくろたんを睨みつけて言った。
「くろたんさん!どっちが先だったとしても今日子ちゃんは傷ついています!究極の選択・・・そう!カレー味のカレーと、うんこ味のうんこのようなもんですよ!」
「なんやそれ!ただのカレーとうんこやないかい!それを言うならカレー味のうんことうんこ味のカレーや!!」
「話をすりかえないでください!!」
真一郎は激怒した。マスターが言った。
「くろたん、今日は日が悪かったと思って出直したほうがいいかもしれませんね」
「言われんでもそうするわい!」
くろたんはそう言って、側面に竜雷太と書いてあるボートに体を入れ、ドアのほうに歩きだした。そう言えば、ボートレーサーの峰竜太を竜雷太とボケたことを誰にも突っ込んでもらっていない。自分から言おうと思ったが、また時が止まるとやっかいだ。そのまま帰ろうとドアに手を触れたとき、背中から声が聞こえた。ギョニ子だった。
「待って、くろたんさん!ひとつ言い忘れてたわ!」
ふふふ。そう来なくちゃいけない。くろたんは口元に笑みが広がるのを必死にこらえながら、振り向いて言った。
「なんやねん?」
「タクシー代1万円もらってないんだけど?」
「くうううう!!!もってけドロボーーー!!」
くろたんは喉の奥から声を絞り出すようにそう言うと、財布から1万円札を2枚取り出し、叩きつけるように床に投げて帰って行った。
■ 舟唄
2024年1月12日(金)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「杉山佳明っつう調教師は、佳山明生みてえな名前だなあ」
タコ社長が愛知杯の馬柱に、赤ペンでぐるぐると丸をつけながら言った。先週のフェアリーステークス、イフェイオンで重賞初勝利をあげた杉山佳明調教師の名前に、演歌歌手の佳山明生が入っているという。
愛知杯
2-02 コスタボニータ(杉山佳明)
杉(山佳明)
(佳山明)生
「3文字も合致するのは面白いですね」
マスターがグラスを磨きながら言った。
「佳山明生と言えば『氷雨』・・・八代亜紀の『雨の慕情』・・・どちらも『雨』タイトル演歌の名曲です。お亡くなりになったのは昨年の12月30日とのことですから、把握していたJRAが先に使った可能性はありますね」
「そうなるとコスタボニータはないんでしょうか?」
真一郎が言った。
「そうとも限らないですよ」
そう言って入って来たのはくろたんだった。今日はコスプレはなしで、いつものダンディな出で立ちだ。タコ社長の右に座る。マスターは、響のボトルと一万円札2枚をくろたんの前に置いた。
「先日は失礼いたしました。響は店からのサービスというお約束です。どうぞお収めください」
数秒間、お札に手を伸ばすことを躊躇したくろたんだったが、軽く頷くと紙幣を財布にしまった。それから、響のロックを一口舐め、ゆっくりと口を開いた。
「コスタボニータの谷掛龍夫オーナーには、フナウタという持ち馬がいました」
みんなが一斉にくろたんを見た。
「しかも、最後の勝利はコスタボニータと同じ2番です」
2018/11/18
福島12R 飯坂温泉特別
1着:1-(02)(フナウタ)(谷掛龍夫)
2着:(2)-03 メイショウツバキ
※フナウタ最後の勝利・最後の3着内
愛知杯
(2)-(02)コスタボニータ(谷掛龍夫)
おおという歓声が店内に響いた。くろたんが続ける。
「八代亜紀さんが描いた絵のモデルになった馬、ジャガードが明日登場します。中山12レースです」
1/13(土)中山12R 15頭
8-15 ジャガード(逆16)
愛知杯 14頭
2-02 コスタボニータ(正16)
「正逆16番の一致だけですが、ジャガードの前2走はコスタボニータと同じ2番。あるかもしれませんよ」
みんながうんうんと頷いた。マスターが言った。
「コスタボニータは要注意ですね」
くろたんは軽く顎を引いてから言った。
「それはそうと、今年は出馬表読みを極めようと思っています。特に、同配置サインの研究に力を注ぐつもりです」
くろたんが現在最も時間を割いて研究しているのが、出馬表読みにおける同配置サインであった。
「例えばですが・・・」
くろたんは例を挙げて説明した。
1/6 中山1R
4−07 前走 丹内
4−08 前走 丹内 432K
8−15 西山茂行 牝3 3/12 田辺
8−16 西山茂行
フェアリーS
8-13 イフェイオン 1着
8−14 ニシノティアモ
(西山茂行 牝3 3/12 田辺 432K)
「1月6日、フェアリーステークスの前日ではありますが、4枠が前走丹内の同居。8枠は西山茂行の同居で染分け帽でした。フェアリーステークスでは、この4枠と8枠の要素をもったニシノティアモの同枠、イフェイオンが1着。13番イフェイオンについては、フェアリーステークス優勝馬のゼッケンとの重なりがありました」
中山金杯
1-01 キタウイング
2023フェアリー 1着
中山3R
7-13 母コスモネモシン
2010 フェアリー1着
中山10R
4-08 母ダイワルージュ
2005 フェアリー1着
フェアリーS
8-(13)イフェイオン 1着
「こういう読みには、どうしても同枠のハズレのほうを引くということはつきものです。2分の1・・・この50%の確率を限りなく100%に近づけるためには、さらなる研究が必要になります」
くろたんはそう言って、響のロックを舐めた。
「出馬表読みを続けてると、いろんなレアパターンもみつかるのでしょうね?」
ギョニ子が首を左に向けて尋ねた。くろたんが頷く。
「ありますよ。数カ月に一度あるかないかという鉄板に近いレアパターンが。だがそれを、簡単に教えるわけにはいかない。努力しないやつに限って、答えだけを教えろと騒ぎ立てるものです」
マスターが深く頷いて言った。
「わかります。こちらは魚の釣り方のあくまで一例を伝えているのに、そんなのはいいから魚そのものをくれという。競馬の楽しみをなんだと思っているのでしょう」
「言い得て妙だぜ。サイン読みに限らず、血統にしろスピード指数にしろ展開読みにしろ、競馬ってえのは自分でとことん知恵を絞ってたどり着いた的中こそが、真の醍醐味なのにな・・・あ!俺たちがここで検討会やって、買い目を決めるのはありゃあ余興のようなもんだ。みんなそれぞれ自分の馬券は別で買ってる」
「それはわかっていますよ。毎週毎週満場一致の答えなんて出るわけがない」
くろたんはそう言ってタコ社長に同意した。ギョニ子が言った。
「出馬表読みを極めようとするくろたんさんって、かっこいいわ~」
くろたんはギョニ子のほうを見てありがとうと言った。ギョニ子は薄いグリーンのセーターを着ており、胸のふくらみが目に飛び込んできた。この前時が止まったときは我慢したのだから、いっぺん乳をもませろと言いそうになったが我慢した。今日はダンディくろたんなのだ。三枚目を演じるのでは週に一度くらいでいい。
「さて、私はこれで失礼しますよ。みなさんのお邪魔になってはいけない。あ、そうそう。明日の同配置だけ挙げておきますね。興味があったらいろいろ調べて見てください」
中山
11R
8−15 Gリビエール
8−16 Gリビエール
12R
7−12 ミルファーム
7−13 ミルファーム
京都12R
8−16 岡田牧雄
8−17 岡田牧雄
中山6R
8−16 大野
8−17 大野
京都7R
5−08 今村
5−09 今村
小倉4R
5−05 上野
5−06 上野
■ ドクター関西人
くろたんと入れ替わるようなかたちで、見知らぬ男性が入って来た。身長は172、3センチ、年は50代後半といったところだろうか。くろたんが座っていた、タコ社長の右隣の席に座った。
「マスター、ちょっと迷ってもうたが来たでー。なんやこじんまりしてええ店やないかい?」
男性の関西弁を聞き、ギョニ子がいぶかしがるような目で男性の顔を見回した。この男は今出て言ったくろたんが変装している、この前のやすし君ではないだろうか。そうなると、どこかにかぶっているマスクの境目があるはずだ。
「なんやギョニ子はん。わしの顔になんかついとりまっか?」
「ギョニ子?なんであたしのあだ名知ってるのよ!」
「そりゃあいつも読ませてもらってるさかいな!」
男性がそう言うと、マスターは人差し指を口の中央に当ててから慌てて咳払いをした。
「うおっほん!ええと、この男性は・・・そうですね、ドクター関西人とでもしておきましょうか?」
男性は軽く頷いた。「ドクター関西人」でいいということらしい。
「ドクター関西人さんは、最近よくツイッター・・・いや、Xでお話させてもらっているサイン競馬仲間です。今日は出張の帰りでしょうか?」
「まあ、そういうところや。ところで、熱いところつけてくれへんやろか?」
ドクター関西人はお猪口を口に運ぶ仕草をした。
「そうだろうと思ってました」
麗子ママがなみなみと日本酒がつがれたコップを、ドクター関西人の前に置いた。
「お猪口に徳利なんてまどろっこしいでしょうから、コップでやってくださいな。熱いから気をつけてね」
ドクター関西人はおしぼりでコップを包み、口元に持って行った。そして、うまそうに半分熱燗を飲んでから言った。
「なんや!これほんまに熱いがな!ていうか熱すぎるで!酒はぬるめの燗がいいやろ!ちょっと埋めといてんか!」
麗子ママは、一升瓶を持ってコップに満タン近くまで日本酒を注いだ。ドクター関西人がそれを飲む。
「なんや、今度はぬるすぎるで!体が冷えてしまいそうや!熱いところ埋めといてんか!」
麗子ママは熱燗をコップに注いだ。コップはもう少しであふれるというところまで満たされた。
「ん!今度は熱すぎるで!やけどしそうな熱さや!ちょっと埋めといてんか!」
麗子ママはまた、一升瓶から日本酒を注ぎ熱燗をぬるくしてあげた。今度もコップは満タンになっている。ドクター関西人がそれを飲む。
「ぬるーーーっ!ぬるすぎるで!ぬるいのは岸田総理の政策だけで十分や!熱いとこ埋めといてんか?」
その後も同様のやり取りが5、6回ほど続いた。次にドクター関西人が酒を要求したとき、麗子ママが言った。
「ええかげんにせえ!!おまえなんぼほど飲むねん!!」
みんながどっと笑った。
「おおきに麗子ママ。一度やってみたかってん」
ドクター関西人は満足そうに笑って、目尻にしわを寄せた。
「吉本新喜劇、岡八郎と花紀京だな!最強のコンビだったぜ・・・もう見られねえがなあ」
タコ社長が目を細めて言った。ギョニ子と真一郎にはちょっと古いネタのため、ピンときていないようだった。
「さて、帰らなあかん。なんぼでっしゃろ?」
麗子ママがそろばんをはじく真似をしながら言った。
「ええと、日本酒がだいたいコップで5杯・・・それと付きだしにおでんがふたつ・・・ちょうど千円になります」
「なんや!こんだけ飲み食いしてたったの千円かいな!やっすいがなー、大丈夫でっか、そんなんで?」
「ええおおきに。薄利多売でやらしてもろてます」
「そうか!ほなつけといてなー」
「ずごーーーーん!!」
みんながずっこけているところを、ドクター関西人はドアのほうに歩き始めた。
「・・・ってちゃうがな!サインネタを披露しに来たんや!」
ドクター関西人は席に座りなおした。あらためてマスターがみんなに紹介する。
「ドクター関西人さんの得意なサインのひとつが、起点サインです」
ドクター関西人は頷いて言った。
「ほな一例を挙げるさかいな。トウカイテイオーの起点サインや。新馬戦から順に重賞レースで9隣が馬券になっとる」
<トウカイテイオー 起点サイン>
●新馬戦 2番
京都金杯
2番の9隣
11番 セッション 2着
●シクラメンS 6番
中山金杯
6番の9隣
15番 マイネルクリソーラ 3着
●若駒S 8番
フェアリーS
8番の9隣
3番 マスクオールウィン 2着
●若葉S 4番
シンザン記念
4番の9隣
13番 エコロブルーム 2着
「ここまで4重賞で継続中や。やが途切れたら堪忍やで。今週の3重賞は継続ならこうなる」
●皐月賞 18番
愛知杯 14頭立て
4番ウインピクシス(正18)
4番の9隣
6-09 エニシノウタ(-9隣)
8-13 フラーズダルム(+9隣)
●ダービー 20番
日経新春杯 14頭立て
6番ディアスティマ(正20)
6番の9隣
1-01 リレーションシップ(+9隣)
7-11 ヒンドゥタイムズ (-9隣)
●大阪杯 2番
京成杯
2番バードウォッチャーの9隣
5-08 ハヤテノフクノスケ(-9隣)
6-11 マイネルフランツ (+9隣)
「しつこいようやが、こういうサインは披露したとたん途切れるもんや。参考程度にたのんまっせ」
ドクター関西人は念を押した。
「起点サインとは違うがこんなのもあるで」
<施行回数サイン>
関東重賞
施行回数の十の位の数字の隣枠
関西重賞
施行回数の1の位の数字の隣枠
第62回京都金杯
1の位は2
隣枠 1枠 1着
第73回中山金杯
十の位は7
隣枠 8枠 3着
第40回フェアリーS
十の位は4
隣枠 3枠 2着
第58回シンザン記念
1の位は8
隣枠 7枠 2,3着
~~~
愛知杯(関西)
第61回→2枠か8枠
日経新春杯(関西)
第71回→2枠か8枠
京成杯(関東)
第64回→5枠か7枠
「2択でしかも枠やからピンポイントで馬を一頭指名とはいかんが、こんなサインもいろいろ重なったら強力なサインになるで」
ドクター関西人の説明にみんながうんうんと頷いた。真一郎とギョニ子はスマホに熱心にメモをとっていた。
「さて、今度こそ帰らなあかん」
勘定を払おうとするドクター関西人に、マスターはネタを披露してもらったお礼ですと言って受け取ることを固辞した。ほな甘えさせてもらうさかいと言って、ドクター関西人は出て行った。
ドクター関西人ことshimaさんのX
■ ロジ愛リッシュ
10分程度の休憩を取ったあと、愛知杯の検討会が再開された。真一郎が口火を切った。
「JRA70周年の記念サイトなのですが、平場のレースがトップ画像に使われています」
2020/6/7(日)
東京08R
1着:6-12 ロジアイリッシュ
(岩田望来・国枝栄・久米田正平)
2着:3-05 シネマトグラフ
(川田将雅・奥村武・江馬由将)
3着:5-10 マサノアッレーグラ
(Mデムーロ・大竹正博・中村時子)
https://db.netkeiba.com/race/202005030208/
「よくレースを特定できたわね」
麗子ママが言った。真一郎が照れくさそうに答える。
「いえいえ。麗子ママからレース特定のコツを教えてもらったからですよ」
マスターが言った。
「勝ち馬のロジアイリッシュ。愛がありますから、愛知杯にサインを送る可能性はありますね」
1着:6-(12)ロジアイリッシュ
2着:3-05 シネマトグラフ(川田将雅)
愛知杯
7-(12)ミッキーゴージャス(川田将雅)
「1着馬の馬番と、2着馬の騎手ならミッキーゴージャスね」
ギョニ子が言った。真一郎が続く。
「人気ですが押さえないといけないでしょうね。当日のメインからは、4番ウインピクシスが怪しいと思います」
同日東京メイン 安田記念 14頭
7-11 グランアレグリア(池添謙一・逆4)
https://db.netkeiba.com/race/202005030211/
愛知杯
3-(04)ウインピクシス(正4・上原博之)
※上原博之調教師は勝てば全10場重賞制覇
「愛知杯の同じ14頭立ての安田記念。正逆4が一致するのがウインピクシスです。ルメールの代打だった池添謙一騎手は、全10場重賞制覇達成騎手。ウインピクシスの上原博之調教師は、勝てば全10場重賞制覇となります」
「やるじゃねえか、しんちゃん!愛知と言えば藤井聡太八冠だ。上原博之のコンプリートがあるかもしれねえ。ウインピクシスの線で行こうぜ!」
タコ社長がそう言うと、麗子ママが続いた。
「隠れ取消っていうのかしら?枠順が確定する前に取り消した馬。京都6レースで同じウインのウインリベラーレが取り消してるわ。騎手は同じ『松』から始まる松山弘平よ」
京都6R 隠れ取消
(ウイン)リベラーレ(松)山弘平
愛知杯
3-04(ウイン)ピクシス(松)岡正海
■ 腰痛予防ストレッチ
マスターが援護射撃を出した。
「YouTube動画に面白い動画がアップされていましたね。腰痛予防ストレッチです」
「池添学厩舎、高橋義忠厩舎。騎手では田口貫太と河原田菜々。そして、センター公正室からはJRA職員が2名出ています」
●厩舎
池添学
高橋義忠
●騎手
田口貫太
河原田菜々
●JRA栗東トレーニング・センター公正室
内門陽司
上妻和道
「調教師と騎手、計4名の中で、明日1鞍のみなのは池添学厩舎だけ。怪しいです」
京都12R
2-(04)(グラン)デサラス(池添学)
※池添学厩舎。今日唯一の出走
3-(04)ウインピクシス
「へえー!同じ4番で馬名の始まりが『グラン』ね。さっき出てきた安田記念のグランアレグリアを示唆かも」
ギョニ子の言葉にマスターが頷いた。
「そして、非常に珍しいJRA職員の登場。センター公正室は、ウインピクシスの上原博之調教師が管理していた、セイウンコウセイにつながります」
(セ)ンター(公正)室
(セ)イウン(コウセイ)(上原博之)
3-04 ウインピクシス(上原博之)
「なるほど、そりゃあ面白れえや!ウインピクシスの単勝に、3枠のゾロ目っつうのはどうだい?ミスターメロディとワンツーした高松宮記念。あれは確か2-2のゾロ目だっただろう?」
2019 高松宮記念
2-03 ミスターメロディ 1着
2-04 セイウンコウセイ 2着
愛知杯
3-(03)タガノパッション
3-(04)ウインピクシス
みんながうんうんと頷き、スナック忘れな草の勝負馬券が決まった。
スナック忘れな草
愛知杯 勝負馬券
◎4番ウインピクシス
〇3番タガノパッション
単勝:4番ウインピクシス
枠連:3-2.3(本線)
枠連:3-5.6.7.8(抑え)