スナック忘れな草~月と猿・2024福島牝馬ステークス 注目馬~
トップ画像引用:ヤフーニュース
■ 優しい桜
2024年4月15日(月)午前7時半
-東京都某区 真一郎の通勤路-
朝の陽ざしを浴びながら、真一郎はすっかり葉桜になってしまった桜並木の道を歩いていた。いつもの徒歩通勤の途中だ。
ふと、歩きながら左の足底に違和感を覚えた。小さな石でも入り込んだのだろう。歩みを止めて左の靴を脱ぎ、逆さにして数回振ってみた。靴の中から出てきた物は見えなかったが、履きなおすと違和感がなかったのでそれは出ていったようだ。
靴紐が少し緩んでいるのに気づいたので、履きなおしたついでにしゃがんで結び直すことにした。そのとき、近くにいた女の子とその母親の会話が、聞くともなく耳に入ってきた。
4歳ぐらいの女の子が質問をしている。
「ねえママ、どうしてあそこだけ桜がまだ咲いてるの?」
真一郎が声のするほうを見ると、なるほど女の子が指さした先には、葉桜の中に紛れるように一株の桜が咲いていた。陽が当たりにくい木の最も下のほうだ。真一郎はそのときしゃがんでいたから容易に見ることができたが、歩いている大人の目線からは見えにくい位置だ。
母親はなんと答えるだろうか。真一郎には子育ての経験がないので興味があった。少し考えてから、母親は優しく諭すように答えた。
「ひなちゃんと同じくらいの子供たちはねえ、ひなちゃんと同じように毎日こうやってお外に出られる人ばっかりじゃないんだよ」
そうなのと女の子が目を見開いて訊いた。
「そう・・・体が弱いために普段は家や病院にいて、お外に出られるのはお医者さんがいいですよって言ってくれた日だけで、せいぜい一カ月に一回くらい。かわいそうだけれど、そんなお友達もいるのよ・・」
子供が黙って頷く。少し不安な表情だ。
「ようやくお医者さんの許しが出てお外に出たと思ったら、見たかった桜がぜーんぶ散っちゃってた・・・ひなちゃんだったら悲しいでしょう?」
「悲しい!そんなのやだ!」
女の子は泣き出しそう表場で言った。
「だからね、たまーにしかお外に出られないお友達のために、こうやって遅くまで咲いてくれている桜があるんだよ」
「そうなんだ!桜さん、優しいね!」
そう言って女の子は、咲いている桜のほうに精一杯右手を伸ばし、いい子いい子と撫でる真似をした。
靴ひもを結び終わって立ち上がった真一郎は、そのやり取りから藤岡康太騎手を思い出さずにはいられなかった。兄佑介騎手が競馬コラムに寄せた、『ファンの皆様へ』と題したものだ。
優しい桜だったんだな。
真一郎は思った。来年以降、毎年桜が咲くたびに藤岡康太騎手のことを思い出し、寂しい気持ちにはなるだろう。だが同時に、彼の最後の優しさをも思い出し、彼の家族や競馬関係者や競馬ファンは、温かい気持ちになるはずだ。
藤岡康太という桜は、35年間という生涯をしっかりと咲ききったのだ―
さてと。そう心の中で言って歩き出した真一郎は、夜のことを考えていた。假屋崎省吾のサインを、どう切り出そうか―
■ 午の刻
2024年4月15日(月)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
雑談が一区切りついたところで、真一郎はゆっくりと話し始めた。皐月賞の回顧だ。
「桜花賞の検討で出てきた『ベルサイユのけいばな』の假屋崎省吾。皐月賞も教えていました」
みんなが真一郎のほうを見たが、さほど驚いてはいなかった。タコ社長がみんなの思いを代弁する。
「ああ。12番のコスモキュランダだろ?假屋崎省吾。『正午』だから12番ってわけだ。桜花賞と同じ12番に入ったモレイラがきっちり仕事をした・・・そうだな?」
「いえ、そうじゃないんです。優勝したジャスティンミラノの13番のほうです」
今度はみんながえっという顔をした。
「13番?どういうわけでい?」
「大阪杯から皐月賞までの、勝ち馬のゲートを並べてみてください」
タコ社長がまずあっと声を挙げ、マスターと麗子ママが続いた。ギョニ子はまだわからないようで、真一郎のほうを見てどういうことと尋ねている。タコ社長が叫んだ。
「3つのGⅠで『午』ってわけだな?11番、12番、13番だ!」
「その通りです、社長さん!」
真一郎が深く頷いて言った。
大阪杯
11番 ベラジオオペラ
桜花賞
12番 ステレンボッシュ
皐月賞
13番 ジャスティンミラノ
11→12→13
→ 午の刻(午前11時から午後1時=11時から13時)
大阪杯からの3つのGⅠの勝利ゼッケンを並べると、『十二時辰(じゅうにじしん)』でいうところの『午の刻』にあたる。名前に「省吾」、すなわち「正午」がある假屋崎省吾の起用は、それを示唆していたのだ。
まだ理解できないギョニ子が真一郎の左耳を引っ張って催促したので、真一郎は改めて説明した。
「桜花賞の検討で出てきた、干支を用いた時刻の示し方の『十二時辰(じゅうにじしん)』。ひとつの干支が2時間分を示すから、昼の12時・・・つまり『正午』を含む『午(うま)』は午前11時から午後1時、24時間制で言えば11時から13時までを示すよね?」
タコ社長が後を引き継いだ。
「同じ11時から1時でも、夜のほうは干支の『子』だ。24時間制だと23時から1時、または25時にあたる。いずれにしても夜の1時を13時というやつはいねえ・・・假屋崎省吾の『正午』は、11番12番13番の3レースセットを示唆してたってわけさ!」
やっと理解できたギョニ子は納得の表情を一瞬見せたが、すぐに鬼の形相になった。真一郎の左耳を再度引っ張り上げる。
「・・ってしんちゃん!まさかそのことにレース前から気づいていたんじゃないの?」
いててて姉さんと、サザエさんのカツオのモノマネをしていた真一郎は、ギョニ子の手を優しく払ってから正直に打ち明けた。
「実は桜花賞が終わった時点で気づいてはいた・・・というより気になってはいたんです。でも、みんなで決めた軸馬が、注目していたゲートにドンピシャ入るってことはまずないじゃないですか?」
みんながうんうんと頷いた。
「マスターが展開してくれた、ディープ記念の勝ち馬が牡馬三冠をコンプリートするっていうシナリオ。僕は完璧だと思ってたんです!・・・だから、コスモキュランダはてっきり13番に入ってくれるだろうと・・・」
マスターが深く頷いて言った。
「だから出馬表が確定し、コスモキュランダが13番に収まったのを確認してから、我々に言うつもりだったのですね?」
真一郎が頷いた。麗子ママが確認するように言った。
「ところが13番に入ったのは、検討では名前が出てこなかったジャスティンミラノだった・・・だから言い出しにくかった・・・」
タコ社長が腕を組みながら言った。
「なるほどなあ・・・よりによってジャスティンミラノだったからなあ・・」
タコ社長が言うよりによってとは、藤岡康太騎手にゆかりのある馬だということだろう。彼が一週前追い切りでジャスティンミラノの調教を担っていたことは、ネットのニュースになっていた。
「うーん、難しいところよね・・・」
ギョニ子が眉を寄せて言った。
「藤岡康太騎手を弔う馬券となれば、兄の藤岡佑介騎手、同期の浜中俊騎手。それに騎手クラブ会長の武豊だってないとはいえない。ジャスティンミラノだけを選ぶとなると、他の騎手を切ることになるものねえ・・」
みんながうんうんと同意した。真一郎が午の刻からのサインを説明し、ジャスティンミラノを取り上げたとして、果たしてコスモキュランダから同馬へと本命を変更できただろうか―
■ 第55回
「しんちゃんの話が出たので、私からもひとつ・・・これも結果論にはなりますが・・」
マスターが頭を掻きながら言った。
「第55回の桜花賞と皐月賞を話題に挙げましたよね?」
みんながうんうんと頷いた。UMAJOの新CMで「ゴーゴー」という掛け声が二度繰り返されていることから、第55回のクラシックに注目していたのだ。
「第55回の皐月賞、ジェニュインとタヤスツヨシは、馬番で6番7番という決着でした。それに対し、今年の馬連12番13番という決着は、逆番の6番と7番に当たるのです」
1995 第55回 皐月賞
1着:3-06 ジェニュイン(正6)
2着:4-07 タヤスツヨシ(正7)
2024 第84回 皐月賞
1着:7-13 ジャスティンミラノ(逆6)
2着:6-12 コスモキュランダ (逆7)
「ということは・・」
タコ社長が話をまとめた。
「桜花賞は阪神ジュベナイルフィリーズの1.2着入れ替えだったから、この1995年の皐月賞とダービーを再現した。そして皐月賞では、出目のほうを使って正逆入れ替えをやったわけだ?」
「そういうことになりますね・・・早くから注目していたのに、馬券に活かし切ることができませんでした・・・」
そう言ってマスターは、責任の一端が、いや、すべてが自分にあるかのように肩を落とした。みんなは掛ける言葉がなく、ただ沈黙するだけだった。
■ 京都競馬場グランドオープン一周年
その夜マスターは、遅くまで店に残っていた。今週はGⅠの谷間週であることに加え、藤岡康太騎手のことがある。先週ほどではないにしろ、まだみんな完全に気持ちの整理がついてはいないだろう。ここは自分がしっかりしないと―
大阪杯から皐月賞までの3戦。軸馬が2着内に来ているのにも関わらず、当たり馬券がないもどかしさをなんとかしたい。そういう思いが、マスターにパソコンを操作させた。
幸い、とっかかりはすぐに見つかった。土曜の京都競馬だ。今週から東西とも開催変わりとなり、中山は東京へ、阪神は京都へと変更になる。さらに、土日は京都競馬場グランドオープンから一周年にあたる。
昨年のグランドオープン初日、京都10Rに組まれていた栞ステークスは観月橋(かんげつきょう)ステークスへ、メインに組まれていた京都競馬場グランドオープン記念は天王山ステークスへと姿を変えていた。
天王山ステークスのほうは、京都競馬場改修前と比較してみると、天皇賞春前日からの移動という軽微な変更だ。しかし観月橋ステークスのほうは、長らく続いていた11月施行からの移動という、比較的大きな変更だ。ここにヒントがあるとにらんだ。
観月橋ステークスの特別レース名解説に、豊臣秀吉が出てくる。このレースを前倒ししたかった理由はなんだろうか・・・・・
いろいろ調べているうちに、あるワードがエンタメ系のネタにヒットした。だがまだまだ弱い。
一旦それは置いておいて、新しくアップされていた天皇賞春のCMを調べることにした。途中で、いかにもレースを特定してみてくださいと、挑発するような静止画像があった。
左回り、芝、おそらくフルゲート。ちょっと幅を持たせ、まずは「16頭以上」に設定して調べてみる。わかりやすい勝負服、緑帽の馬はおそらくあの馬主だろう。ところが、3年分ほどレースごとに調べてみたが、CMの画像とは一致しない。もしかしたら馬主が違うのか?
あらためて馬主を調べなおすと、ダノンだと思っていた勝負服はウインのものだった。袖の部分の紅白の色使いが真逆だ。危ない危ない。何十年分も調べる前に気づいてよかった。
「左回り・芝・16頭以上・11番から12番」
この条件で1986年以降のレースをすべて拾ってから、馬主のデータを収集し、ウインの馬だけで改めて調べ直してみる。該当レースは、馬主を指定する前の32,152レースから、169レースへと一気に減った。
新しいレースから順に調べること26レース目。ついに該当レースがヒットした。2枠の馬の勝負服が特徴的だったのが助かった。間違いない。
そのレース当日のメインレースをみてみる。昨年引退したある名馬の重賞勝ちレースであったが、すぐにはピンと来るものはなかった。
そこで、改めて豊臣秀吉を調べてみる。すると、さっきの重賞レースの2着馬にドンピシャの馬がいることがわかった。
よし、明日はこれをお土産にみんなを待つこととしよう。マスターは満足げに頷くと、急いで帰り支度を始めた。
■ 観月橋ステークス
2024年4月16日(火)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
帰り道の途中で合流したギョニ子と真一郎が席に着くと、昨日あれだけ落ち込んでいたように見えたマスターが、いらっしゃい、お疲れさまでしたねとにこやかに声を掛けてきた。意外だなと真一郎は思った。そこで、タコ社長がよくそうするように、マスターに鎌をかけてみた。
「マスター、もしかして何かいいネタがあるんじゃないですか?」
図星を当てられたマスターは、ちょっとびっくりした顔をしたが、すぐにほほ笑んで言った。
「いやあ、参りましたね。少し雑談をしてからと思ったのですが、さっそく始めますか・・」
そう言ってマスターは、ぐるりとみんなを見渡した。興味を示したタコ社長は、両肘をカウンターに乗せて早くも前かがみの姿勢になっている。
「今週、新装京都競馬場が一周年を迎えます。土曜日の番組を昨年と比較してみると、メインの観月橋ステークスに違和感を覚えます」
みんなが相槌を打ち、先を促した。
「観月橋ステークスは、長らく京都ダート1800m、3勝クラスで施行されてきました。それが昨年11月、新装京都競馬場における初の施行になったとたん、ダート1900mへと距離が100m延伸されました。これは、旧京都競馬場最終日と新京都競馬場開幕日で施行された、記念レースの栞ステークスと同条件となります」
そこでマスターは間を少し開けた。何人かが手元のお酒を一口飲む。
「そして、観月橋ステークスは今年3回京都の初日10Rへと移動。昨年わざわざ距離を伸ばして一年だけ施行してからの時期移動ですから、何らかの役割があると言っていいでしょう」
みんながうんうんと頷いた。
■ もしも徳川家康が・・
「観月橋ステークスの特別レース名解説を読むと、豊臣秀吉が出てきます」
マスターは、昨日自分が調べた文章をみんなに紹介した。
「豊臣秀吉につながるとは知らなかったぜ・・・俺には観月からは観月ありさしか出てこねえがな」
タコ社長がそう言って自嘲気味に笑うと、マスターは指をパチンと鳴らした。
「社長さん、実は私も今から観月ありさに触れようと思っていたところです!」
みんなが意外そうな顔をした。
「実は今年の7月に、観月ありさも出演者のひとりである映画、『もしも徳川家康が総理大臣になったら』が東宝から公開されるのです」
「へえーー!」
ギョニ子が感心したように言った。
「今年も昨年までの11月開催だと、映画公開のあとになってしまう。そこで今年は前倒しした・・・そういうことかしら?」
「その可能性はあると思います」
マスターが答えた。
「特別レース名解説に出てくる『秀吉の月見の伝説』。彼が月橋院(げっきょういん)で開いた月見の宴に由来しています。観月ありさが映画で演じるのは紫式部・・・社長さん、紫式部には月を詠んだ歌がありますね」
「・・・おお!あれだな・・・めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半(よは)の月かな・・・百人一首に収められてらあ」
マスターは力強く頷いた。
「観月橋ステークスの由来にある豊臣秀吉。女優観月ありさからの徳川家康。観月ありさ演じる紫式部も月との関連が深い。これだけでもかなり興味深いですが、アップされたばかりの天皇賞春のCMに、豊臣秀吉と徳川家康を結ぶものがありました」
■ イクイノックス
マスターは、天皇賞春のCMに出てくるレースを特定した流れを簡潔に説明したあと、本題に入った。
「この画像のレースのひとつ前が、メインレースの東京スポーツ杯2歳ステークスでした」
2021/11/20(土)
東京12R 1勝クラス
1着:6-12 ウインシャーロット
2着:8-18 ディープリッチ
3着:1-01 スリートップキズナ
※天皇賞(春)のCMに出てくるレース
同日メイン
東京スポーツ杯2歳S
1着:1-01 イクイノックス
2着:3-03 アサヒ
3着:2-02 テンダンス
「イクイノックスの2着したアサヒ。この馬こそが、豊臣秀吉と徳川家康を結ぶ馬なのです。実は豊臣秀吉の異父妹・・・父は同じだとする説もありますが、いずれにしても豊臣秀吉の妹『朝日姫』は、徳川家康の正室なのです」
みんながおおという声を挙げた。真一郎が確認する。
「そうすると、豊臣秀吉と徳川家康は義理の兄弟というわけですか?」
「そういうことです。ふたりの武将を結ぶ『朝日姫』・・イクイノックスの2着アサヒは、それを示唆していると思われます。さらに、東京スポーツ杯2歳ステークスのひとつ前、10レースの秋色ステークスのほうは、HERO IS COMING.の動画、『HEROが待っている』篇に出てくるというつながりがあります」
みんながうんうんと頷いた。俄然面白くなってきた。
■ ピンクムーン
少し休憩しますかとマスターが提案したが、みんなこのまま続けていいということで、マスターの説明が続いた。
「さて、ここからキーワードをどう絞るか、どのレースを予想するかでいくつか分かれ道があるとは思うのですが、まずは土曜重賞の福島牝馬ステークスを選びました。このレースに、キーワード『月』を示唆する馬が2頭います」
その言葉でみんながスマホを操作したが、なんちゃらムーンのようないかにもわかりやすい馬はいなかった。
「・・・うーん・・・ちょっと自信はないけど、ピンクジンかしら?何月だかは忘れたけど、ピンクムーンって満月の呼び名であった気がするの・・」
ギョニ子が自信なさげに言ったが、これがヒットしていた。
「そうですよ、今日子ちゃん。ピンクムーンは4月の満月です。そして福島牝馬ステークスには、次の5月の満月を表すフラワームーンもいます」
福島牝馬ステークス
ピンクジン
ペイシャフラワー
<満月の呼び名 一覧>
1月:ウルフムーン
2月:スノームーン
3月:ワームムーン
4月:ピンクムーン
5月:フラワームーン
6月:ストロベリームーン
7月:バックムーン
8月:スタージョンムーン
9月:ハーベストムーン
10月:ハンターズムーン
11月:ビーバームーン
12月:コールドムーン
「2頭の満月がいるってこったな?それからどうなるんでい!?」
しびれを切らしはじめたタコ社長が先を促した。
「50音順の並びで、2頭の満月にサンドされた2頭に注目してください」
福島牝馬S 50音順 登録馬
(ピンク)ジン → 4月満月
ファユエン
フィールシンパシー
ペイシャ(フラワー)→5月満月
「サンドされた2頭のうちの一頭、ファユエンには『エン』があります。この『エン』はふたつの言葉に掛かっています。ひとつは『宴』。京都競馬場の公式サイトに、『馬宴』というイベントがあることもプラスでしょう」
「もうひとつの『エン』は、『猿(さる)』です。『エン』とも読みますね」
「豊臣秀吉ね!」
麗子ママがポンと手を叩いて言った。
「サルというあだ名があったわ!」
マスターが頷いた。ギョニ子が訊く。
「そうすると、注目馬はそのファユエン?」
マスターは首を振った。
「その馬もあるかもしれませんが、私はもう一頭のフィールシンパシーだと思っています。同馬には『猿』がありますからね」
みんながわからないという表情をした。
「シンパシー・・・チンパシー・・・チンパンジー・・・ね?猿でしょう?」
みんながほぼ同時にズッコケた。さんざん引っ張ってダジャレかよという突っ込みもあがった。
「・・・というのは冗談で、同馬の4走前をみてください。『紅葉S 1着』があります。社長さん、紅葉を織り込んだ百人一首の歌がありますね?」
急に振られたタコ社長は一瞬狼狽したが、すぐに記憶を手繰り寄せた。
「ええといくつかあるがなあ・・・奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき これなんかどうだい?」
「社長さん、いきなりビンゴです!今の歌、『猿』が詠んだ歌ですよ!」
「猿が詠んだ歌?・・・・・・おお!!猿丸太夫かい!?」
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき
(5番 猿丸太夫)
みんながおおという歓声を挙げた。
「そうなんです。満月にサンドされた2頭。一頭には馬名に『うたげ』と『猿』を示唆する『エン』があり、もう一頭には戦歴に紅葉・・つまり『猿』がある。『月にサンドされた2頭の豊臣秀吉』ですから、観月橋ステークスが移動してきた日の福島牝馬ステークスにはお似合いというわけです」
みんながなるほど、それは面白いなどと声を挙げた。マスターが続ける。
「さらにプラスとなるのがデビュー日です。実はこのフィールシンパシー、イクイノックスの東京スポーツ杯2歳ステークスの日にデビューしているのです!」
2021/11/20(土)
東京5R 2歳新馬
1着:3-04 シークルーズ
2着:8-15 フィールシンパシー
3着:4-07 ホーリーエンブレム
同日10R 秋色S
HERO IS COMING.『HEROが待っている』篇
同日11R 東京スポーツ杯2歳S
イクイノックス
同日東京12R
→天皇賞(春)CMで使用
みんながおおという歓声を挙げ、スナック忘れな草の福島牝馬ステークス注目馬が決まった。
スナック忘れな草
福島牝馬S 注目馬
フィールシンパシー
■ 松山弘平
10分ほど休憩を取った。今日はみんなお腹いっぱいだったので、雑談タイムへ移行するかと思いきや、マスターの話には続きがあった。
「土曜日の京都競馬場ですが、松山弘平の連勝には注意したほうがいいかもしれません」
2023/4/22(土)
※新京都競馬場 初日
京都10R 栞S
6-11 ヴィジョンオブラブ(池添謙一)
京都11R
京都競馬場グランドオープン記念
5-10 ドンフランキー(池添謙一)
「昨年、騎手の連勝があったのはわかる。だけど今年、どうして松山弘平なんでい?」
タコ社長がみんなも思っていた疑問を口にした。
「それは、さっきの説明に出てきた昨年の観月橋ステークスが松山弘平だったからです。彼は、旧京都競馬場のほうの栞ステークスも勝っているのです」
2020/11/1(日)京都10R
栞S 3勝クラス ダ1900m
※旧京都競馬場 最終日
3-03 メイショウカズサ(松山弘平)
2023/11/11(土)京都10R
観月橋S 3勝クラス ダ1900m
※2019年までは京都ダ1800m
6-11 ゼットリアン(松山弘平)
「もう一度整理しますね。池添謙一は昨年グランドオープン日の京都10R、11Rを連勝。松山弘平は旧栞ステークスと距離延伸観月橋ステークスを連勝。その観月橋ステークスは、昨年の栞ステークスの期日に今年移動しましたから、隠れ栞ステークス連勝と言ってもいいと思います」
<池添謙一 連勝>
2023 新栞S
2023 京都競馬場グランドOP記念
<松山弘平 連勝>
2020 旧栞S
2023 距離延伸観月橋S
(→今年、昨年の新栞Sの位置へ)
2024 観月橋S
チュウワハート(松山弘平)
2024 天王山S
サンライズアムール(松山弘平)
「2頭とも人気になりそうですから、妙味たっぷりとはいきませんが、逆に言えば連勝は十分あると思いますよ」
マスターの言葉に、みんながうんうんと頷いた。
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