スナック忘れな草~永久欠番11・阪神ジャンプS~
■ “アレ”馬券
2023年9月15日(金)午後8時
-東京都某区 スナック忘れな草-
その日、スナック忘れな草はまるでお通夜のような静けさだった。真一郎がまだ来ていないこともあったが、タコ社長がほとんど言葉を発していないことが静けさの大きな要因だった。
「・・・はあ。また目の前でアレを決められるとはなあ」
「2005年も巨人戦でしたね」
タコ社長の言葉にマスターが応じた。昨日、18年振りのリーグ優勝を11連勝で決めた阪神タイガースだが、相手は2005年の優勝決定と同じ巨人だったのだ。
「いい時もあれば悪い時もあるわよ」
そう言いながら麗子ママがお煮しめをみんなに配った。昨日から食欲がなかったタコ社長だが、すぐに手をつけた。
「うまい!味がしみてて最高だよ。さすがはママだ」
タコ社長に笑顔が戻った。
「うふふ。お礼なら今日子ちゃんに言ってよね」
「ひぇ!?これってママじゃなくてギョニ子が作ったのかい?」
「あたしだってやるときはやるのよ」
ギョニ子は右手で左腕をぽんぽんと叩きながら言った。
「まあ、レシピはしんちゃんに教わったんだけどね」
「そういやあ、しんちゃんはどうしたんだい?ケンカでもしたか?」
「それがね、担当していた患者さんが急に亡くなっちゃって、お通夜に顔を出してから来るって言ってたわ」
「そうか・・・病院勤めってのはたいへんだなあ」
タコ社長はそう言って眞露の水割りを喉に流し込んだ。いつの間にかいつものタコ社長に戻っている。
■ 11連勝
それから5分ほど雑談をしていると、真一郎がやってきた。喪服ではなく普通の私服なのは、一度家に帰って着替えてきたのだろう。
「お疲れさまでした」
麗子ママから生ビールのジョッキと温かいおしぼりをもらった真一郎は、おしぼりで手を拭こうとしたのをやめて、生ビールをぐびぐびと半分ほど飲んだ。
「ぷはーーーーー!うまい!」
それからゆっくりとおしぼりで手を拭き、マスターに向かって言った。
「11番に狙ってた馬が入りました。ジューンベロシティです」
「阪神ジャンプステークスですね」
マスターが応じる。
「どうして11番なの?」
真一郎の左に座っているギョニ子が訊いた。
「11番は村山実の背番号なんだ」
そう言って真一郎は11番を狙っていた理由の説明を始めた。
リハビリを担当していた患者に阪神ファンの人がおり、7連勝したあたりから11連勝で阪神が優勝すると予言していたという。ところが9連勝の夜に容体が急変し、10連勝した夜に亡くなってしまった。本人に未告知の末期癌があり、もっても今年いっぱいだろうと医師は家族に説明していたという。
「するってえと阪神の優勝を知らずに亡くなっちまったってわけかい・・・」
元気を取り戻したはずのタコ社長が、しんみりとした口調で言った。
「その患者さん、字は『實』のほうだけど村山実と同じみのるってこともあって、村山実の背番号である11連勝で、阪神が優勝するとひらめいたらしいんだ」
「神のお告げのようなものかもしれませんね」
マスターが深く頷きながら言った。
「11番に入ったジューンベロシティ。騎手も阪神ファンにおなじみですね」
マスターのその言葉に、真一郎はニヤリと笑いながら応じた。
「さすがですね、マスター。ジューンベロシティは西谷誠。今岡誠・・・2005年優勝時のメンバーです。その患者さんもそれには気づいていて、11番にジューンベロシティだったら最高だなって言ってたんです」
「さすが虎ファンだなあ!馬も阪神の選手名からこじつけるとは」
タコ社長が感心したように言った。
■ テイエム
「軸はジューンベロシティでよさそうですね。くろたんのツイート情報からも、7枠はいいと思いますよ」
マスターが言った。18日の月曜日に組まれているメモリアルCの馬が、7枠に配置されているという。
9/18
阪神10R 2013メモリアル ロードカナロアC
中山10R 2003メモリアル シンボリクリエスC
9/16 阪神ジャンプS
7ー11 ジューンベロシティ
(父ロードカナロア・母父シンボリクリスエス)
7ー12 テイエムクロムシャ
(父シンボリクリスエス)
くろたん Xのポスト(ツイート)
https://twitter.com/heizhaogon63368/status/1702619322584297582
「2005年の阪神ジャンプステークスと照らし合わせてみても、7枠は光っていますよ」
真一郎も調べていた情報をみんなに見せた。
2005 阪神ジャンプステークス
2-02 マイネルユニバース(平沢健治)3着
3-03 ダイナミックゴール(難波剛健)
7-10 テイエムキャット (植野)貴也
7-11 テイエムコンバット(西谷誠)2着
2023 阪神ジャンプステークス
(2-02)ホッコーメヴィウス(平沢健治)
(3-03)ニンギルス (難波剛健)
6-(10)アドマイヤアルバ(上野)翔
(7-11)ジューンベロシティ(西谷誠)
(7)-12(テイエム)クロムシャ(黒岩悠)
「なんじゃこりゃ!!」
枠順の異常に気付いたタコ社長が、素っ頓狂な声を挙げた。
「2番平沢健治、3番難波剛健、11番西谷誠。3名の騎手が2005年と同ゲート配置かい?」
「そうなんです」
真一郎は頷いて言った。
「しかも2005年の2着11番テイエム西谷誠に対し、今年は11番に西谷誠、同枠がテイエム。2005年は西谷誠の右に植野騎手。今年は字は違いますがやはり右に上野騎手」
「2005年の阪神ジャンプステークスに出走していた騎手で、今年のレースにも騎乗するのが平沢、難波、西谷の3名のみ。その3名全員が同ゲートというのが作為を感じますね」
スマホを操作しながらマスターが言った。
「2番ホッコーメヴィウスは黒岩悠からの乗り替わり。そして、9番セルリアンネッタは、2005年に13番で騎乗があった北沢伸也から金子光希への前日乗り替わり。このふたつがあったからこそ、2番3番11番の同騎手同ゲートが際立ちます」
真一郎が頷いて続けた。
「まだあります。前回と前々回、阪神が優勝した時の阪神ジャンプステークス。2着の馬をみてください」
2003 阪神ジャンプS
2着:6-(10)(テイエム)マッチョ
2005 阪神ジャンプS
2着:7-(11)(テイエム)コンバット
2023 阪神ジャンプS
7-11 ジューンベロシティ
7-(12)(テイエム)クロムシャ
「へえー。阪神優勝年の阪神ジャンプステークス。過去2回の2着は10番テイエム、11番テイエムときてるのね?」
ギョニ子が感心したように言った。
「そして今年も馬番がひとつ増えて12番にテイエム。11番ジューンベロシティを強調しているのかしら?」
真一郎が応じた。
「そうだと思います。テイエムクロムシャ自身だったら穴ですけどね・・・あとは18年振りの優勝ということで、18番目に当たるアトラクティーボは買いたいですね」
2005 阪神ジャンプS
1着:5-07 アズマビヨンド
2着:7-11 テイエムコンバット(西谷誠)
3着:2-02 マイネルユニバース(平沢健治)
2023 阪神ジャンプS
(2-02) ホッコーメヴィウス(平沢健治)
4-04 ア(トラ)クティーボ(正18)石(神)深一
(5-07)ショウナンアーチー
(7-11) ジューンベロシティ(西谷誠)
7-12 テイエムクロムシャ
「なるほどなぁ。18番目に『トラ』で阪神の『神』を持つ石神深一ってわけかい」
タコ社長が言った。真一郎が応じる。
「2005年の出目は要注意だと思います。2番ホッコーメヴィウスに7番ショウナンアーチー。もう一頭挙げるなら、六甲おろしから6番のヤマノグリッターズ。これは来たら大穴でしょうけど」
4-(06)(ヤマ)ノグリッターズ(五十嵐雄祐)
「五十嵐雄祐騎手。いいかもしれないわよ」
麗子ママが言った。
「Facebookのイスラボニータについての記事。『群雄割拠』という四字熟語が使われてたわ。五十嵐雄祐騎手には『雄』の字があるもの」
麗子ママがそう言うと、みんながうんうんと頷き、スナック忘れな草の勝負馬券が決まった。
スナック忘れな草
阪神ジャンプS 勝負馬券
枠連:3-7
3連複1頭軸:11-(2.4.6.7) 6点