スナック忘れな草~東洋の魔女・2024東京新聞杯~
トップ画像引用:デイリースポーツ
■ エンペラーワケア
2024年1月29日(月)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
「重賞インフォメーションなんだけど、エンペラーワケアの馬主が出てきたのよね」
魚肉ソーセージの皮を丁寧に剥きながら、そう言ったのはギョニ子だった。JRAがその週に施行される重賞について情報を発信する動画「重賞インフォメーション」では、重賞ごとに過去の優勝馬が1頭ランダムに紹介される。
-本当にランダムかどうかは、JRAに聞いてみないとわからないのだが-
2月4日に施行される東京新聞杯で紹介されたのが、2022年の勝ち馬イルーシヴパンサーであり、馬主は根岸ステークスを勝ったエンペラーワケアと同じ草間庸文氏だという。
1/28(日)根岸S
4-07 エンペラーワケア
(草間庸文・くさま つねふみ)
重賞インフォメーション
東京新聞杯 過去の優勝馬
2022
6-11 イルーシヴパンサー
(草間庸文・くさま つねふみ)
「何かあるかもしれませんね」
マスターがグラスを磨きながら言った。画像や動画からの考察が好きな麗子ママも、興味を示したようだ。麗子ママが言った。
「4連勝で東京新聞杯を制し重賞初勝利・・・か。ゼッケンは11番ね」
6-(11)イルーシヴパンサー
(4連勝で重賞初勝利)(草間庸文)
真一郎が麗子ママの発言から、キーワードを抜き取って言った。
「4連勝、11番、初勝利・・・よん・・じゅういち・・初勝利・・よんじゅういち・・・・・あ!フェブラリーステークスの開催回数をみてください!」
2月17日(日)
東京11R 第【41(よん・じゅういち)】回
フェブラリーS
「今年初のGⅠとなるフェブラリーステークス。第41回です!イルーシヴパンサーの動画で出てきた4連勝と11番。つなげて読んで『よん・じゅういち(41)』と解釈するとぴったりです。同じ草間庸文氏のエンペラーワケアが、GⅠ初勝利ということではないでしょうか?」
重賞インフォメーション
2022 東京新聞杯
6-(11)イルーシヴパンサー(草間庸文)
(馬は4連勝・重賞初勝利)
第41(よん・じゅういち)回
フェブラリーS
エンペラーワケア(草間庸文)
(馬・馬主ともに勝てばGⅠ初勝利)
「なるほどしんちゃん、そりゃあ面白え!今週の重賞ではなく、フェブラリーステークスの予告ってわけだな?人気になるだろうが、確かレモンポップやウシュバテソーロは出ねえんだろ?軸が決まりゃあ相手探しでいいから楽だぜ!」
タコ社長が真一郎の解釈に同意し、みんなもうんうんと頷いた。
レモンポップ、ウシュバテソーロに加え、メイショウハリオ、デルマソトガケ、クラウンプライド。ダートの強豪がこぞってサウジカップに出走を予定しており、フェブラリーステークスはかなり手薄のメンバーとなることが想定されている。
1番人気になりそうではあるが、重賞初インフォメーションをひねって解釈すると、エンペラーワケアが軸でよさそうだ。
スナック忘れな草
フェブラリーS 軸馬候補
エンペラーワケア
■ マイネルホウオウ
15分ほど雑談タイムが続き、東京新聞杯ときさらぎ賞についてそろそろ軽く検討しようかというときに、店内に入って来た男がいた。くろたんだった。髪をアップにまとめて化粧をしており、半袖シャツにブルマといういで立ちだ。
「ニッポンの未来は ホウオウ ホウオウ♪」
歌っているのは、どうやらモーニング娘。の大ヒット曲「LOVEマシーン」らしい。「WOWWOW」のところを「ホウオウ」と変えて歌っていた。
「根岸Sがマイネルホウオウからの1点サインでしたね」
くろたんは、ブルマからはみ出ていた“お稲荷さん”をブルマの中に戻しながら言った。
「ちょっと!汚いもの見せないでよ!」
“お稲荷さん”がブルマの中に戻っていくのを見ていたギョニ子が言った。
「ふふふ。節分が近いというのに、お稲荷さんや太巻きなどの寿司は嫌いなのかな?」
くろたんはそう言うとタコ社長の右隣りに座り、用意してもらっていた響のロックを一口舐めてから言った。
「まあいいでしょう。これを見てください」
1/28(日)東京6R
7−13 (マイネル)コンポート
7−14 (ホウオウ)シェリー
2013 NHKマイルカップ
1着(4)−08(マイネル)(ホウオウ)
2着(8)−17
1/28(日)根岸ステークス
1着(4)−07
2着(8)−16
「日曜東京6レースの7枠に、NHKマイルC勝ち馬のマイネルホウオウ登場。根岸ステークスがその枠連4-8をズバリ使用の枠連1点サイン・・・馬番は8番と17番を、ひとつずつ右にずらした7番16番・・・ときにこういうことをやってくるから侮れない」
おおという歓声が店内に挙がった。マスターが悔しそうな表情を浮かべて言った。
「いやあ、すぐそこにお宝があったのですね・・・死亡ニュースがあったロジック。GⅠ馬が誘導馬になった初めての例でした。同じNHKマイルC勝ちで誘導馬になったマイネルホウオウ。ここでの検討会で名前は挙げていたのに、その東京6レースをみていませんでした。うかつでした・・・」
くろたんが頷いて言った。
「またいつか、忘れたころに同じようなサインをやってくるでしょう」
「くろたんさんは、出馬表読みを進化させているのね?」
ギョニ子が訊いた。くろたんが答える。
「出馬表読みに聖杯なんてものはないでしょうから、終わりのない旅ですよ。砂漠で水脈を求めてダウジングしているようなものです。こんこんと水が湧き出るところを見つけたとしても、いつまで水が出てくれるかはわからない・・」
「ダウジングとは面白い例えですね」
マスターが言った。
「3場開催なら一日36レース。土日で72レース。3着までが当たりとすれば、一週あたり216頭分の水脈があるということでしょうか?」
くろたんが答える。
「そうなりますね。ただ、216個もの水脈を全部見つけるのはまず無理です。誰も気がついていない場所に、こっそりと湧き出ている甘い甘い水をいかに見つけるか。そこが出馬表読みの醍醐味でしょうね」
くろたんはそう言って、ロックグラスの中の氷を中指でひと回しした。真一郎が言った。
「くろたんさんの手法がダウジングなら、我々のやっているのは罠を仕掛けることでしょうか?獣の足跡や糞、近くに水場があるかどうかなどを加味し、獣が通りそうな場所に罠を仕掛ける」
マスターが頷いて、あとを引き継いだ。
「罠を仕掛ける・・・確かにそうかもしれませんね。ごくたまに大きな獲物がかかることもあるが、多くは不発に終わる。獣に餌を食われて逃げられるならまだしも、獣が一頭も通らないこともある・・・少しずつ罠を仕掛ける場所の精度を、つまり予想精度をあげていきたいものですね」
みんながうんうんと頷いた。くろたんが席を立った。
「さて、私は帰るとしましょう。みなさんのお邪魔になってはいけない」
そう言って、亀のような歩みでゆっくりゆっくりドアのほうに近づいて言った。
「くろたんさん!」
麗子ママが背中に声を掛けた。
「その恰好、エロ謎かけが得意な女ピン芸人でしょう?」
くろたんはくるりと振り向き、満面の笑みを浮かべて言った。
「芽吹きました!助六寿司とかけまして、チンコと解く。その心は、どちらも“お稲荷さん”がつきものでしょう!(ブラを整える仕草)・・・ってちゃうわい!!誰が紺野ぶるまやねん!!」
くろたんはそう言って、店を出て行った。
「私も紺野ぶるまだと思ったわ・・・違ったのかしら?」
ギョニ子が首を傾げながら言った。
「もしかしたら、あの恰好でキャロラインママのところへ行ったのかも・・・戻っては来れない禁断の世界に足を踏み入れたとか?」
タコ社長がギャハハと笑いながら言った。
「それはあるかもなあ。お互いのダウジング棒を見せ合って、朝までズッコンバッコン!ダウジンオーナイ♪ こっとばにすればーー♪ ってな」
タコ社長の下品な下ネタには誰も笑わなかった。結局、単なるコスプレだろうということで、くろたんのブルマ姿の話は終わった。
■ 田端さん
2024年1月30日(火)午後3時半
-東京都某区 真一郎が務める病院・言語療法室-
「今日からことばのリハビリを担当する、大泉といいます。よろしくお願いします」
真一郎は、言語療法室のテーブルを挟んで目の前にいる田端さんに、改めて自己紹介した。田端さんは60代後半になる男性患者で、身長は165センチほどで髪はスポーツ刈りのような短い髪だった。
呂律が回りにくくなる構音障害(こうおん=発音)があり、そのほかに記憶障害と注意障害もあった。いずれも軽度の部類であり、病院内のコミュニケーションや生活には大きな支障はなかった。ただ、左半身の麻痺は中等度のものであり、現在は車椅子生活だ。歩行については、ゴールは杖歩行だろうというのが、担当する理学療法士の見立てだった。
田端さんはもともと真一郎の先輩が1ヶ月ほど担当していたが、担当患者数の調整のため、患者の了承を得たうえで、今週から真一郎の担当となっていた。
「こちらこそよろしくお願いします。お手柔らかにお願いしますね」
田端さんはそう言って、人懐っこそうな笑みを浮かべた。真一郎は頷いて言った。
「いきなり難しいことはしませんから安心してください。今日はこれをやってみましょう」
真一郎は、田端さんの前に文章が書かれてあるA3の紙を横向きに置いた。用紙に書かれている文章はすべて平仮名だ。
「この文章を黙読しながら、『あ』『い』『う』『え』『お』の文字すべてに丸をつけてください。このように・・」
そう言って真一郎は、最初の一行の中にある、複数のあ行の文字に丸をつけた。通称、仮名拾い(かな ひろい)と読んでいる課題だ。
「ははあ。あ行全部に丸をつけるわけですね?」
田端さんは言った。真一郎が頷く。
「その通りです。では2行目からやってみましょう」
真一郎はそう言って、A3の用紙の上にクルミ型のペーパーウェイトを置き、田端さんによく削られている真新しい2Bの鉛筆を渡した。田端さんが作業を開始した。結果、見落としが3個あった。
「惜しかったですね。3つ見落としがありました。見直してみてください」
「ええ?3つもありましたか!?」
田端さんは少し驚いた顔をして言った。見落としはないと自信があったのだろう。見直しで、田端さんは3つすべてを見つけることができた。田端さんが見直しで丸を付けた3つの文字に、真一郎は赤ペンで丸をつけた。
「見落とした3個をみてください。すべて左側にあります」
「本当ですね!いやあ、見えてないんだなあ・・・」
田端さんが見落とした3つの文字は、左から1文字目がふたつ、左から2文字目がひとつの計3個であった。左半身に麻痺がある田端さんには、視野の左側が見えづらくなる、左半側空間無視(ひだりはんそく くうかんむし)という症状があった。
この症状があると、歩行中左側にあるものにぶつかったり、ご飯を食べる際に左側にあるおかずに気がつかなかったりすることがある。
田端さんの場合、そこまで重度ではないために、生活レベルでは左側が見えづらいことに気がつかない。このような机上の課題をすることにより、自分の症状に改めて気づくというわけだ。
「ところで大泉先生、これはばたぐるみではありませんか?」
田端さんは、A3用紙の上部に置かれていたペーパーウェイトを手に取って言った。
「そうです、ばたぐるみです。よくご存じですね」
真一郎は感心して言った。田端さんが言った。
「あれはもう20年近く前になるかな・・・花巻の宮沢賢治記念に行ったときに同じようなものを買った覚えがありますよ。引っ越しだかなんだったか、いろいろバタバタしているときに紛失しましたが・・・もしや大泉先生は、岩手出身ではないですか?」
「そうです!岩手出身です」
真一郎はびっくりして言った。訛りがない標準語の口調から、岩手県出身だと見抜かれることはまずなかったからだ。
「ははあ。やはりそうでしたか。ばたぐるみの文鎮を持っているなんて珍しかったものですから・・・あめゆじゆとてちてけんじや。ご存じでしょう?」
真一郎はにっこりとほほ笑んで頷いた。
「宮沢賢治の『永訣(えいけつ)の朝』・・・ですね?妹トシが亡くなる日について書かれた詩です」
「あれはいい詩ですなあ。心に沁みるものがあります。実は私には、3つ下の妹がいたんですよ・・」
田端さんは、少し遠くを見るような目で語りだした。自分が小学校3年生で、妹が小学校に上がる前の冬に、東京で雪が降ったという。珍しく降った雪にふたりは大喜びし、小さい雪だるまを作った。
「ところがですね、先生。雪が降ったといってもたいした量じゃありませんから、二人分の雪だるまは作れなかった。それぞれ胴体にあたるおにぎりほどの雪玉が1個。あとは小さいお団子のような雪玉が1個だけでした。どうしたものかと悩んでいると、妹はそのお団子状の雪玉を、半分こしようというのです」
田端さんは妹の提案通りに、小さい雪玉をなんとか半分にし、それぞれの胴体に重ねた。
「ずいぶん不格好な雪だるまができましたよ。首をこう、すくめているようなね」
田端さんはそう言って、実際に首をすくめてみせた。真一郎と田端さんはふたりで笑った。
「いい思い出ですね」
真一郎がそう言うと、田端さんは頷いた。
「雪だるまを見た母親がえらい私たちを褒めてくれましてね。ケンカせずに仲良くふたりで半分こしたのが気に入ったんでしょうか。1ヶ月ほどその不格好な雪だるま2体は、うちの冷蔵庫に入れてあったと思います」
田端さんはそう言って、目頭を押さえて軽く鼻をすすった。そして、差した目薬がこぼれないようにするがごとく、天井のほうをしばらく見上げていた。
涙がこぼれないようにするためだろう。宮沢賢治の妹トシのように、田端さんの妹も若くして亡くなったのであろうか・・・
「今は・・・もうおられないわけでしょうか?」
真一郎は恐る恐る尋ねてみた。田端さんが笑顔で頷いて言った。
「そうなんです。心臓病でした。でも悔いはなかったと思いますよ。今でも雪が降るとね、雪だるまを2体作って墓参りに行きます。あの不格好な雪だるまを墓前に捧げるのです」
田端さんはそう言って再び天井を見上げた。しかし今度は間に合わず、一筋の涙が右の頬をつたった。
「お恥ずかしいところ・・・」
そう言って田端さんは、テーブルの上にあったティッシュを取り、涙をぬぐった。
■ ななつ星in九州
2024年1月31日(水)午後3時
-東京都某区 真一郎が務める病院-
真一郎は、田端さんを病室まで迎えに行っていた。
「田端さん、大泉です。リハビリのお迎えに参りました」
「ああ、大泉先生」
そう言って、田端さんは雑誌のようなものを枕の下に隠した。全体的に緑色がかった表紙と、馬の尻尾のようなものが見えた。言語療法室へ向かう道中は黙っていたが、言語療法室についてから、真一郎は思い切って尋ねてみた。
「田端さん、あらためて今日もよろしくお願いします・・・ところで、間違っていたらすみません。さっき読んでいたのは競馬ブックじゃないでしょうか?」
「これはこれは、見られておりましたか!」
田端さんはそう言って右手で頭を掻いた。
「実は私、競馬が大好きなんですよ。こうやってこの年になるまで独身というのも、馬好きがたたったんでしょうなあ。母親には、女のケツを追いかけないで、馬のケツばかりおいかけやがってと、さんざん怒られましたっけ」
田端さんはそう言って、屈託のない笑顔を見せた。
「いやあね、ホールのテレビがあるじゃないですか?土曜も日曜も、競馬中継があっても誰もチャンネルを合わせようとしない。うちの病棟には競馬ファンはいないのかなと、寂しく思っていたんです。大泉先生は競馬はやりますか?」
真一郎は頷いて言った。
「ええ・・・まあそうですね・・・重賞とか大きいところくらいでしょうか」
やるというレベルではなく大好きなのだが、そこは立場をわきまえて控えめに言った。
「そうですか!それでは話が合いそうです!」
田端さんはにっこりと笑った。そして、数秒間沈黙してから言った。
「ついでだから白状しちまいますがね、私が好きなのはサイン読みなんですよ。わかりますか?サイン読み?」
真一郎はごくりと唾を飲み込んだ。まさかほぼ毎日スナック忘れな草に通っていることがばれているわけはないが、あなたも同類なんでしょうと、田端さんの鋭い目が言っているような気がしたからだ。
「知っています!というより、大好きなんです、サイン読みが!」
真一郎は、とうとう我慢できずに打ち明けた。職場に競馬のサイン読みファンはおらず、患者にもそのようなことは尋ねにくい。ギョニ子やスナック忘れな草の常連たち以外に、サイン読みについて語れる相手がおらず、ストレスに感じていたのだろう。堰を切ったようにサイン読みが好きなことを田端さんに語ってしまった。
「ほほう!やりますなあ先生!思わぬところで競馬について語れる相手がみつかりましたよ!」
田端さんはそう言って、ティッシュを一枚取り右手だけで器用にチンと鼻をかんだ。
「ところで先生、昨日宮沢賢治の話が出たじゃないですか?宮沢賢治と言えば『銀河鉄道の夜』が有名です。そんなことを昨日の夜考えていましたらね、根岸ステークスのエンペラーワケアは、鉄道がサインだったんじゃないかと思い至ったわけなんです」
来月2月13日が松本零士の一周忌にあたるため、その予告として、九州を走る周遊型臨時寝台列車、「ななつ星in九州」が使われたのではないか、それが田端さんの推理だった。
根岸S
4-(07)エンペラーワケア
川田将雅(佐賀県出身)【10月15日生まれ】
(ななつ)星 in(九州)
運行開始:2013年【10月15日】
松本零士(1938/1/25~2023/2/13)
出生地:【福岡県】 久留米市
「へえー!よくできていますね!」
真一郎は、お世辞抜きで感心して言った。真一郎の評価を気にしていた田端さんは、その言葉を聞いて相好を崩した。
「でしょう?馬番の7とななつ星、川田将雅の誕生日に運行開始日が一緒。そして、川田将雅も松本零士も九州出身ですからな」
「松本零士馬券があるとしたら、今週はどのレースが狙い目でしょうか?」
真一郎の問いに、田端さんは右手で顎を触りながら言った。
「日曜日の京都に組まれている、令月ステークスなんてどうでしょうねえ。令月の『令』が松本零士の『零』だとしたら?・・・確か、松本オーナーのメイショウの馬が何頭か登録していたはずです・・・おっと、こういう話になるなら競馬ブックを持って来るんでした」
真一郎は田端さんに了解を得てから、自分のスマホを開いて見せた。令月ステークスにはメイショウの馬が3頭登録していた。
2/4(日)
京都10R 令月ステークス
<メイショウ 登録馬>
メイショウカズサ (松本好雄)
メイショウミツヤス(松本好隆)
メイショウミライ (松本好雄)
「メイショウの馬は3頭いますね。松本好雄が2頭。松本好隆が1頭です」
真一郎がそう言うと、田端さんは頷いて言った。
「とりあえずキープということろでしょうかね?重賞は東京新聞杯ときさらぎ賞でしたか・・・何かみつけたらまたここで語らせてもらいます。先生も、どんどん見解をおっしゃってくださいね」
田端さんはそう言って、右手を差し出してきた。真一郎も右手を差し出し固い握手を交わした。田端さんが笑って言った。
「うふふ。これじゃあリハビリをしに来てるんだか、競馬の作戦会議をしに来てるんだかわかりませんなあ」
真一郎は心配ないですよと田端さんを安心させた。
「大丈夫です。その両方ですよ」
■ 田中美久
2024年2月1日(木)午後3時半
-東京都某区 真一郎が務める病院・言語療法室-
言語療法室へ着くと、挨拶もそこそこに田端さんが話し始めた。
「先生、面白い物を見つけましたよ!」
田端さんは今日、自分のスマホを言語療法室へ持ち込んでいた。該当ページを真一郎に見せる。
「この小倉競馬場ゲスト、中田・・じゃなくて田中久美・・・じゃなくて美久。今無意識に間違ってしまったように、これは中田久美のことじゃないですかねえ?」
田端さんが示したのは、小倉競馬場のイベント案内ページだった。東京新聞杯ときさらぎ賞の両重賞がある日曜日、小倉メイン小倉日経オープンのプレゼンターだ。元HKT48ということで、小倉競馬場への来場はなんとなく納得できるものの、HKT48のファン以外は知らない人が多いだろう。
「中田久美・・・ですか?」
田中美久も中田久美も知らない真一郎は、田端さんに尋ねた。そのイベントページを見ていたとしても、中田久美なる人物には思い至らなかったであろう。
「ええ、中田久美です。元女子バレーボールの選手で、全日本の監督経験もあります。2020年・・・じゃなかった、延期されたから2021年ですね。東京オリンピック女子バレーボールの監督が中田久美だったんですよ」
「へえ、そうなんですか!」
真一郎は月曜日にスナック忘れな草に来店したくろたんを思い出していた。アップにした髪型、化粧、半袖シャツにブルマ・・・あれはママさんバレーの恰好だったのだろうか。田端さんが説明を続けた。
「今年はパリオリンピックがありますよね?そして東京新聞杯には『東京』がある。一回目の東京オリンピック、女子バレーボールは金メダルを取ったんです。東洋の魔女って聞いたことないでしょうか?」
「ああ、東洋の魔女!それなら聞いたことがあります!」
真一郎がそう言うと、田端さんはニヤリと笑って言った。
「実は先生、先週の競馬に『東洋の魔女』がいたんですよ・・」
田端さんは、少し操作にもたつきながら、自分のスマホで該当するレース結果を見せてくれた。日曜京都の4レースにその馬はいた。
1/28(日)京都4R
2-02 イーストウィッチ 12着
(馬名意味:東方の魔女・蛯名正義)
なるほど、東方と東洋の違いはあるが、「東洋の魔女」と考えていいだろう。
「2番・・・ですか。イクイノックスのラストゼッケンですね?」
真一郎がそう言うと、田端さんは頷いて言った。
「そうなんです。なにかきな臭いでしょう?土曜の東京メインが、イクイノックスを記念するレースになりましたな?」
2/3(土)東京11R
ジャパンカップ2023年
ロンジンワールドベストレース受賞記念 芝2400
(早春ステークスより改称)
田端さんが言う通り、土曜東京メインの早春ステークスは、イクイノックスの勝った昨年のジャパンカップを記念して、ジャパンカップ2023年ロンジンワールドベストレース受賞記念という名称で施行されることが発表されていた。
イクイノックスが有終の美を飾った2023年のジャパンカップは、「2023年ロンジンワールドベストレース」に、イクイノックスは「2023年ロンジンワールドベストレースホース」にそれぞれ選出されていたのだ。日本競馬史上初の快挙であり、日本競馬が世界レベルに近づいていることを証左するものであった。
「ジャパンカップと同じ芝2400戦。確かに匂いますね・・・」
真一郎がそう言うと、田端さんは眉間に皺を寄せて言った。
「中田久美、東京新聞杯、イクイノックス。うまくつながるような気がするんですが、なんでしょうねえ。ひとつピースが足りないような気がするんです・・・」
■ ホエールキャプチャ
2024年2月1日(木)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
スナック忘れな草には、いつもの常連客が揃っていた。真一郎は、日々話して聞かせていた、田端さんとのやり取りを今日も説明した。
「中田久美と東洋の魔女。なかなか面白えじゃねえか!」
タコ社長が腕を組んで言った。ギョニ子と麗子ママも興味を示したようだった。ギョニ子が言った。
「なんとかその患者さんからもらったパスを、ゴールに決めたいわね」
その時、パソコンを操作していたマスターが言った。
「先週のエンペラーワケア。しんちゃんの話にあったように、ななつ星からのサインだったかもしれませんが、中田久美にもつながるかもしれませんよ。これをみてください」
2014/2/17(月)
東京新聞杯
(4-07)ホエールキャプチャ
(蛯名正義・田中清隆)
1/28(日)
根岸ステークス
(4-07)エンペラーワケア
「2014年のホエールキャプチャ。騎手は蛯名正義。これは、先週の京都にいた『東洋の魔女』を示唆するイーストウィッチの蛯名正義厩舎につながります。そして、正義と田中。これは女子バレー監督につながります」
<女子バレー 歴代監督 2009~>
眞鍋 政義(2009~2016)
中田 久美(2017~2021)
眞鍋 政義(2021~)
2014 東京新聞杯
(4-07)ホエールキャプチャ
(蛯名【正義】・【田中】清隆)
みんながおおという歓声を挙げた。マスターが続ける。
「田中美久から示唆される中田久美。その前後は同じ眞鍋政義なんです。政義と中田。ホエールキャプチャはそれを併せ持っているというわけです」
「なるほど!そのホエールキャプチャの4枠7番が、根岸ステークスのエンペラーワケアだったと?」
真一郎が興奮して言った。マスターが両方の口角をわずかに上げて頷く。
「そうです。ですが中田久美の隣には同一人物ではありますが、ふたりの政義がいる。蛯名正義もまた、東京新聞杯優勝騎手として二回名前を連ねているのです」
1998/2/8(日)東京新聞杯
(4-07)ビッグサンデー(蛯名【正義】)
「なんでえ!同じ4枠7番じゃねえか!東京新聞杯でもう一丁があるのかい?」
タコ社長が興奮して言った。マスターが頷く。
「その可能性は十分あると思います。ビッグサンデーが勝った前後の優勝馬を見てください」
1997(ベスト)タイアップ
1998 ビッグサンデー(蛯名正義)
1999(キング)ヘイロー
「政義・・・つまり蛯名正義のビッグサンデーは、『ベスト』と『キング』に挟まれています。イクイノックス自身と2023ジャパンカップは、ロンジンのワールドランキングのベストワンです」
おおという歓声が店内に響き渡った。麗子ママがとどめを刺す。
「東洋の魔女をローマ字で書いてみて。TOUYOUMAJO・・・東洋をTOYOではなくTOUYOUと『U』も使ってだけど。そうすると、TOUYOUMAJOの後半が『UMAJO』になるわよね?」
みんながうんうんと頷いた。麗子ママが続ける。
「UMAJOってサイトがあるわよね?それを見てみたの」
「UMAJONOTEという連載物のナンバー6。紹介されているのは2021年のジャパンカップ、コントレイルが勝ったレースよ」
2020 ジャパンカップ
2-(02)アーモンドアイ
※引退レース
2021 ジャパンカップ
1-(02)コントレイル
※引退レース
2022 ジャパンカップ
ヴェラアズール
2023 ジャパンカップ
1-(02)イクイノックス
※引退レース
「ヴェラアズールの前後3年。ジャパンカップは2番がラストレースを飾っているわ。アーモンドアイとコントレイルで言うと、2年連続よね?これを2週連続と捉えると・・」
根岸S
(4-07)エンペラーワケア
東京新聞杯
(4-07)1着?
「2週連続4枠7番が優勝。つまり蛯名正義の東京新聞杯2勝よ。そして2年連続と7番と言えば・・・」
2022 天皇賞(秋)
4-(07)イクイノックス
2023 天皇賞(秋)
6-(07)イクイノックス 連覇
みんなが喉の奥で低いうなり声をあげた。
「そう。7番はイクイノックスの秋天2連覇になるの。UMAJONOTE、ナンバー6の2番コントレイル。イクイノックスのGⅠ 6勝中2勝は同じゼッケン7番。これじゃないかしら?」
■ 花巻東高校
2024年2月2日(金)午後4時
-東京都某区 真一郎が務める病院・言語療法室-
田端さんは、真一郎が血圧を心配するほど興奮していた。今しがた、真一郎から昨夜のスナック忘れな草の見解を聞いたところだった。
「すごい!すごいですよ大泉先生!7番にはいい馬が入ったじゃないですか!」
東京新聞杯
(4-07)ジャスティンカフェ(坂井瑠星)
「2週連続蛯名正義の4枠7番がV。そこに入ったのがジャスティンカフェ!騎手の坂井瑠星には『ゆうせい』があるじゃないですか?菊池雄星の『ゆうせい』ですよ!彼の出身高校はもちろんご存じですよね?」
田端さんは茶目っ気たっぷりに笑って言った。真一郎が答える。
「はい。花巻東高校ですね。後輩には大谷翔平がいます。そして花巻と言えば、今週話題に上がった宮沢賢治の故郷でもあります」
「それにね、先生。ジャスティンカフェって名前がいいじゃないですか?イニシャルはJC・・・ジャパンカップですよ!」
今度は真一郎が興奮する番だった。そこには気づいていなかったからだ。
「なるほど!ジャパンカップのベストレース選定を受けて、JCのジャスティンカフェですね?これはぴったりです!」
田端さんは大きく頷き、来ていたジャージの上着のポケットから、せんべいを2枚取り出して言った。
「さっき、妹が洗濯物を取り換えに来ましてね。大泉先生とよくしてもらってることを伝えたら、ぜひおすそ分けしてくださいって、せんべいを置いていったんですよ」
せんべいを受け取りながら、真一郎は首を傾げながら訊いた。
「妹さん・・・ですか。田端さんには妹さんは何人いらっしゃるんですか?」
「何人ってひとりですよ?ほら、この前話したじゃないですか、一緒に雪だるまを作ったって?」
真一郎はきょとんとし、それから腑に落ちたのか笑いだしてしまった。宮沢賢治の『永訣の朝』の流れから、てっきり妹さんは亡くなっていると勘違いしていたのだ。
「ということは、心臓病で亡くなった方というのは・・・?」
「ああ、おふくろですよ。おふくろの墓前に、雪が降ると雪だるまを2体お供えするんです・・・・・・妹がいたんですと過去形で言った?いやあそうだったかもしれません。こりゃあ悪いことをしましたなあ。妹はピンピンしてますよ」
田端さんの豪快な笑い声が、言語療法室に響いた。
スナック忘れな草と田端さんの勝負馬券
東京新聞杯
7番ジャスティンカフェの単勝
■ ドクター関西人の狙い目
2024年2月2日(金)午後7時
-東京都某区 スナック忘れな草-
スナック忘れな草の店内には、真一郎の勘違い話を聞いた常連客の笑い声があった。
「そりゃあ、その患者が悪いよなあ。話の流れ、涙、そして『妹がいたんです』という過去形。俺だって勘違いするさ」
タコ社長が言った。笑いすぎて涙をこぼしている。ギョニ子も、しんちゃんは普段からおっちょこちょいなところがあると笑っている。
「JCがイニシャルのジャスティンカフェ。1着で来てくれるといいわね」
麗子ママがそう言うと、みんなが頷いた。スマホを見ていたマスターが言った。ドクター関西人から、狙いの馬番を示すメールが来ていたという。
<ドクター関西人 統制サイン>
●関東
~中山金杯の逆着順馬番起点~
中山金杯17着17番(循環3番)
→フェアリーS 14頭 70隣 3番 2着,58隣 1番 3着
中山金杯16着16番(循環1番)
→京成杯 15頭 70隣 6番 2着,58隣 14番 1着
中山金杯15着14番(循環2番)
→AJCC 12頭 70隣,58隣 12番 2着
中山金杯14着1番
→根岸S 16頭 70隣,58隣 7番 1着
中山金杯13着2番
→東京新聞杯 16頭 70隣,58隣 12番か8番が候補!
東京新聞杯
4-08 ホウオウビスケッツ
6-12 コナコースト
●関西
~京都金杯の人気馬番起点~
京都金杯1人気4番
→シンザン記念 18頭 8隣 14番 3着
京都金杯2人気14番
→日経新春杯 14頭 8隣 8番 1着
京都金杯3人気11番
→東海S 16頭 8隣 3番 3着
京都金杯4人気15番
→シルクロードS 18頭 8隣 5番 3着
京都金杯5人気17番(循環5番)
→きさらぎ賞 8隣 1番か9番が候補!
1-01 ピエナオルフェ
7-09 ジャスティンアース
●小倉
~愛知杯の逆着順起点~
愛知杯14着1番
→門司S 16頭 71,87隣 8番 2着,10番 3着
愛知杯13着4番
→和布刈特別 13頭 71隣 10番 2着,87隣 13番 1着
愛知杯12着6番
→豊前S 16頭 71,87隣 15番 1着,13番 2着
愛知杯11着9番
→周防灘特別 10頭 71隣 8番 2着,87隣 2番 1着
愛知杯10着10番
→巌流島S 18頭 71隣 11番 1着,13番 3着
~~~
愛知杯9着11番
→別府特別 11頭 71隣vs87隣 5,6番vs10,1番
1-01 クリオミニーズ
5-05 ホウオウスーペリア
6-06 ヒルノエドワード
8-10 ヴァモスロード
愛知杯8着7番
→小倉日経OP 9頭 71隣vs87隣 6,8番vs4,1番
1-01 コスモカレンドゥラ
4-04 ハーランズハーツ
6-06 ダークエクリプス
8-08 ニホンピロスクーロ
「よくこんなのを見つけるわね?どういう頭脳をしているのかしら?」
ギョニ子が感心したように言った。マスターが頷いて言った。
「本当ですね。いずれにしても、我々にはない視点からのサインですから助かりますね」
真一郎が言った。
「東京新聞杯は8番と12番が挙がっていますが、同枠馬だと私たちのジャスティンカフェと、マテンロウスカイになりますね」
東京新聞杯
4-07(ジ)ャスティンカフェ ☆
4-08(ホウ)オウビスケッツ ★
6-11 マテンロウスカイ
6-12 コナコースト ★
★=ドクター関西人 注目馬
☆=スナック忘れな草・田端さん 本命馬
「4枠両頭の頭文字で『ジホウ(時報)』。時刻確認サービスは確か、117でしたね。7番11番はないでしょうか?」
「それはいいですね」
マスターが言った。
「私たちの本命馬券にドクター関西人さんのネタも混ぜて、枠の4-6も押さえておきましょう」
スナック忘れな草
東京新聞杯 追加馬券
枠連4-6