精神障害の統合失調症。特徴や症状をご紹介。
障がい者の採用では、精神障害者保健福祉手帳を持つ障がい者の応募が増えています。
精神障害者保健福祉手帳で認定される精神障がいには、統合失調症、気分障がい、てんかん、発達障がいなどが含まれており、手帳の種類や等級だけでどのような特性や困難さがあるかを見極めるのは難しいことです。
それぞれの精神障がいの特性や、配慮すべき内容について知っておくとよいでしょう。
雇用されている精神障がい者の中で最も多い疾病は「統合失調症」です。
統合失調症の症状、発症の時期や状況、発症から回復までの時期、職場でできる配慮についてご紹介します。
「統合失調症」はどのような障がいなのか
「統合失調症」は、思考・感情・行動をある目的に沿ってまとめていく能力が低下する、機能障がいの1つです。約100人に1人がかかるとされ、比較的よくある病気であるといえます。性別によるかかりやすさの違いはほとんどありません。また、雇用されている精神障がい者の中で最も多い疾病でもあります。厚生労働省が発表した「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によると、精神障がい者の最も多い疾病は「統合失調症」で31.2%を占めています。
統合失調症は、かつて精神分裂病と呼ばれていたこともあり、「なんとなく怖い、危ない病気」という間違った認識を持たれる場合も多いです。「統合失調症」という病名に変更されたのは2002年からです。以前の病名は、患者に大きな不利益を与えてしまうことや、精神分裂病という名称がこの病気の本質を表していないことが分かってきたため変更されました。
統合失調症の発症の時期や状況について、見ていきましょう。統合失調症は、若い年代で発病することが多い疾患です。その中でも10代後半から20代前半に発症のピークがあります。ちょうど高校生、大学生、就職して間もない時期に当たります。
発症のはっきりした原因は不明ですが、脳に機能障がいが生じ、思考・感情・行動をある目的にそってまとめていく能力が低下します。脳の神経細胞間の情報伝達役である「神経伝達物質」の機能が過剰であったり、低下したりすることで、様々な症状を引き起こすことが明らかになりつつあります。そのため、機能異常を調整する作用をもつ、抗精神薬という薬物を用いた治療を必要とします。
統合失調症の症状には、「陽性症状」と「陰性症状」があります。「陽性症状」の主な症状として、「実在しない人の声が聞こえる幻聴」や、「実際にはありえないことを信じ込む妄想」があります。幻聴の内容は、自分の悪口やうわさ話、命令などが多く、妄想では他の人から危害を加えられるなどの被害妄想や、自分が偉大な人物と思い込む誇大妄想が見られます。
それ以外にも、「自分が他者に操られていると感じる」、「話にまとまりがなく、他者は当事者が何を言おうとしたいのか理解できない」などの症状が現れることがあります。陽性症状が激しく出ている場合には、入院するケースもあります。
「陰性症状」には、「喜怒哀楽などの感情表現が乏しくなる」、「意欲や気力が低下する」、「会話が少なくなる」、「他者との関わりを避けて引きこもる」などがあります。一般的に、統合失調症の当事者が就労するときには、この「陰性症状」の状態の方が多いですが、服薬はしていることがほとんどです。
日常生活や職業生活において、複数のことを同時にこなすことや、臨機応変に融通をきかせて応対すること、新しい状況に今までの経験を応用するなどの器用さが難しくなります。また、対人関係においても、相手の気持ちや考えを察すること、場面にふさわしい行動をとること、気をきかせて行動することなどが苦手です。
統合失調症の発症から回復までには、個別差がありますが、数年程度かかることがあります。例えば、高校生や大学生で発症して、そのあと数年入院や通院、リハビリ期間や就労の準備期間などを経て、30代前後で就職する人も少なくありません。精神障がいの採用では履歴書および職務経歴書でブランクがあるケースも多いですが、このような背景があります。
統合失調症の人を雇用するときに求められる配慮
投薬により症状が安定していたとしても、「このような病気の状態で本当に働くことができるのだろうか」と心配に思われるかもしれません。当事者による服薬管理や、定期的な通院は必要ですが、それができていれば、多くの統合失調症の方は安定的に働いています。ただ、統合失調症の特性を知った上で、仕事内容や職場環境などで配慮することが求められます。どのような配慮をすることができるのでしょうか。
統合失調症の人は、「とっさの対応」や「変化」に弱いという特性がありますので、場に応じた臨機応変さが求められると対応が難しいことが多くあります。一方で、あらかじめ手順が決まった仕事や、スケジュールがある程度わかっていて、自分のペースで仕事が行えるような業務であれば、落ち着いて仕事に取り組みやすくなります。そのため仕事内容としては、「手順が決まっている」、「自分のペースで仕事を進められる」ものにするとよいでしょう。
また、統合失調症の人は疲れやすいことが多く、また疲れても周囲にそれをうまく伝えることが苦手である場合があります。周囲が聞いても「大丈夫です」と答えてしまうこともあり、自分から疲労感を周囲に伝えることはハードルが高いようです。そのため、どの程度の勤務時間や仕事内容であれば勤務が可能なのかを事前にヒアリングして調整しておきましょう。また、休憩時間は、本人の好きな時間にとらせるよりも、あらかじめ時間を決めておいたほうが休憩しやすいこともあります。本人の希望を聞きつつ、調整してみてください。
精神障がい者の雇用は、障害者雇用率のカウントにおいて、短時間の勤務でも1カウントとすることができますので、はじめは無理をせず、短時間から徐々に労働時間を増やしていくほうが、結果的に安定的に働けることに繋がります。勤務時間については、体調や体力なども含めて、検討していくことをおすすめします(精神障がいの雇用率カウントは、算定特例が延長されています。詳細については、文末の参考リンクをご覧ください)。
障がい者雇用の中でよく行われる配慮の一つは、「担当者を決める」ということです。誰でも新しい職場で仕事を始めるときは不安だと思いますが、統合失調症の人の場合、その不安は大変強いものとなることがあります。いつでも気軽に安心して質問したり、相談したりできる人の存在は、大きな支えとなります。
企業の中には、配慮の一つとして、特に担当者を設けずに「誰にでも聞いていい」と当事者に言っている場合もあるのですが、当事者にとっては「誰に聞けばよいのか?」ということで悩んでしまう人もいます。できるだけ決まった担当者をつけてください。また、担当者がマネジメントを担っていて、会議などで席を空けることが多ければ、サブの担当者がいるとよいでしょう。
また、統合失調症の当事者には「休憩時間には1人でゆっくり過ごしたい」というタイプの方も多くいます。強く誘ったり、仲間入りを強要することが、善意から来るものであっても、負担に感じてしまうこともあります。休憩時の過ごし方をどのようにしたいのか当事者に聞いたり、落ち着いて過ごせるスペースを設けるように配慮したりしている職場も多くあります。
これらのことは、採用面接の時に当事者に確認するとよいでしょう。障害者雇用において、企業には「合理的配慮」を示すことが求められています。合理的配慮とは、障がい者が能力を発揮するために支障となっている状況を改善したり、調整したりすることです。多くの場合、このような申し出は採用のタイミングで行われています。また、採用時のヒアリングだけではなく、定期的な1on1をすることによって、仕事や職場環境で悩んでいることがないか、また体調についての状況を把握しやすくなります。
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