障害者雇用納付金制度とは?
障害者雇用納付金制度とは「障害者の雇用の促進等に関する法律」で設定されている障害者雇用率制度に基づいて、法定雇用率に達さない場合に事業主が一定の金額を納付する制度です。
今回はこの障害者雇用納付金制度の概要や法定雇用障害者数や申告書の作成、申告時期までわかりやすく解説していきます。
■障害者雇用納付金とは
障害者雇用納付金制度の根拠法は「障害者の雇用等の促進に関する法律」です。
この法律は1962年に制定された「身体障害者の雇用等に関する法律」として発足し、1987年に現在の「障害者の雇用等の促進に関する法律」に改正されました。
改正の度に知的障害、精神障害、発達障害と、徐々に対象となる障害を広げていき、現在の形になっています。
同法では一定の従業員数を雇用する事業主に対して障害者雇用率制度(法定雇用率)を設定しています。
障害者を雇用する際にはバリアフリーなど、障害にあった設備の改善や職場環境の整備などが必要となり、経済的負担を伴います。
必要な設備に投資しながら雇用義務を果たしている事業主と、果たしていない事業主、それぞれが公平になるように調整が必要です。
障害者雇用納付金制度はこのような点を考慮し、障害者の雇用の促進と職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき設けられた制度です。
■障害者雇用納付金の内容
では実際の障害者雇用納付金の内容について、詳しく見ていきましょう。
▽法定雇用率未達成の事業主から障害者雇用納付金を徴収
2021年3月1日より、障害者の法定雇用率が民間企業では2.3%(従業員43.5人以上の事業主が対象となります)、国、地方公共団体で2.6%、都道府県等の教育委員会で2.5%以上の割合で障害者を雇用する必要があります。
障害者の雇用義務のある企業が法定雇用率を下回っている場合、本来雇用されるべき障害者数に対して足りない人数1人につき月額50,000円の納付金を納付します。
▽法定雇用率以上の障害者を雇用する事業主に対して調整金、報奨金を支給
法定雇用率を満たしている事業主に対しては、雇用率を越えている人数1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金が支給されます。また、雇用納付金の対象とならない、常時雇用している労働者が100人以下の企業が雇用している障害者の年度合計人数が一定数(全体の4%か72人以上)超えている場合は報奨金が支給されます。報奨金額は障害者1人当たり21,000円です。
▽在宅就業障害者・在宅就業支援団体に業務を依頼した事業主に対して特例調整金、特例報奨金を支給
【在宅就業障害者特例調整金】
雇用率の達成可否を問わず、在宅就業障害者やその支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、在宅就業障害者特例調整金が支給されます。
企業が、在宅就業障害者やその支援団体に対して仕事を発注し、業務の対価を支払った場合、調整額(21,000円)から企業が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数を乗じて得た額の在宅就業障害者特例調整金が支給されます。
法定雇用率未達成の企業については、この在宅障害者特例調整金の額に応じて、障害者雇用納付金が減額されます。
【在宅就業者障害者特例報奨金】
前年度に在宅就業している障害者かその支援団体に対して仕事を発注した場合、在宅就業者障害者特例報奨金が支給されます。
報奨金額は、「報奨額(17,000円)」に「事業主が支払った在宅就労障害者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数」を乗じて得た金額になります。
【特例給付金】
週に10時間~20時間の労働時間で働く障害者を雇用した場合、従業員数に応じ、1人につき月額7,000円(従業員数100人超)か5,000円(従業員数100人以下)の特例給付金が支給されます。1人につき月額7,000円か5,000円の特例給付金が支給されます。
▽各種助成金を支給
雇用率の達成可否を問わず、すべての企業に対して障害者の雇用促進を図るために様々な助成金が整備されています。
■障害者雇用納付金制度に基づく助成金
▽障害者作業施設設置等助成金と障害者福祉施設設置等助成金
障害者作業施設設置等助成金・作用会社障害者福祉施設設置等助成金は、主に設備面で障害者の働きやすさを整備する際に利用できる助成金です。
障害者作業施設設置等助成金は、障害者を雇入れるか、継続して雇用する事業者が、障害者が働きやすいように環境を整えるために設備を設置したり、整備を行う際に利用できる助成金です。車いす対応トイレの新設・改修、スロープや自動ドアの設置等のバリアフリー、精神障害のある労働者が落ち着いて就労するための作業室の設置などが過去の事例としてあげられます。
障害者福祉施設設置等助成金は、雇用している障害者の福利厚生制度の設置や整備をする際に利用できる助成金です。社員食堂のバリアフリーのために手すりを設置したり、休憩室の設置などが実績としてあげられています。
▽障害者介助等助成金
障害者介助等助成金は、事業主が、雇用している障害者の障害の種類や程度に応じて、適切に雇用管理をするために必要な介助を助成する制度です。
以下のものが設置されています。
・職場介助者の配置
・職場介助者の配置の継続
・手話通訳・要約筆記当担当者の委嘱
・重度訪問介護サービス利用者等職場介助
・職場介助者の委嘱
・職場介助者の委嘱の継続
・障害者相談窓口担当者の配置
▽重度障害者等通勤対策助成金
重度障害者等通勤対策助成金は、雇用している重度身体障害者、知的障害者、精神障害者の通勤を補助するための助成制度です。職場に通いやすい社宅の賃借のための助成や、通勤用バス・自動車等の通勤手段を助成します。
・重度障害者等用住宅の賃借
・住宅手当の支払
・通勤用バス運転従事者の委嘱
・駐車場の賃借
・重度訪問介護サービス利用者等通勤補助
・指導員の配置
・通勤用バスの購入
・通勤援助者の委嘱
・通勤用自動車の購入
▽重度障害者多数雇用事務所施設設置等助成金
重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金は、重度身体障害者、知的障害者、精神障害者を多数雇用している事業が、雇用している障害者のために事業施設等を設置・整備する際に利用できる助成金です。
■障害者雇用納付金の仕組み
障害者雇用納付金制度では、納付金の申告義務のある事業主を、常時雇用する労働者の総数が100人を超える事業主と定めています。これに該当する事業主は、毎年度、納付金の申告が必要となります。
法定雇用障害者数が下回っている場合の納付金は不足する障害者一人当たり月額50000円が必要です(納付金額は減額特例により月額40000円に減額される場合があります)。
納付金制度により事業主間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行います。
法定雇用障害者数を下回っている場合は、納付金を納めます。納められた納付金を財源として、法定雇用障害者数を超えている事業主からの申請によって、障害者雇用調整金や報奨金、在宅就業障害者特例調整金や在宅就業障害者特例報奨金が支給される仕組みとなっています。
ここで注意しなければならないのは、雇用している労働者数によって申告義務や法定雇用率以上に障害者を雇用している場合の支給内容が変わってくるということです。
障害者雇用率の算出は、常時雇用する労働者43.5人以上を雇用する事業主が対象です。43.5人以上の労働者を雇用する事業主は障害者雇用状況報告書の提出の義務がありますが、雇用率が満たない場合でも納付金を納める必要はありません。
納付金を納める必要のある企業は、常時雇用する労働者の総数が100人以上で、雇用率が満たない事業所です。
障害者雇用納付金制度では、小さい会社ほど障害者雇用の環境整備は難しく、大きな会社ほどより大きな社会的責任が課されています。障害者を多く雇用することは調整金や報奨金という実質的なメリットを得るのみではなく、社会貢献度の高い会社として認知されると言う広報的メリットもあるということです。
雇用している労働者が100人以下で納付金の対象にならない場合でも、障害者の雇用率が満たない会社は雇用計画作成、適正実施勧告、特別指導などの行政指導が入り、場合によっては企業名が公表されることになります。
■納付金申告・申請のスケジュール
障害者雇用納付金の申告・申請は、前年度4月1日から3月31日までの常用雇用労働者数及び障害者の雇用状況に基づきおこないます。
障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金及び在宅就業障害者特例調整金の申告期限は4月1日~5月15日まで、報奨金および在宅就業障害者特例報奨金の申告期限は4月1日~7月31日までと調整金の申告期限より少し長くなっています。
調整金・報奨金などの支給金は、期限を過ぎて申請された場合は支給されませんのでご注意ください。
▽申告申請書の提出方法
各都道府県の申告申請窓口に送付、または持参のほか電子申告申請が可能です。納付金の納付が必要な事業主は、申告と合わせて、5月15日までに納付をする必要があります。ただし、納付金額が100万円以上あり、申告書提出の際に「延納の申請」を選択した場合は3期に分けて納付することができます。また、調整金や報奨金などの支給申請をされ認められた場合は、その年の10月に支給されます。
▽申告義務の有無に関する確認方法
まず、申告申請の対象期間となる前年度の4月から3月までの各月の算定基礎日に雇用している労総者数を確認します。算定基礎日とは、各月ごとの労働者数を把握する基準日のことです。原則は各月の初日ですが、賃金締め切り日としても差し支えありません。
その月に雇用している常用雇用労働者(※1)のうち、短時間以外の常用雇用労働者は1人を1カウント、短時間労働者は1人を0.5カウントし、その総数が100人を超える月数を確認します。除外率設定業種であっても除外率を適用する前の労働者数で算定します。その結果、100人を超える(すなわち100.5人以上の)月が5か月未満の場合は、納付金の申告義務なしとなり、5か月以上の場合は申告義務ありとなります。なお、申告義務なしとなった場合に、ある要件(※2)を満たす事業主は、報奨金などの支給申請が可能です。
※1 常用雇用労働者:”1年を超えて雇用される者のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上の者”とされており、そこには障害者の被雇用者も含まれます。更に常用雇用労働者のうち、週30時間以上の所定労働時間以上の者を短時間以外の常用雇用労働者と呼び、週30時間未満の所定労働時間の者を短時間労働者としています。
※2 報奨金の支給申請が可能な要件:常用雇用労働者数の総数が100人以下である月が8か月以上で、①4月から3月までの各月ごとの常用雇用労働者数の4%の合計値 又は②「72人」のいずれか多い数を超える障害者を超える雇用している事業主以上については、一人当たり月21000円の報奨金の支給を受けることが可能です。
▽除外率制度について
除外率制度とは、業種によっては一律に障害者雇用率を適用するのは馴染まないということから設けられていた障害者雇用の義務を軽減する制度です。ノーマライゼーションの観点から2004年に廃止されています。
現在では、急激な変化を緩和するために段階的に引き下げがおこわれている状況です。除外率が高い業種としては船舶業、幼稚園、幼保連携型認定こども園などが挙げられます。
■納付金申告義務がある場合
常用雇用労働者数が100人を超える月が5か月以上あり、雇用率に満たない場合は納付金の申告義務があります。
法定雇用障害者数を下回り、納付義務が発生した場合の納付金の月額について前年度の常用雇用労働者数とその月数により、200人以下の月が8か月以上ある場合は減額特例により月40000円、8か月以上ない場合は月額50000円となります。この月額に、不足する雇用障害者数を乗じた額が納付額となります。
雇用障害者数が法定雇用障害者数を超える場合は、1人当たり月額27000円の調整金の申請が可能です。
納付金の申告が必要な事業主のうち、在宅就業障害者や在宅就業支援団体に対して仕事を発注し、必要な要件を満たす場合は、在宅就業者特例調整金の支給申請が可能です。
▽特例調整金・特例報奨金の仕組み
在宅就業障害者への仕事の発注を奨励し、障害者の在宅就業を支援するために、在宅就業障害者に仕事を発注した納付金申告事業主または調整金及び報奨金申請事業主に対して、限度額の範囲内で事業主の申請に基づき、支払った業務の対価に応じた額の特例調整金または特例報奨金を支給します。また、法定雇用障害者数を下回っている事業主で、特例調整金の支給がある場合には、その額に応じて、障害者雇用納付金が減額されます。
在宅就業障害者に仕事を発注するには、事業主が在宅就業障害者と在宅就業契約を締結して仕事を発注する場合と、業務に関する契約を締結した在宅就業支援団体を介して、在宅就業障害者に仕事を発注する場合とがあります。
在宅就業障害者の就業場所や雇用契約によって申請対象とならない場合があります。
■納付金申告・申請の流れ
障害者雇用納付金雇用納付金制度における、納付金申告および、申請の流れは以下の通りです。
①常用雇用労働者数を把握
前年度の各月ごとの算定基礎日における常用雇用労働者数が100人を超える月が年間で5か月以上ある場合は、納付金の申告義務があり、100人を超える月が年間で5か月に満たない場合は、納付金の申告義務はありません。常用雇用労働者数が100人以下である月が8か月以上あり、雇用障害者数の要件を満たした場合は報奨金の支給申請が可能となります。
②各月ごとの算定基礎日における雇用障害者数を把握
各月ごとの算定基礎日における雇用障害者数をカウントします。短時間勤務以外の障害のある労働者は1カウント、短時間勤務の障害のある労働者は0.5カウントとなります。
③算出結果を基に、申告申請書を作成
①と②で算出した常用雇用労働者数と雇用障害者数を基に、申告書を作成します。
④作成した申告申請書を高障機構に提出
インターネットでの電子申告申請を利用するか、各都道府県の申告申請窓口に送付または持参により提出します。
納付金の納付が必要な場合は、申告と同時に5月15日までに納付をする必要があります。調整金や報奨金などの支給金を申請された事業主で支給決定された場合は、10月に指定の口座に振り込まれる流れとなります。
■来たるべき共生社会における労働力確保を考える
現在、日本は未曽有の少子高齢社会に突入しています。それは雇用という観点から見ると労働人口の減少ということになります。
高齢者人口は全人口の約1/4、女性が生涯に生む子どもの平均数を表す合計特殊出生率は1.36(2020年)となり、過去最低水準を更新しています。労働力を確保することが非常に厳しくなっている現状では、今までのように生産年齢の成人男性を核とする雇用形態を考え直す必要があります。女性然り、高齢者然り、障害者然りです。
国はこのパラダイムシフトの中で、高齢者、障害者の労働者としての社会参加のシステムづくりに注力し、全ての人が平等に社会参加する共生社会を目指しています。障害者雇用納付金制度を含む障害者雇用促進政策をしっかりと理解し、労働力確保に活用したいものです。
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