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映画『愛なのに』

セックスにまつわる話は実にやっかいだ。みんな触れたくても、触れない、心の奥にしまっておく話題ではないだろうか?

本作はセックスをテーマにした「皮肉たっぷり」のコメディーだ。このややとっつきにくい題材を真面目に、おもしろおかしく表現した俳優たちには驚かされた。高身長、シャープな顔立ち、低く甘い声、でも女好きで言葉に重みがなく、ちょっとおバカな亮介を演じた中島歩、そして亮介が「群を抜いて」セックスが下手である事を同情を持って指摘するウェデングプランナーの美樹。彼女を演じた向里祐香、ふたりの演技は素晴らしいの一言に尽きる。

世の中には知らない方が幸せだったと思えることがある。亮介の婚約者の一花は、瀬戸康史演じる浩司とのセックスで思いがけず快楽を知ってしまう。新世界への扉を自ら開いた一花は今後満足のいく結婚生活を送ることが果たして出来るのだろうか?ふたりは遅かれ早かれ別れてしまう、誰しもそう思うだろう。
この映画の皮肉は、一時的と思っていた浮気によって、どうしようもなくて、そして果てしないセックスの悩みを抱えてしまう事にあるのではないだろうか。

本作は浩司と女子高生岬の叶わぬ片想いを描いた切ないラブストーリーでもある。浩司にとって彼女の求婚を断るのは簡単なことかも知れない。しかし、一花に簡単にふられ、「どうでも良い人」と思われる辛さを十分知っている浩司は岬の気持ちを尊重し、壊わしてしまわぬよう大切に見守る。
そんな浩司に劇終盤、岬の両親が押しかけてくる。娘の気持ちを考えず、自分達の所有物ように彼女を扱う両親に対し、浩司は「愛を否定するな」と叫び、父親を殴ってしまう。
恋ではなく愛という言葉を使った浩司の叫びは、岬の思いを代弁したものかも知れない。しかし、これは叶わぬ片想いを抱く者のやり場のない叫びであり、まさに浩司自身の一花に対する愛の叫びのようにも聞こえる。
自分の感情を認めたことで、浩司は新しい一歩を踏み出した。岬に宛てた手紙はそんな彼の新しいスタート宣言のようで、わたしもなんとも清々しい気持ちになった。

城定秀夫監督と今泉力哉監督よる、監督と脚本を交互に担当するコラボレーション企画から生まれた本作は、激しい性描写やセックスそのものを題材にしつつ、切ない片想いや浮気の代償をコミカルに描いた。ふたりの監督の個性が融合し、不思議な魅力を持つ作品になった事は間違いない。
心の奥にしまっておくのはもったいない、この思いを誰かと共有したい、そう思わせてくれるとっておきの作品なのだ。












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