【祝】1周年を迎えることができました
去年のちょうど今頃。つまり当館がオープンする数日前。
館内の清掃を終えた私はソファに腰を下ろし、何らかの小説を読んでいました。
もはやタイトルも思い出せないその本の中に「彼女は冬を越すことができなかった」という表現が出てきたことだけは克明に覚えています。
私は本を閉じ、入り口の木扉に目を遣りました。木扉は重く閉ざされていて、それが向こう側から開かれることは永遠にないような気さえしました。
冬を越すことができなかったらどうしよう……
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それから一年が過ぎました。
幸いにも「第8電影」は冬を越え、夏を越え、そして再び冬を越えようとしています。
ホッと撫で下ろした胸の中で無数の思い出が渦を巻いているのを感じます。
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こけら落としとなる初の上映作品は、監督の意向で「超爆音」にて上映されました。
そればかりか、上映終了後、観客の皆さまに怪しい真っ赤なカレーが振る舞われるという前代未聞のイベント付きでした。
他にも記憶に残るような上映イベントがたくさんありました。
「一癖ある」短編だけを集めた短編上映祭を開催したり、上映後に監督とお客さまが入り混じってバーエリアで喧々轟々の感想交換会を繰り広げたり、監督が自作した格闘ゲームを劇場のスクリーンでプレイしたり。果てはバーエリアを大改造してライブイベントまで行いました。
シアターとバーが併設されていることを活かして、いい意味でやりたい放題やることができたと感じています。
とはいえいくらやりたい放題できる場があっても、やりたい放題してくれる人がいなければ宝の持ち腐れです。
当館に上映ならびにトークやライブ、座談会に密会、落語会に忘年会など、さまざまな企画を持ち込んでくださった監督・興行主の皆さまに心から感謝の意を表します。
そしてもちろん、それらのイベントに興味を持って参加くださっている観客の皆さまにも厚く御礼申し上げます。
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盛り上がったのはシアターばかりではありません。なぜなら当館の肩書きは「映画館&バー」なのですから。
映画バー。
なんとな〜く気が引ける場所ですよね。
どうせアレでしょ、ヌーヴェル・ヴァーグがどうだのクレショフ効果がどうだの身体性がどうだのアピチャッポン・ウィーラーセタクンがどうだの、そういうシネフィル的な話題で延々と盛り上がってる場所でしょ、という。
私も実はそうなんじゃないかと思っていました。どうにかお客さまの話についていかねば…という危機感から小難しい映画論を読み漁っていたと記憶しています。
しかし蓋を開けてびっくり。「映画好き」にも無数の系列があることを思い知らされました。
ホラー映画しか見ない方、インディーズのドキュメンタリーが好きな方、U-NEXTで旧作をひたすら渉猟する方、上映中の作品であれば何でも観る方、心に一本の傑作を持っている方、逆にオススメの映画を知りたい方。
映画への向き合い方、あるいは映画の捉え方はお客さまによって本当に千差万別です。
だからこそお客さま同士が集まると、異なる系列同士がぶつかり合い、新たな視点や論点が生まれることも往々にしてあります。
もちろん意見が食い違うこともありますが、「なんだテメェ!」「やんのかコラ!」といった喧嘩はついぞ起きたことがありません。
鷹揚で芯の強いお客さまに恵まれているな…と常々思います。
したがって開店前に思い描いていた「怖いシネフィルおじさんたちに毎日ボコボコにされる」という被害妄想は被害妄想に過ぎませんでした。助かった…
いつも当館にお立ち寄りくださる皆さま、本当にありがとうございます。
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最後に、といってももうそんなに書くこともないので手短に済ませましょう。
一年もの間、当館をご愛顧いただき誠にありがとうございました。これからも引き続きよろしくお願いいたします!
文責・岡本因果