長編脚本:卜殺(ぼくさつ)
概要
第49回 城戸賞応募作本
あらすじ
殺し屋の過去を持つ岩田。現在は、殺し屋業をやめて、静かに山で狩人として生活を行ってる。ある時、ヤクザに追われている青年(青嶋)を助ける。その青年は、過去に岩田が仕事で殺した者の子供であった。岩田は過去の仕事(殺し屋業)に対して、自責の念がある。その青年(青嶋)を救おうと考える。
青嶋は、ヤクザの大切なモノを盗んでいた
。そのため、ヤクザに追われていた。大切なモノとは、債権者の顧客名簿である。顧客名簿を取り返すため、ヤクザの組長である加瀬は青嶋を追う。一度は、下っ端ヤクザに追わせたが、逃げられてしまう。加瀬は自ら、青嶋を追うことにする。加瀬と岩田にも因縁がある。加瀬は過去に岩田に仕事(殺し)を依頼していた。
岩田に助けてもらった青嶋は、山中、猪に襲われる。再び、青嶋は、岩田に救われる。青嶋は、狩りの腕を見て、岩田をより信頼する。また、それと同時にどこか懐かしさを感じる。
岩田と青嶋は、狩った猪を精肉店に卸に行った。精肉店の店主(内藤)は、岩田が狩人になってからの付き合いである。内藤には娘(杏)がいる。青嶋と杏は世代が同じである。青嶋が杏をデートに誘い、後日、デートすることになる。その間、加瀬から内藤に向けて連絡がくる。内藤は、加瀬から借金をしていた。内藤は、加瀬から「若い男が来たか?」という問いに、答えてしまう。(内藤は青嶋の素性を知らない。)
後日、杏は、青嶋とのデートに出発する。杏が家を出発した矢先に、加瀬が内藤のところを訪れる。加瀬は、内藤に、青嶋の顔写真を見せて、青嶋の居場所を聞く。しかし、娘・杏と青嶋がデートに行っているため、居場所を吐くことができない。(娘に危害が及ぶため)加瀬は、内藤を拷問にかける。
その間、岩田は、内藤のところに忘れ物をしていたことに気づく。拷問をかけられている内藤のところに向かう。
青嶋と杏のデートが終わり、二人はそれぞれの家に戻る。その矢先、青嶋は下っ端のヤクザに再び、捕まる。
岩田は、忘れ物を取りに精肉店に向かい、加瀬と対峙する。下っ端ヤクザからの連絡を受けて、加瀬は、青嶋のいる山中に向かう。岩田は、加瀬の右腕的なヤクザ(石原)に足止めを喰らい、青嶋のところへ向かうのが遅れる。
岩田が出た矢先に、内藤の娘・杏が、帰宅する。そこには、拷問を受けた後の父親の姿とヤクザの死体があった。杏は、加瀬が置いて行った青嶋の写真を見る。
岩田と青嶋、加瀬の三者が、山に集まる。
追うモノ、追われるモノの最後は?
登場人物
岩田:
年齢は40代。
殺し屋という過去を持つ。加瀬や他ヤクザから殺しの依頼を受けて、殺しを行っていた。現在は、山中に籠り狩人として暮らしている。猪などのジビエを山の麓の精肉店に卸し売りをしている。自身の過去を振り返り、何か人の役に立ったり、貢献したことはあっただろうか?人殺しという破壊以外に何も生み出さない職業に嫌気が差し、殺し屋をやめる。(しかし、周りの人間はそうは思っていない。)自身の行動と考えに葛藤を抱えている。何か役に立つことはできないかと?ある時に山中で若者(青嶋)が何者かに追われているところに遭遇する。若者(青嶋)が過去に仕事で殺した者の息子であることに気づく。
青嶋:
年齢20代。両親が共にヤクザから借金をしていた。借金から父親はヤクザの金を盗み、殺し屋に殺されてしまう。
バカだが、どこか憎めないキャラクター。
自分なりに、現状をなんとかしようとする意思がある。人間味がある。
加瀬:
Y組系*次団体のヤクザ組長。独特なユーモアと独特な考えがある。ヤクザの持ち物を奪った青嶋を追う。
年齢は30代後半から40代前半。
岩田より年齢は下。
石原:
加瀬の右腕的な存在。無口。ロボットのように加瀬の命令を聞く。
ゆとりヤクザ1:
ホスト上がり。馬鹿。今どきの若者。
年齢は20代。
ゆとりヤクザ2:
ホスト上がり。馬鹿。今どきの若者。
年齢は20代。
内藤:
精肉店店主
年齢は50代くらい。
岩田が狩りをした肉を買ってくれる店。
ジビエも取り扱っている精肉店の店主。
店を立ち上げるために、加瀬に借金をしている。
杏:
内藤の娘。年齢は20代。女性。
青嶋に好意を抱かれる。
精肉屋で働いている。
オカマ:
オカマ。たまたま、バーで岩田に遭遇し飲む。また、青嶋に酔い潰れたところ、水をもらう。職業は看護師。年齢は不詳。
本文
◯オープニング
岩田(心の声)「殺した人間はよく覚えている。」
パッシュ。パッシュ。
サイレンサーの音が鳴る。
◯アパート(回想)
状況説明:
青嶋の父親と母親がヤクザの金を盗み持
ち逃げしようとしているシーン。
青嶋の両親は、ヤクザから逃げようとア
パートを出ようとするが、殺し屋である
岩田と遭遇する
ボロアパートの室内。青嶋と青嶋の母は
荷造りをしている。
夜遅くにもかかわらず、青嶋の母は、青
嶋にランドセルを背負わせる。
青嶋の母「これでよし。」
青嶋の母は、青嶋に紙を手渡す。
青嶋の母「ここに書いてあるところに行くのよ。」
ガチャ。
その直後、アパートの扉を開ける音が部
屋に響く。男が部屋に入ってきた。
青嶋の母「何やってるのよ!」
青嶋の母は大きな声で怒鳴る。アパート
の扉を開けたのは、岩田だった。
岩田は黙って、アパートの中に押し入
る。履き物は脱がない。土足のまま部屋
に侵入する。
青嶋の母「何、勝手に入ってきてるのよ!」
青嶋の母は、再び怒鳴る。近くにあった
酒瓶を手に取り、岩田に襲い掛かる。
バン。
岩田は、青嶋の母を殴る。青嶋の母は、
その場で倒れてうなだれる。
青嶋は、母が殴られて、うなだれている
いるところを静かに見ている。
青嶋の母「うぅ。」
直後、岩田の背後から青嶋の父親が岩田
めがけて殴りかかってくる。
青嶋の父「うぁー。」
バン。
岩田は気配に気づき、素早く対処する。
青嶋の父は、うなだれる。
青嶋の父「うぅう。」
岩田は、ゆっくりしゃがみ、青嶋の父の
髪を掴む。岩田の右手にはサイレンサー
が握られている。サイレンサーは青嶋の
父に向けられている。
岩田「どこに、隠した?」
青嶋の父「誰が喋るかボケ!」
パッシュ。
岩田は引き金を引いた。青嶋の父の頭部
から、血が流れる。
あっとい間に血の水たまりができた。
岩田「どこに隠した?」
岩田は振り返り、岩田は再び、青嶋の母
に向けて話す。サイレンサーは青嶋の母
に向けられている。
青嶋の母「知らないわよ、、」
青嶋の母の視線は、岩田に向けられてい
た。岩田に対する回答の際、青嶋の母の
視線は青嶋に向けられた。
岩田は、青嶋の母に向けて引き金を引
く。
パシュ。
サイレンサーの発砲音がなり、サイレン
サーの先には硝煙が立っている。
青嶋は、死んだ母を黙って見ている。岩
田は、銃口を青嶋に向ける。覆面を被っ
ている岩田だが、覆面の内部には汗をか
いている。首から汗が滴る。
岩田は銃を下ろし、アパートを後にす
る。
バタン。
岩田は扉を閉める。青嶋は死んだ父と母
を見ている。青嶋の目には、涙はない。
◯道中(回想)
状況説明:
岩田に殺されずに済んだ青嶋。
母親からもらった地図を頼りに深夜、道
を歩く。
幼い青嶋は、道を歩いている。母からも
らった紙を頼りに目的の場所に向かう。
紙には血がついている。服にも血があ
る。青嶋地震の血ではなく、青嶋の両親
の返り血である。
青嶋は靴を履いていない。靴下の裏は、
歩いたことにより、真っ黒だ。
◯児童施設(回想)
状況説明:
無事に青嶋は、地図の目的地に着く。そ
こは、児童施設だった。
青嶋の母は自信と父親が殺されることを
想定していた。青嶋に地図を渡し青嶋だ
けでも逃がそうとした。
青嶋は、児童施設に着いた。
青嶋の様子を見て職員が慌てて駆け寄
る。タオルで返り血をふく職員。
別の職員が、青嶋のランドセルを開ける
と、そこには、札束があった。
職員は札束を見て驚いた。そして職員は
青嶋のことを見て、駆け寄りぎゅっと抱
きしめる。
◯山中(夜)
状況説明:
青嶋が成人になっている時代。
加瀬の組員である下っ端ヤクザが、青嶋
を追っている。一度は青嶋を捕まえる
が、再び山中で取り逃してしまい、青嶋
を追う。
青嶋「はぁはぁ。」
山中を走る青嶋。
ゆとりヤクザ1「待て!コラ!」
青嶋「はぁはぁ、誰が待つかボケ!!」
青嶋は、振り返ってゆとりヤクザ1に向
けて言う。
ゴッ。
先回りしていた下っ端ヤクザが鈍器で青
嶋の頭を殴る。
ドサッ。
青嶋の倒れる。
ゆとりヤクザ2「やったツ。」
ゆとりヤクザ2は、軽く飛び跳ねる。
ゆとりヤクザ1「ナイス!」
ゆとりヤクザ2「どうする?」
ゆとりヤクザ2がゆとりヤクザ1を見
る。お互い目を合わせる。
ゆとりヤクザ1「どうするって何が?」
ゆとりヤクザ2「いや、これから。」
ゆとりヤクザ1「いや、俺が捕まえたんだか
ら、お前が考えろよ。」
ゆとりヤクザ2「いやいやいや。そもそもお前
が取り逃したんだから、お前が考えろよ!」
ゆとりヤクザ1「それは関係ないだろ!加瀬
さんと石原さんにお願いされてたのは、お
前じゃん。」
ゆとりヤクザ1「だからお前が考えろよ!」
ゆとりヤクザ2「なんだよ!」
少しゆとりヤクザ2が考える。
ゆとりヤクザ2「とりあえず、石原さんに連
絡しよう!」
ゆとりヤクザ1「いいね(絵文字)ナイス!」
再び、二人のなかで沈黙。
目をお互いに目を合わせるゆとりヤク
ザ。
ゆとりヤクザ1「お前がかけろよ」
ゆとりヤクザ2「なんで俺がかけるんだ
よ。」
ゆとりヤクザ2「お前がかけろよ。取り逃し
たのお前じゃん!」
ゆとりヤクザ2「お前がちゃんと報告しろ
よ!」
ゆとりヤクザ1「やだよ、俺」
ゆとりヤクザ2「今回は俺じゃないでしょ。
お前ぜんぜん案だしてないしッ!」
ゆとりヤクザ1「ん゛ーー。」
ゆとりヤクザ1は、スマートフォンを取
りだす。スマートフォンを操作して、石
原に電話をかける。
プルル。
ゆとりヤクザ1は、スマートフォンで石
原と通話を行う。
ゆとりヤクザ1「あっ。もしもし、自分で
す。」
ゆとりヤクザ1「あっいや。ごめんなさ
い。」
ゆとりヤクザ1「すみません。」
ゆとりヤクザ1「あっいや。捕まえまし
た。」
ゆとりヤクザ1「あっすみません。」
ゆとりヤクザ1「あっはい。一回逃げられ
ちゃったんですけど。」
ゆとりヤクザ1「違います。逃げられてない
です。」
ゆとりヤクザ1「はい。はい。本当です。
ちゃんと捕まえました。」
ゆとりヤクザ1「いや。ちゃんといます。」
ゆとりヤクザ1「ちゃんと目の前にいま
す。」
ゆとりヤクザ1「はい。はい。わかりまし
た。」
ゆとりヤクザ1「はい。はい。復唱しま
す。」
ゆとりヤクザ1「取られたものを取り返
す。」
ゆとりヤクザ1「ちゃんと、トる(殺
す)。」
ゆとりヤクザ1「そのあと、埋める。」
ゆとりヤクザ1「はい。はい。あっわかりま
した。」
ゆとりヤクザ1「はい、大丈夫です。失礼します。」
ガチャ。
電話を切るゆとりヤクザ1。
ゆとりヤクザ1「ふー。疲れた。」
ゆとりヤクザ2「お疲れ。」
ゆとりヤクザ1の肩を叩くゆとりヤクザ2。
ゆとりヤクザ2「で。どうしろって?」
ゆとりヤクザ1「お前ちゃんと聞いてなかっ
たのかよ。」
ゆとりヤクザ2「お前が、石原さんと電話し
てたんだろ。」
ゆとりヤクザ1「あー。そうだった。」
ゆとりヤクザ1「とりあえず。こいつの荷
物!盗まれあたものを取り返すんだよ!」
ゆとりヤクザ2「オッケー。わかった。ナイ
ス。」
ゆとりヤクザ1「褒めんなって!照れるじゃ
ん。」
ゆとりヤクザ2「褒めてねーよ。とりあえず
やるぞ!」
ゆとりヤクザ1「了解!」
ゆとりヤクザ1「ところで、トるって何?」
ゆとりヤクザ2「お前そんなこともわかん
ねーのかよ。」
ゆとりヤクザ2「トるってのはな」
ゴッ。
背後から岩田がゆとりヤクザ1と2を殴
る。
岩田「‥。」
岩田は、足でうつ伏せになっているゆと
りヤクザを仰向けにする。
スーツの襟についている代紋を確認す
る。
続いて、岩田は、青嶋の身元を確認する
ため、青嶋の財布をジーンズのポケット
から取りだす。免許証を取り出して青嶋
の身元を確認する。
岩田「青嶋、、、」
何かに気づく岩田。
続いて岩田は、青嶋のカバンを開ける。
岩田「これは、、」
岩田はカバンのチャックを閉めて、青嶋
を抱える。岩田は、深い森の中に消え
た。
◯山小屋(岩田宅)
状況説明:
ゆとりヤクザから、青嶋を救った岩田。
山中にある山小屋に青嶋を保護してい
る。青嶋はゆとりヤクザに鈍器で殴られ
気絶してる。青嶋はソファーで寝かされ
ている。
青嶋「はっ!」
青嶋は、山小屋で目が覚める。青嶋はあ
たりを見回す。
岩田「目が覚めたか?」
青嶋「なんや、ここは?」
岩田「山小屋だよ。」
青嶋は、部屋の中を見渡す。
青嶋「おっさん何者や?」
岩田「ここら辺でハンターをやっている。」
青嶋「そういうことを聞いてるんやない。」
青嶋「おっさん、こっちの趣味あんのか?」
青嶋は右手を頬の近くに置いた。
※おかまのポーズをやった。
岩田は少し呆れたような顔をして答え
る。
岩田「違う。ただ行き倒れたお前をここまで
運んだだけだ。」
青嶋「オカマじゃない、ハンターね。」
岩田「オカマは関係ないだろ。オカマでも救
われれば、命の恩人だ。」
青嶋「アホか、キリストはオカマか?ブッダ
はオカマか?」
岩田「もちろん違うが。命の恩人だぞ。」
岩田「オカマの何がそんな気に入らない?」
青嶋「気に入らないことはたくさんあるわ。
ズケズケもの言うだけ言って、知識人ぶっ
て嫌いやわ。オカマの立場を利用して他の
人が言えないことを言ってるだけや。中身
はただの無礼なことや。」
岩田「お前も随分ズケズケものを言っている
じゃないか。」
青嶋「うるさいわ。自分立場を利用して発言
せんわ。正々堂々ズケズケ言うわ。」
青嶋「それに、わしには、ユーモアがある
は。」
岩田「オカマに失礼だろ。俺はオカマじゃな
いが。」
青嶋「周りの人間は、オカマ批判すると、差
別主義者になるから、誰も反論せんのや。
とりあえず、認めて持ち上げてるだけ
や。」
青嶋「オカマは、自分の立場を利用して、ヅ
ケヅケ言うてるだけや。社会的弱者の中に
も悪はあるわ。」
岩田「お前のオカマ論争はどうでもいい。」
青嶋「確かにそやな。話がそれまくった
わ。」
青嶋「なんで助けたんや?」
岩田は答えない。
岩田「あんな山の中で、何をやっていたん
だ?」
お互い、質問を行う。
青嶋「そんなん俺の勝手やろ!」
一瞬、間があく。
青嶋「あーあ。」
青嶋「助けてくれたことには、礼を言う
わ。」
青嶋「わし、先急いでるねん。ここいらでお
いとまさせていただくは。」
岩田「今日は、ここに泊まれ。この辺りは野
生動物が、出るぞ。」
青嶋「誰がおっさんの家になんか泊まるか!
気色悪い。生まれ変わって美女になってや
り直してこい。なんで野生動物みたいな毛
だけのおっさんと一夜をともにせなあかん
ねん。」
青嶋の話を流して、して岩田は答える。
岩田「すでに野生動物以外に追われていたよ
うだが。」
青嶋「なんや、知っとるやん。いやらしい、
おっさんやな。」
青嶋「わしが、どこ行こうが勝手やろ。赤の他人やろ。」
岩田は、答えない。
青嶋「ほな。」
青嶋は立ち上がり、山小屋の出口に向か
う。
岩田「おい。」
岩田は青嶋に向けて声を掛ける。次の瞬
間には、青嶋の前まで移動していた。
青嶋「なんや?」
青嶋は振り返る。
青嶋「おっさんも、しつ」
岩田「これ、大事なモノなんだろ。」
顧客名簿が入ったかばんを渡す。青嶋は
驚いた表情をする。
青嶋「ふん、ほなな。色々世話になった
な。」
青嶋は雑に受け取る。
バタン。
青嶋は、山小屋の扉を閉める。
◯山中
状況説明:
岩田に助けてもらった青嶋だが、岩田の
山小屋を出ていく。青嶋は一人山中を歩
いている。歩いてる最中に獣の息づかい
が聞こえてくる。獣は猪だった。青嶋
は、猪に遭遇する。
青嶋「なんやねん。あのおっさん。ホンマ気持ち悪い。」
山中を歩く青嶋。
ガサガサ。
何かが、動く音が聞こえる。青嶋は少し
驚き、歩くのをやめる。
青嶋は、音の鳴る方を見る。しかし、そ
こには何もいない。
青嶋「ふぅ。」
青嶋は安堵して、再び振り返ると、そこ
には、猪の姿があった。猪の鼻息は荒
い。猪の大きさは犬の大型犬ほどの大き
さである。
青嶋は、体が固まってしまった。
猪の鳴き声が聞こえる。
猪は、鳴き声と共に、真っ直ぐ青嶋に向
かって、突進する。
バン。
猪の頭吹き飛んだ。青嶋は、息を呑ん
だ。
カサカサ。
物陰から現れたのは、岩田だった。その
手には猟銃があった。
岩田「出るっていただろ。こいつを追ってた
んだよ。」
青嶋「おっさん。」
岩田「全く、無事か?」
青嶋「ああ。」
ゆっくり、猪の方に向かう岩田。
頭が完全に吹き飛んでいることを確認す
る。先ほどの物陰からの音は岩田だっ
た。
青嶋「おっさん。」
岩田「ん?」
青嶋「ありがとう。」
岩田「ああ、行くぞ。」
後ろ姿を見て、青嶋はふと懐かしさを覚
える。
青嶋「おっさん、どっかで会ったことある?」
少し間を置く。
岩田「ないよ。」
青嶋「そうかー。」
岩田「ささっとたて。」
岩田はぶっきらぼうに青嶋に向かい話
す。
青嶋「はは、腰ぬけて、立てへん。」
◯ヤクザ事務所
状況説明:
加瀬の登場シーン。ゆとりヤクザがヤク
ザ事務所に戻ってきている。加瀬が、青
嶋をを取り逃した顛末をゆとりヤクザか
ら聞く。ヤクザのため、当然、聞くだけ
では、収まらない。加瀬のキャラクター
がわかるシーン。
加瀬「なーんで逃しちゃうのかな。」
加瀬は机に腰掛けている。ケータイゲー
ムをやりながら、ゆとりヤクザ1と2に
向けて話す。加瀬はメリケンサックをつ
けている。
ゆとりヤクザ1と2は、全裸で正座させ
られている。
加瀬「あーダメだ。このキャラ。使えんわ。」
加瀬「お前らみたいだわ。」
ゆとりヤクザ1と2は黙って俯いたまま
である。加瀬はゆとりヤクザ1と2に
いっさい視線を合わせずに話を続ける。
加瀬「黙ってても、わからないでしょ。全然
怒ってないからさ。」
ブブー。
ケータイゲームのゲームオーバーの音が鳴
る。
加瀬は立ち上がる。
加瀬「あーちくしょ!」
加瀬はゆとりヤクザ2を殴る。
ゆとりヤクザ2「んん。」
周りの音は、ケータイゲームの音とゆと
りヤクザ2の嗚咽のみである。
加瀬「あー今のはゲームに対してね。」
ここでようやく、加瀬はゆとりヤクザ1
と2を見る。ゆとりヤクザ2は項垂れた
ままである。
加瀬「ふー。」
加瀬はため息を吐き、天井を見上げる。
加瀬「別にさ、そんな難しいことを聞いてな
いのよ。なんで逃したのか聞きたいだけな
のよ。こっちは建設的な会話をしたいだけ
なに。寂しいよ。おじさんは。」
加瀬はゆとりヤクザ2に向けて話す。
ゆとりヤクザ1は俯いたままである。
ゆとりヤクザ2は殴られた頬を抑えてう
なだれている。
加瀬「無視?怖いねー。」
周りの空気が変わった。
ゆとりヤクザ1は、それを察知して、声
を上げる。
ゆとりヤクザ1「逃げられました!」
ゆとりヤクザ1が慌てて回答する。
ゴッ。
ゆとりヤクザ2「ぃい゛い゛。」
加瀬は話をしていないゆとりヤクザ2
を、殴る。
加瀬「だからさ〜、なんで逃したのかを聞いてるのよ。」
ゴッ。
再び、加瀬がゆとりヤクザ2を殴る。
ゆとりヤクザ2「ぃい゛い゛。」
加瀬「手が痛くなってきちゃった。」
加瀬は握った拳を一度解く。
加瀬「石原ー。道具。」
石原「はい。」
石原は、静かに、しかし、はっきりと返
事をする。石原は、機敏に無駄な所作な
く別室に移動する。
ゆとりヤクザ1「待ってください!」
慌てて話すゆとりヤクザ1。何がくるか
は予想はつかないが、自分にとって悪い
ことであることをゆとりヤクザ1は察知
した。
石原「はい。」
ゴト。
石原が執務室に戻ってきて。まな板と包
丁を机の上に置く。
加瀬「今、料理にハマっててー。ささがきっ
て知ってる?ごぼうとかを鉛筆削るみたい
に切るやつ。」
ゆとりヤクザ1の話を無視して、加瀬は
話す。
ゆとりヤクザ1は、震えている。
ゆとりヤクザ2は、殴られて気絶したま
まだった。
ゆとりヤクザ1「知らな」
ゆとりヤクザ1の回答を遮り、青嶋は話
を続ける。
加瀬「ささがきエンコ。やろう。」
ゆとりヤクザ1「ヒっ。」
慌てて立ちあがろうとする。石原はそれ
を察知してゆとりヤクザ1を抑える。
加瀬「エンコ詰めにも遊び要素入れる。俺っ
てセンスいいだろう〜。なぁ石原〜。」
刺身包丁を握りながら話す加瀬。
石原「はい。」
ゆとりヤクザ1を抑えながら回答する石
原。
加瀬「ただのエンコだとつまらないだろ?」
加瀬はゆとりヤクザ1に対して質問す
る。
ゆとりヤクザ1「次はちゃんと捕まえます!
ぜったいちゃんと捕まえます!」
加瀬「あっそ。」
ケータイゲームの音楽が流れる。
ゆとりヤクザ1「ぎゃー。」
加瀬は、ゆとりヤクザ1のエンコ詰めを
終えて、椅子に机に足を置いた状態で
座っている。
ゆとりヤクザ1「あー、あっ、あー。」
ゆとりヤクザ1の指は骨が剥き出しに
なっている。
加瀬「あのへん、債権者の内藤さんいなかったけ?」
石原「はい。」
加瀬「連絡しておいて。」
加瀬「そういえば、岩田さんって今どうしてるんだろ?」
石原を見る加瀬。
ゆとりヤクザ1「あー、あっ、あー。」
叫び続けるゆとりヤクザ1。
加瀬「もう、うるさいから」
石原「はい。」
石原は骨が剥き出しになっている
指を切断する。
ダンっ。
◯市街地・バー(夜)
状況説明:
岩田は、猪から青嶋を助け出した。しか
し、岩田はそのまま睡眠することができ
ない。青嶋は、岩田が過去殺した夫婦の
子供であった。
岩田は、免許証からそれが分かった。
さらに、青嶋が債権者リストを岩田が元
雇われていたヤクザから盗み出していた
岩田はそれらのことがあり、眠れなくな
っていた。
岩田はバーのカウンターにいた。岩田は
イスキーのロックを飲んでいる。
銘柄はありきたりなものだ。彼にとっ
て、銘柄はどうでも良く、眠れればそれ
でよかった。
客は岩田のみだった。岩田は静かにグラ
スを傾けると、ドアが開く音が聞こえ
た。
ガラン。
オカマ「マスター、ビールください(ハー
ト)。」
オカマが入店してきた。
岩田の隣の一つ席をあけて、オカマは
座ったオカマはかなり酔っていた。
オカマはタバコに火をつけると、岩田に
気がついた。
オカマ「あらー、いい男が座っているじゃな
い。」
岩田は無視した。
オカマは、席を一つ詰めて、岩田の隣に
きた。その時、バーのマスターがオカマ
に向けて、飲み物を渡した。
バーのマスター「どうぞ。」
オカマ「ありがとう(ハート)。」
オカマはグラスを見る。
オカマ「随分、透明なビールねー。」
バーのマスター「水になります。飲み過ぎです
よ。」
オカマ「うるさいわね。飲まなきゃ、股にぶら下がってるナニがなくなんないのよ。」
バーのマスターに向かっていう。
岩田「フッ。」
それを聞いて、岩田は吹き出す。
オカマ「あらー、イケオジも笑ってくれた
わー。」
オカマ「乾杯しましょ。乾杯。」
オカマは水をもち、岩田に向けて乾杯の
ポーズをする。岩田もそれに応える。
オカマ「カンパーイ。」
岩田「乾杯。」
オカマ「お兄さんはなにをやってる方なんですか?」
岩田「殺し屋だよ。」
オカマ「はっはー。」
オカマは大笑いする。岩田は正直に答え
た。
オカマ「お兄さん、冗談言わなさそうなの
に、面白いこと言うわねー。」
オカマ「いいわー。私も殺してほしいー。」
オカマ「マスター。この人殺し屋ですっ
て。」
マスター「岩田さんは、ハンターだよ。猟師
さん。」
オカマ「なるほどねー。だから殺し屋って言ったわけね。はっはー。ひー。」
オカマは鼻で息を吸い、豚のように笑う
オカマ「動物の殺し屋さんとカンパーイ。」
岩田とオカマは、再び乾杯をする。
オカマ「ヒー。」
バタン。
オカマそのまま寝てしまった。
バーのマスター「すみませんね。この人、飲み
過ぎちゃうといつもこんな感じなんで
す。」
岩田「いえ、大丈夫です。」
岩田は、静かにウイスキーを傾ける。
その表情は、固かった。改めて、自分の
言葉で殺し屋という事実を受け止めて
いるようだった。
◯山小屋(朝)
状況説明:
山小屋を飛び出した青嶋は、山中で猪と
遭遇した。しかし、岩田が助けに入り、
猪を狩る。狩った猪を精肉店に卸に行
く。
ダン!
車中に昨日とった猪を乗せる岩田。
青嶋「おっさん。ありがとうな。」
岩田「大人しくしてろよ。命が欲しかったら
な。」
岩田は、車に乗り込む。
バタン。
岩田は車の扉を閉める。
助手席の方を見ると、
そこには、青嶋の姿が。
青嶋「ひとりでいる方が危ないやん。」
バタン。
青嶋は扉を閉める。
◯車中
状況説明:
狩った猪を精肉店に卸す道中での、岩田
と青嶋の会話。岩田は青嶋の過去に迫ろ
うとする。
青嶋「あー。大漁やな。」
岩田「お前が安易に外に出たからな。」
青嶋「ええやん。猪も狩れたし、猟師冥利に
尽きるやろ。わいが囮になったんやで。」
岩田「どうだが、腰がぬけて立てなかった癖
に。」
青嶋「うるさいわ。とにかく結果として採れ
たんやからええやろ。」
岩田「ふふ。まあな。」
青嶋「ニヤ」
笑う二人。
少し間をおいて、岩田は口を開く。
岩田「あの夜、何に追われてたんだ。」
青嶋「おっさんもしつこいな。」
黙って青嶋を見る。再び、前をみて運転
する。何かを察した、青嶋は口を開く。
青嶋「人生は、常に誰かに追われているんや。」
岩田は黙って聞く。青嶋は続けて話す。
青嶋の目は遠くを見ている。
青嶋「人生は自分の力でコントロールできん
のや。ヤクザは上納金に追われ、借金取り
は、金主に追われている。借金をした人間
は借金取りに追われている。何かに追われ
ているるのが人生や。」
青嶋「わしも何かしらに追われているん
や。」
少し間を置く青嶋。岩田は黙って話を聞
く。
青嶋「わし、親、殺されたんや。親父、ヤク
ザで借金があってな。ヤクザの金ちょろま
かしてな。雇われの殺し屋に殺されたん
や。」
青嶋は少し間を開ける。
青嶋「そして、わしは、親父を殺したやつを追う。」
岩田は黙って、青嶋の話を聞く。
◯山中(回想)
状況説明:
青嶋の話を聞き、過去をフラッシュバッ
クする。
回想シーン。
猪に追われている青嶋を助けるシーン。
岩田の視点での回想。
岩田は青嶋の背後に立ち、襲い掛かる猪
に照準を当てる。岩田は、額に汗を
かく。引き金をゆっくり引く。引いた瞬
間、さらに、岩田が殺し屋時代だった時
の回想に入る。
◯アパート(回想)
状況説明:
青嶋の話を聞き過去をフラッシュバック
する。
オープニングでの岩田視点での回想シー
ン。
青嶋に引き金引くの躊躇い、サイレン
サーをしまう。
回想終わり。
※岩田は、幼少期の青嶋に向かって、
引き金を引きそうになったことと
青嶋を背に猪に向かって、引き金を
引くことが重なり、一瞬躊躇してしま
った。その際の岩田の心情を描いた
シーン回想である。
◯車中
ガタン。
車が車道にある石を踏む。
岩田は衝撃で、古い記憶の回想から目を
覚ます。青嶋は話を続けていた。
青嶋「猪もそうや、猪はおっさんに追われてる。」
青嶋は冗談を言う。
そして、岩田を見てニヤつく。
岩田「フッ。」
青嶋のジョークに口元が緩む青嶋。
岩田は車を走らせる。
◯精肉店
状況説明:
狩った肉を精肉店に持っていく岩田と青
嶋。そこで青嶋は、店主の娘である内藤
の娘・杏と、いい雰囲気になる。
青嶋は、杏とデートの約束をする。デー
トは次の日である。
その裏で、ヤクザ・石原(または加瀬)
から内藤に向けて電話がかかっててく
る。
精肉店の前に車を停める岩田。
青嶋「なんやここ?」
岩田「精肉店だ。ここで狩った猪を卸す。」
青嶋「なるほどなー。」
岩田と青嶋は、車から降りる。岩田は軽
トラックの荷台から猪を下ろす。岩田と
青嶋は、精肉店に入店する。岩田は猪を
担いでいる。
杏「こんにちは。いらっしゃいませ。」
青嶋「めっちゃかわい子ちゃんやん。」
青嶋「ええなぁー。うちとデートしよ。」
岩田「デートはしない。」
青嶋「おっさんには聞いとらんわ。」
照れる内藤の娘・杏。
青嶋「じゃぁ。駆け落ちか、それとも夜逃げか。」
少し困った表情をする内藤の娘・杏。そ
の時、カウンターの裏から、店主である
内藤が出てくる。
内藤「いらっしゃい。岩田さん。」
岩田「こんにちは。」
カウンターに猪を乗せる。
バタン。
店の扉が開く音が聞こえる。杏は店の外
に出て、掃き掃除を行う。
内藤「また、派手にやったね。」
岩田「すみません。」
内藤「いいよ。いいよ。うまく捌いとくか
ら。」
岩田「内藤さんにはいつもお世話になってい
ます。」
内藤「まぁ、大変であることは変わりないか
ら。」
岩田「すみません。」
猪は頭が吹き飛ばされていたため、ビ
ニールが被せてあった。ビニールを破く
ため、ナイフを使って、 岩田はビニー
ルを破いた。
内藤「少しお肉頑なちゃいそうだね。」
内藤「うまくできたら、みんなで食べよう。」
青嶋「ほんま!猪喰うたことないわ。」
横から話に入る青嶋。
内藤「猪は美味しいよ。」
青嶋「どうやって喰うたら、美味いの?」
内藤「焼くのが一番じゃないかな。猪と言っても所詮は豚だし。」
青嶋「ええなー。初めて喰うわ。」
内藤が猪をひっくり返し、猪の性別を確
認する。
内藤「あっ、でも、これオスだ。」
青嶋「ええやん。オスでも。」
岩田「オスより、メスの方が美味い。筋肉が
少ないからな。」
内藤「そういこと。」
青嶋「なんやねん。それ。」
岩田「もう、お前はあっちに行ってろ。」
青嶋「なんやねん。おっさん。」
青嶋「捌いたら食べさしてなー。」
青嶋は、表で掃き掃除をやっている杏を
みる。青嶋は店の外に出て、杏のところ
へ向かう。
◯精肉店・外
状況説明:
精肉店の外で掃き掃除をしている杏。青
嶋は杏に声をかける。二人は親密にな
り、明日デートする約束をする。
青嶋「何やってるんや。」
杏は屈んでいた。
杏は青嶋に反応し振り向くが、無視す
る。
青嶋「なんや、アリでも潰してるんか?」
再び、振り向き言う。
杏「潰してない!」
青嶋は口角を上げて、笑う。
青嶋「小学生とかの時って、よく虫とか、小
さい動物をいじめてたやん。蟻とか、ダン
ゴムシとか。」
杏「いじめてないよ!」
杏は、立ち上がり青嶋に向かって大きな
声で話す。
青嶋「わしもや。そもそも、虫が苦手で触る
こともできんかったわ。」
青嶋「無邪気に残酷にもなれへんかった
わ。」
杏「…。」
杏は、青嶋の話を聞いていた。
青嶋は杏に向かい、ゆっくり歩を進める
ガタ。
青嶋の横から物音がして青嶋は横を向く
青嶋が横を向くと、オカマが酔い潰れて
寝ていた。
オカマは昨日、岩田とバーで飲んでいた
オカマと同一人物である。
青嶋は再び、杏をみて、これをみていた
のかという顔をする。
青嶋はオカマの横にある自動販売機で
水を買う。青嶋は、オカマの目の前に
買った水を置く。
振り返り青嶋は、杏に向けて口を開く。
青嶋「放っておくほど、残酷にはなれへん
な。」
杏は笑う。それをみて、青嶋も笑う。
青嶋「青嶋や。名前はなんていうや。」
杏「杏よ。」
杏「このへんでは、あんまりみないけど、ど
こから来たの?岩田さんの手伝いの人?」
青嶋「なんや、知りたがりやな。明日デート
してくれたら、答えたるわ。」
杏「いいよ。」
青嶋は驚いた顔をする。
青嶋「ほんま!?」
杏「うん。」
青嶋は、嬉しそうににやける。精肉店か
ら岩田が出て、青嶋を呼ぶ。
岩田「おーい、もう行くぞー」
青嶋「ほな。明日なー。」
杏「楽しみにしてる。」
◯精肉店・店内
状況説明:
杏と青嶋の会話を眺める内藤と岩田。
この後に、石原(または加瀬)から連絡
が届く。
内藤「元気な若者だね。」
岩田「そうですね。」
岩田は店から、青嶋を見つめる。
プルル。
その時、精肉店の電話が鳴る。
内藤「ちょっとごめんね。電話だ。」
内藤は店内のカウンターの中に消えた。
◯カウンターの中
状況説明:
石原からの電話を受ける内藤。
受話器を持ち、電話の先の人物と会話す
る内藤。電話の人物は、石原(または加
瀬)である。
内藤「はい、もしもし。」
内藤「石原さん。」
内藤の声色が変わる。
内藤「返済日はまだのはずじゃ。」
内藤「その件じゃない?」
内藤「はいはい。」
内藤「若い男ですか?」
内藤は店の外の青嶋を見る。
内藤「いや。」
一度は否定する内藤。
内藤「はい。そうですね。」
電話の相手が何かを話す。
内藤「本当ですか?はい、助かります。」
再び、青嶋を見る。加えて杏を見る。
少し間をおき、答える。
内藤「今、いますね。はい。」
内藤「はい、お願いします。」
ガチャ。電話が切れる音がする。電話口
の内容まではわからない。
◯精肉店・店内
状況説明:
岩田は内藤が出てくるのを待つ。
岩田は内藤の様子を見て違和感を感じる
が、問題ないとしてスルーしてしまう。
カウンターの中で電話をしていた内藤が
カウンターから戻ってくる。
窓の外を見ていた岩田は内藤が
カウンターの中から戻ってきたのを気づ
く。
岩田「じゃあ、これお願いします。」
内藤「うん。」
覇気のない返事で回答する内藤。岩田
は、それに気づき眉をひそめる。
岩田は、店の外に出て、青嶋を呼び出
す。
岩田「おーい、行くぞ。」
青嶋「待ってなー、おっさん。」
青嶋「ほな、明日な。」
杏「楽しみにしてる。」
青嶋は、車に乗り込む。
内藤は、店の外に出て、二人を見送る。
杏は、寂しい反面、嬉しさがある表情
だった。対照的に、内藤は不安が隠せな
い表情だった。
内藤は、杏の様子を察し、杏に話しかけ
る。
内藤「どうかしたのか?」
杏「べっつにー。」
内藤「なんだー。デートか?」
杏「うるさいなー。いいでしょ。」
その回答を聞いて、内藤の不安は増し
た。
車は角を曲がり、消えていた。
◯車中
状況説明:
精肉店に猪を卸した帰りの車中での青嶋
と岩田のやりとり。
青嶋「フンフーン。」
青嶋は上機嫌だった。青嶋は、鼻歌を
歌っている。
岩田「上機嫌だな。何かあったのか?」
青嶋「明日、デートやねん。めっちゃ楽しみや。」
岩田「杏ちゃんとのデートか?」
青嶋「おっさんが気安く、杏ちゃんと呼ばんで欲しいわ。」
岩田「ふふ。すまん。」
青嶋「いややわ。これだから、おっさん
は。」
青嶋「せやから、明日、街まで。お願い
な。」
岩田「わかったよ。」
青嶋「さすが。おっさん。おっさんは心広い
わー。」
岩田「さっきと言ってること逆じゃない
か。」
青嶋「細かいこと気にしたらあかんで。」
岩田「フッ。」
微笑む岩田。岩田は青嶋との会話は楽し
んでいるようだった。
◯ヤクザ事務所・駐車場
状況説明:
内藤からの電話を受けて、青嶋の場所を
特定した加瀬とその部下たち。総出で、
内藤のところに向かう。
黒塗りの高級車に乗る加瀬とその部下た
ち。
加瀬「じゃあ、内藤さんのところへ、レッツ
ゴー。」
掛け声にやる気はないが、どこか鋭さが
ある声で加瀬はいう。後ろの座席には、
ゆとりヤクザ1と2が座っている。
ゆとりヤクザ1の指には、包帯が撒かれ
ている。ゆとりヤクザ2の顔面は傷だけ
になっている。さらに包帯やカーぜが顔
を覆っている。加瀬に殴られた時のを
傷である。
石原「お前らは、取り逃した場所を探せ。」
石原が静かにいう。加瀬を見つめて、指
示に問題がないことを確認する。
ゆとりヤクザ1と2は、下を向いてい
る。
加瀬「石原ー。」
石原「はい。」
石原は車から降り、助手席のドアを開け
る。ゆとりヤクザ1をつかむ。
ゆとりヤクザ1「ヒッ。」
ごっ。
石原はゆとりヤクザ1を殴る。
ゆとりヤクザ1「んんっ。」
ゆとりヤクザ1の嗚咽が聞こえる。石原
は、運転席に戻る。再び、加瀬がゆとり
ヤクザたちに向かい話す
加瀬「返事はー?」
ゆとりヤクザ1と2「はい!」
加瀬「じゃ、しゅっぱーつ。」
ブウーン。
エンジンを鳴らす。高級車特有の低いエ
ンジン音がなる。
◯山小屋
状況説明:
昨日、狩った猪を精肉店に届ける青嶋と
岩田。岩田は青嶋をデート送り出すため
車で市街地まで向かう。
ブルルン。
軽トラックのエンジン音が鳴る。
青嶋「ホンマ、すまんなー。」
岩田「目立つことはするなよ。」
あくまで、警戒を促す岩田。
青嶋「わかっとるがな。」
青嶋は自分が追われていることを理解し
ているのかしていないのか。わからない
返事をする。
岩田「まったく。本来なら、追われる立場なんだぞ。」
車を走らせる岩田。
青嶋「…。」
青嶋は、何か考えている顔をする。先ほ
どの返事をした時の表情とは変わってい
る。
◯山の麓の市街地
状況説明:
岩田と青嶋を乗せた車は市街地に着く。
青嶋は車から降りて、杏とデートする。
杏とのデートが楽しみな反面、ヤクザに
追われているという少しの不安もある。
車の扉を開けて、車から降りる青嶋。
岩田「じゃあ。気をつけろよ」
青嶋「わかっとるがな。おっさんしつこいって」
バタン。
車の外から手を振る青嶋。岩田は。それ
に応える。
岩田は、加瀬が追ってくることを懸念
していたが、それでも、青嶋の目の前の
幸せを願わずにはいられなかった。
本来ならば、このまま逃すか、保護すべ
きであると考えていた。
◯精肉店
状況説明:
青嶋とのデートに向かう杏。それを見送
る内藤。しかし、見送った直後に加瀬と
石原が、内藤の店を訪れる。
杏「じゃあ、行ってくるから。お店よろしく
ね。」
内藤「うん。気をつけて。」
杏「ごめんね。行ってきます。」
内藤は、杏を送り出す。
内藤「あっ。杏!」
杏は、振り返る。
内藤「いや、何もない。」
言いたいことを飲み込む内藤。
笑顔で杏は、応える。杏の後ろ姿を見守
る内藤。
その直後、黒塗りの高級車が精肉店の前
に止まる。出てきたのは、加瀬だ。加瀬
は車から出てきて、内藤に向かって話
す。
加瀬「内藤さん、久しぶり。どう?調子の方
は?」
内藤は驚いた様子だった。
後から続いて、石原も出てくる。石原は
加瀬の背後についている。
内藤「はい、調子はいいですよ。」
加瀬「そう。儲かってるの?」
内藤「いえ、そんなには。」
加瀬「じゃあ、ダメじゃん。借金返せないで
しょ。」
内藤「はい、すみません。」
加瀬「謝んないで、内藤さん。謝らない。許
したら、借金までチャラになりそうで怖い
から。」
内藤「はい、すみません。」
加瀬「ふっ。」
加瀬は、人を馬鹿にしたような笑いを
見せる。
加瀬「まぁ、いいや。」
加瀬「借金の話できたわけじゃないんだ。」
石原が、加瀬に写真を渡す。写真を手に
取り、内藤に見せる。
加瀬「若い男を探しててねー。
加瀬「こいつ、この街に来てない。」」
その写真には、青嶋の姿があった。しば
らく見て、黙る内藤。
内藤「いえ、見ていないです。」
加瀬「そっかー。わかった。」
加瀬「内藤さん、うどん好き?」
内藤「へっ?」
次の瞬間。石原が内藤を殴る。
加瀬「最近、料理に凝っててね。うどんをこ
ねるのよ。綿棒とかで。」
加瀬「これがなかなか大変で、コシのあるい
いうどんになるのは、何回も叩かなくちゃ
ダメなわけよ。」
加瀬「内藤さんにも美味しくなってもらいた
くて。」
精肉店に入っていく。加瀬は、店内のカ
ウンターを見て、岩田が置いていったナ
イフを見る。
加瀬「にこっ。」
加瀬は、にっこりと微笑む。
加瀬は岩田にナイフを見て、岩田に気づ
いた。岩田のナイフは特徴のあるもので
殺し屋時代から愛用していたものだった
加瀬は岩田がそのナイフを使用していた
ことを知っていた。
◯市街地
状況説明:
青嶋と杏とのデート。杏は自分の家に借
金があることを青嶋に話す。
杏と青嶋は市街地を歩いている。
杏「で、どこからきたの?」
青嶋「関東からや。」
杏「ハハ。関西弁なのに。」
青嶋「そうやで。」
杏「何しにここに来たの?」
青嶋「あー、ヤクザから逃げてきたんや。逃亡者や。」
青嶋は本当のことを嘘くさく言う。
杏「ふふ。へー。何をやらかしたの?」
杏はおかしそうに笑う。
青嶋「あー、ヤクザの金を持ち逃げしたん
や。」
青嶋「これでわいは金持ちや。」
杏「本当に?すごいね。」
杏は青嶋の話に乗っかった。
青嶋「杏ちゃんも金持ちにしてやるさかい
に。」
杏「ふふ。」
青嶋の話を聞いて笑う杏。
青嶋と杏は川沿いを歩く。自販機で買っ
た飲み物を飲みながら歩いている。
しばらく、歩き杏は口を開く。
杏「実は、お父さん、実は借金してるん
だ。」
青嶋は黙って杏の話を聞く。
青嶋「そうなんやな。」
先ほどとは変わって青嶋は静かに答え
る。
青嶋「すまんな。」
杏「何が?」
杏はキョトンとする。
青嶋「いや、ギャグのつもりで夜逃げしよう
言うたから、、それにさっきまでの話
も。」
青嶋「あんま笑えんかな。とおもて」
杏「はは。」
笑う杏。
杏「そんなことかー。全然大丈夫だよ。気に
してないよ。」
杏「むしろ、ちょっと面白いし。」
青嶋「そっかならよかった。」
杏「それよりも、これからどうなるのか
なーって、いつも考えちゃう。」
青嶋は黙って杏の話を聞く。
杏「もうどうしちゃったの?急にだまちゃっ
て?」
杏「そうか、私が暗い話をするからか。」
青嶋「大丈夫や。自分がなんとかするわ。」
青嶋はかばんに入った債権者リストを
思う。
青嶋「お父さんの借金も無くなるから大丈夫
や。」
杏「ヤクザの金でー?」
杏は笑いながら答える。
青嶋「まぁ、それもあるかな。」
青嶋「とにかく、杏ちゃんは幸せになれる
よ。」
飲み物を置く。
カン。缶ジュースの置いた音が聞こえ
る。
◯精肉店※拷問シーン
状況説明:
加瀬と石原は、内藤の精肉店を訪れる。
目的は、青嶋の場所を探るためだ。しか
し、内藤は、青嶋の場所を話さない。自
分の娘・杏に危害が及ぶのを恐れている
からだ。そして、このシーンで、内藤は
加瀬の拷問を受ける。
カン。
加瀬が缶ジュースを置く。
缶ジュースの横には岩田のナイフが
ある。
バンっ!
内藤を殴る音が聞こえる。
内藤「うんふぅ。」
加瀬「内藤さん、そろそろ喋ればー。いい年してしんどいでしょ?」
加瀬は、岩田が置いていったナイフを
持ちながら話す。
加瀬「こっちも飽きてきちゃった。」
加瀬「何で言わないの?」
加瀬「赤の他人でしょ。わかんないなー。」
内藤「…。」
石原は水が入ったバケツを持ち、内藤
目がけて、浴びせた。
内藤「うぅー。」
内藤は唸り声をあげる。
加瀬「水をかけて締める。料理も拷問も同じ
だね。」
内藤は、青嶋と杏がデートに行っている
ことを知っている。
内藤は、青嶋の件に杏を巻き込みたく
なかったのだ。
加瀬「そういえば、内藤さんって娘さんいま
したよね?」
加瀬が内藤に向かって話す。
内藤「娘は勘弁してください。関係ありませ
ん。」
内藤はか細い声で話す。
内藤は話せば、結果的に娘に危害が及ぶ
ことを察した。
加瀬「あっつそう。」
ばし。
石原が殴る。
内藤「うぅう。」
内藤のうめき声が聞こえる。内藤の口か
ら血が滴る。石原はそれを拭う。
◯山小屋
状況説明:
青嶋を山の麓の市街地におろし、山小屋
に戻った岩田。山小屋で作業をしている
。その合間に、青嶋の持ち物である鞄を
開ける。ヤクザから盗んだものが明らか
になる。
山小屋で作業を行っている岩田。青嶋が
置いてきたかばんを見つめる。岩田は立
ち上がり、かばんのところまで歩く。
岩田はかばんを手に取り、中身を取り出
す。中には、債権者の顧客名簿だった。
岩田「こんなものを。」
岩田は静かに一人で言葉を発する。
◯アパート(回想)
回想シーン。岩田は幼少期の青嶋に銃口
を向けている。
岩田はの目線は、青嶋にあった。
岩田の手にはサイレンサーが握られてお
り、銃口は幼少期の青嶋に向けられてい
る。
岩田の視線が、青嶋に切り替わり、
ランドセルに向けていた。
ランドセルにフォーカスが当たる。
※岩田は、金をありかに気づいていた
ランドセルに金があるということを
青嶋の両親は、殺し屋(岩田)が
子供を傷つけないであろうことに
賭けていた。
回想シーン終わり。
◯山小屋
回想が終わり、再び山小屋のシーンに
うつる。岩田は、青嶋のかばんから取り
出した 顧客リストをしまう。岩田は、
立ち上がり、作業に戻る。
岩田は、ロープを切ろうと、ポケットか
らナイフを取り出そうとした。
しかし、そこには、ナイフがない。
岩田は、山小屋の中を歩き、他の場所を
探したが、見当たらない。
岩田「そうか。あの時か。」
岩田は一人で話す。岩田は再び、車に乗
り込む。
※岩田は、昨日、精肉店にナイフを忘れ
でしまったことを思い出す。
◯市街地
山の麓の市街地まで車を走らせる。
窓の外を見ると、青嶋と杏が二人で話し
ている姿を見る。そこには、二人の笑顔
があった。それを見て、岩田も笑顔にな
る。
岩田は車を走らせる。
忘れ物のナイフをとりに精肉店に向か
う。
◯市街地※デートシーン
状況説明:
青嶋と杏のデートシーン。デートが終わ
り二人、それぞれの家に帰る。
杏「今日は、ありがとうね。」
青嶋「うん、こちらこそ、ありがとうな。」
杏「青嶋くんって、意外に真面目なんだ
ね。」
青嶋「意外って、なんやねん。」
杏「意外じゃないか。」
青嶋と杏は、お互いを見つめる。
青嶋「ほな、またな。」
杏「うん、またね。」
杏は振り返り、自分の家に帰っていく。
青嶋「杏ちゃん!」
杏は青嶋の方に振り返る。
青嶋「色々終わったら、また会おう!」
杏「何よー。色々って。」
青嶋「とにかく、また会おう。」
杏「うん!」
青嶋は笑顔になる。
杏に別れを告げ、一人になる青嶋。
青嶋「どうやって、帰ろ?」
青嶋「とりあえず歩くか?
青嶋は市街地を歩く。
◯山小屋
青嶋は市街地でタクシーを捕まえて、山
小屋に戻ってきた。
青嶋「ふー。」
ガチャ。
青嶋は、山小屋のドアを開ける。
中にはゆとりヤクザ1と2が、壁際に潜
んでいた。
◯精肉店※岩田と加瀬の再会
状況説明:
岩田は前日に忘れたナイフを取りに、精
肉店に向かった。しかし、普段と様子が
おかしいことに岩田は気づく。
カウンターの奥に入ると、そこには、加
瀬と内藤に拷問されている内藤の姿が
あった。
精肉店まで軽トラで向かう。
突き当たりを曲がると精肉店だが、ここ
ら辺では見慣れない高級車が停めてあっ
た。黒塗りの高級車を見て、岩田は嫌な
予感がした。
ゆっくり精肉店の扉を開ける。人の姿は
ない。カウンターの中を見ると、床に血
痕があった。しかし、それが人間の血な
のかは判別できない。精肉店以外なら別
だが。岩田は、歩を進める。
ガラスの破片があった。岩田は何かが起
こっているを察知した。
店の奥に行くと、血だけの内藤の姿が
あった。
肉をかけるフックに内藤はかけられてい
た。
内藤「うー」
加瀬「岩田さん久しぶり。」
視線を変えると、加瀬の姿があった。
ケータイゲームをやっている。向かいに
石原の姿もある。
テーブルには、岩田が忘れていったナイ
フがある。
加瀬「岩田さんこの辺に住んでるんだね。」
岩田は黙っている。
加瀬「この子、知ってる?」
加瀬は岩田に青嶋の写真を見せる。
石原「無視してんじゃねーぞ!オラァ!」
石原は精肉店の店主・内藤を殴る。普段
物静かな石原と、うって変わっている。
内藤「んンフッぅ。」
口から血が滴る。
内藤は殴られすぎて目が開いていない。
拷問をかけるのは、あくまで内藤。
加瀬は岩田の性格を理解している。
そして、岩田は自身が拷問をかけられた
場合、吐かないことを知っている。
岩田「やめろ!」
加瀬「岩田さんがちゃんと答えないからじゃん。頼むてー。」
加瀬「内藤さん早くしないと大変よ。精肉店
の店主から、サンドバックに転職すること
になるよ。」
加瀬「今、卸したら、最高に美味い肉にもな
りそうだよね。」
バンっ。
石原は内藤を殴る。
内藤「ンフ。」
石原「早くしゃべれ!オッラァ!」
石原は内藤に向かっていう。
内藤「ボソボソ」
石原「あー、聞こえねぇよ。」
バン。
内藤「ん。」
加瀬「岩田さんに、いいお肉をあげるよ。」
岩田「やめろ。」
岩田は大きな声を再び上げる。
岩田「自分がもらって嫌なものは、もはやプ
レゼントじゃない。」
岩田は静かに答える。
加瀬「いいお肉でしょ。僕はもらった嬉しい
けど。」
加瀬はナイフを見ながら、答える。
加瀬「よく考えたら、いやだな。こんな老人
の肉なんて。」
加瀬「まぁ、いいか。」
少し間をおき、加瀬は岩田に向かって話
す。
加瀬「岩田さんー。この子頼むわ。」
加瀬「ヤクザも舐められたら、終わりだから
さ。」
加瀬「サクッと殺(ヤ)っちゃってくれ
る?」
岩田「断る。もう人殺しはしないんだ。」
石原「ふざけんじゃねーぞ。」
バン。
石原は、内藤を殴る。
内藤「…。」
内藤は、唸り声も上げなくなった。
岩田は、石原の方まで歩き、石原の腕を
力強く握る。
石原「…。」
プルルルル。
加瀬のケータイの音が鳴る。
加瀬「もしもーし。」
加瀬「はい、うん。わかったー。」
加瀬「場所は?うん。山小屋ね。」
加瀬「石原くん、あと頼んだー。見つかった
わー。」
加瀬「これから、一狩り行ってくるわ。」
加瀬は、部屋を出てようとしたが、一
旦、立ち止まる。
加瀬「あっ、青嶋くんの場所黙ってたの、許しちゃう。」
加瀬「昔のよしみだからね。」
加瀬は思い出したかのようにいう。
岩田「…。」
岩田は黙っていた。
岩田は、視線を切らない。加瀬は部屋を
出た。加瀬は店の扉を開けて、車に乗り
込む。
石原「離せ。」
石原は岩田に向かい、静かに話す。
岩田は石原の手を離さない。
岩田「離すかよ。」
岩田は答える。
石原は残った手で、ナイフを取り出し、
岩田に向かって刺そうとする。
それに気づいた岩田は、あっさり掴んで
いた手を離した。
岩田は、ナイフで切り掛かった手をつか
み、石原の肘を折り曲げた、さらに、折
り曲げた肘と手首を持ち、石原の肩に
ナイフを押しこんんだ。
サク。
石原「う゛ん。」
石原の鈍い嗚咽が聞こえる。
石原が、自分で自分を刺した状態になっ
た。さらに、岩田は石原の顎に目がけて
掌底をとばす。
石原「グウ。」
石原は倒れ込む。
岩田は、石原が倒れこんだことを確認す
ると、内藤を下ろそうとする。
内藤「…。」
内藤は、もはや動かない。生死が不明の
状態であった。
岩田「内藤さん、しっかり。」
岩田は内藤を担ごうとしたときに銃声が
鳴る。
バン。バン。
石原は拳銃を取り出していた。
片方の手は、自分の肩に刺さったままで
ある。
岩田は銃声と共に素早く物陰に隠れる。
岩田は、自分の横っ腹を見ると、血が
滲んでいた。
あっという間に、血が滴った
石原は拳銃を持ちながら、肩に刺さった
ナイフを抜こうとしていた。
しかし、岩田はその隙に、包丁を
手に取り、石原めがけて、投げた。
石原「っごっ。」
投げたナイフは見事に石原の頭に刺さっ
た。岩田は、その場にへたりこむ。
今度こそ、石原の息の根を止めた岩田。
机にあったガムテープを手に取り、
自分の腹に巻いた。
内藤をそのままにして、立ち上がった。
◯市街地※杏・スーパに向かうシーン
状況説明:
杏と青嶋とのデートが終わり、二人は帰
路に立つ。
杏は、その途中で寄り道をして、買い物
をしてから帰る。
杏は、市街地を歩いている。
杏「そうだ。野菜とトイレットペーパを買わなくちゃ。」
曲がり角を曲がって進めば精肉店だが、
杏は方向を変える。
曲がり角の先には、加瀬が高級車に乗っ
ていた。
エンジンを鳴らし車を発進させていた。
杏は、精肉店の道を外れて、スーパーに
向かっている。加瀬と杏はすれ違った。
◯山中・道路※加瀬が山小屋へいく道。
状況説明:
ゆとりヤクザ1と2の連絡を受けて、道
中、車を走らせる加瀬。
加瀬は、青嶋が見つかって上機嫌だっ
た。
加瀬「ふんふんふーん。」
鼻歌を歌いながら、山小屋へ向かう加
瀬。
道中に鹿の死骸があった。加瀬は何気な
くそれを見て、車を走らせる。
電話の音が鳴る。
加瀬「はい。兄貴。」
加瀬「はい、大丈夫です。見つかりました。
問題ありません。」
普段とは話し方が変わっている。加瀬の
上司にあたる人物である。
加瀬もまた、何かにおわれているのだっ
た。
加瀬「はい、それでは。」
加瀬は電話を切る。
加瀬「ふー。」
加瀬はため息をつく。
加瀬はアクセルを踏み込む。目の前にう
さぎが通る。
バン。
加瀬の車は、うさぎをはねて、山中を走
らせる。
◯山小屋※ゆとりヤクザ1と2の会話
状況説明:
ゆとりヤクザは待ち伏せを行い、青嶋を
捕まえる。
そこでの会話。
ゆとりヤクザ1と2に捕まり、青嶋は縛
られている。
ゆとりヤクザ1「あー、早く加瀬さん来ない
かな。」
ゆとりヤクザ2「お前のせいで、顔ボコボコ
だよ。」
ゆとりヤクザ1「すまんな。」
ゆとりヤクザ2「すまんなじゃねーよ。顔
ボッコボコだって言ってんの!」
ゆとりヤクザ1「こっちだって、指なくなっ
てんだぞ!」
ゆとりヤクザ2「すまん。それは、すま
ん。」
ゆとりヤクザ1「いや、こっちこそ、ごめ
ん。」
ゆとりヤクザ2「お互い様だな。」
ゆとりヤクザ1「そうだな。」
お互い、にっこり微笑み合う
ゆとりヤクザ1と2。
青嶋「アホか。」
小さな声で青嶋。
ゆとりヤクザ1「あーん。」
ばしっ。
青嶋「ンフ。」
ゆとりヤクザが青嶋を蹴る。
ゆとりヤクザ1「そもそも。」
ばしっ。
再び、ゆとりヤクザ1は青嶋をける。
青嶋「ンフ。」
ゆとりヤクザ1「オメーが、」
ばしっ。
青嶋「ンフ。」
ゆとりヤクザ1「逃げるから」
ばしっ。
青嶋「ンフ。」
ゆとりヤクザ1「いけねーんだろ!」
ばしっ。
青嶋「ンフ。」
うなだれる青嶋。
青嶋の右手にはガラスの破片が
握られていた。
ゆとりヤクザ1と2の会話の途中で、探
していた。
ゆとりヤクザ2「そもそも、俺らがやる仕事
じゃないんだよ。こう言う仕事は。」
ゆとりヤクザ1「確かに。」
ゆとりヤクザ2「岩田にやらせれば、いいん
だよ。」
ゆとりヤクザ1「たしかに。面倒な仕事は外
注すればいいんだよ。」
蹴られて朦朧な中、「岩田」という単語
に反応した青嶋。
青嶋は自身にかけられていた縄を切る。
ゆとりヤクザ2を襲う。
青嶋「うあー。」
ゆとりヤクザ2「あー。」
ガラス片をゆとりヤクザ2をめった刺し
にする。
ゆとりヤクザ2「やめてー。」
ゆとりヤクザ1「てめー、何すんだよ!」
ゆとりヤクザ2と青嶋が揉み合っている
中、ゆとりヤクザ1が青嶋を蹴る。
しかし、青嶋はやめない。
ゆとりヤクザ2「やめてくれよー。」
青嶋「あー。」
そのうち、ゆとりヤクザ2の声は、聞こ
えなくなる。
ゆとりヤクザ1「やめろって、言ってるだろ!」
ゆとりヤクザ1は蹴り続けるが、青嶋は
やめない。
そして、ゆっくりと青嶋は立ち上がる。
顔と服は血だけになっている。
ゆとりヤクザ1「ひっ!」
青嶋「岩田って、どういうことやねん。」
ゆとりヤクザ1「どうって?」
おどおどした声でよ取りヤクザ1は答え
る。
青嶋「どういうことやねん!」
青嶋は、大き声で再び質問。
ゆとりヤクザ1の足は震えている。
ゆとりヤクザ1「ヒッ、殺しとか請け負ってた人だよ。数年前にいなくなっちゃたけど。」
青嶋は黙って聞く。
青嶋「去ね。殺すぞ。」
ゆとりヤクザ1「ひー。」
山小屋のドアを開けて、
ゆとりヤクザ1は、扉を開ける
バタン。
山中を走り出すゆとりヤクザ1。
ブルルン。
その時、
高級車特有の低い音が聞こえてきた。
ガチャ。
山小屋の扉を開ける。
加瀬「はい、ただいまー。」
加瀬が、山小屋に着く。
◯精肉店※岩田と石原の戦いその後。
状況説明:
岩田と石原が戦い、岩田が勝つ。岩田
は、青嶋と加瀬がいる山小屋に戻る。
岩田「はぁはぁ。」
息遣いが激しい岩田。
横には、石原さんの死体がある。
岩田はテーブルにある青嶋の写真を見
る。
石原の拳銃を手に取り、精肉店を後にす
る。
バタン。
岩田は車に乗り込む。
岩田はキーをエンジンに差し込もうと
するが、うまく差し込めない。
何回かトライをしてようやく差し込み。
車を走らせる。
◯スーパーマーケット・店内※買い物シーン
状況説明:
青嶋とのデートが終わり、途中、スー
パーマーケットで買い物をして、帰るこ
とに。
杏はスーパーマーケットの店内を
歩いている。
野菜コーナまでいき、立ち止まる。
杏「あっ、キャベツが安い。」
◯道中・車中(岩田の車)
状況説明:
石原との戦いを終え、山小屋に向かう道
中。
岩田「はぁはぁ。」
岩田は憔悴している。
朦朧の中、車を走らせる。
岩田の服は血で滲んでいる。
岩田は服を捲り傷の具合を確認している
岩田は、杏のいるスーパーマーケットの
前を通る。杏と岩田はお互い気づかない
杏は、買い物を済ませて、店を出ようと
していた。
岩田は荒い運転で山中にある山小屋に
向かう。
◯市街地※杏の帰り道
状況説明:
青嶋とのデートの帰り道、スーパーマー
ケットに寄った杏。その帰り道。
市街地を歩く杏。角を曲がれば、自宅で
ある精肉店だ。
精肉店まで、歩を進める。精肉店前に立
つ。
杏は店中に入るが、様子がおかしいのを
感じた。
杏「ただいま。」
小さい声で自身がいることを伝える。
杏「お父さん?」
今度は少し大きな声で話す。
生肉の加工する場所の手前に立つ。
内藤が拷問されていた部屋だ。
杏は部屋を見る。絶句し、膝が崩れる。
そこには、吊るされ、血だけの父親の姿
があった。
杏はゆっくり立ち上がり、血だらけの父
親の元に近づく。
杏「お父さん、、」
父親の足元には、見知らぬ男の死体
(石原)があった。
石原の頭には、包丁が刺さっていた。杏
は絶句し、後ろに一歩下がる。
杏「救急車。」
杏の手は震えている。
スマートフォンを落とす杏。
立ち上がり、父親の血を拭き取るため、
テーブルにあるティッシュを取ろうとす
る。そこには、青嶋の顔写真があった。
杏「どういうこと?」
杏は青嶋の写真を握りしめた。
◯山中・山小屋※クライマックス
状況説明:
顧客情報を加瀬から盗んだ青嶋。
青嶋を追い、山中の山小屋まで追い詰め
る。債権者リストを大事に抱える青嶋。
青嶋と加瀬との会話がなされている。
加瀬「はい、ただいまー。」
加瀬「違うか。」
覇気のない感じで話す加瀬。
加瀬「あれ?」
加瀬は山小屋に入ると、そこには、血だ
けになって立っている青嶋と、ゆとりヤ
クザ2が横たわっていた。
加瀬「はー。」
加瀬「マジで最悪だな。仕事できない人間
は。マジでいらない。死んで欲しい。」
加瀬は少し間をあけて再び話す。
加瀬「あっ、死んでるか。ちょっと願いが
叶ったわ。」
青嶋と加瀬の間が少しあく。
加瀬「ちょっと、ツッコんでよ。関西人で
しょ。」
青嶋「いらないとか言うなや。」
青嶋「いらない人間なんておらん。」
加瀬「はー」
深くため息をつく。
加瀬「いるんだよ。世間一般ではいらない人間なんていないなんて言うけど。」
加瀬「この世の中に必要な人間はいるんだ
よ。」
加瀬は、再びいう。
青嶋「はぁはぁ。」
加瀬「国がそもそも、不必要な人間を決めて
るじゃん。死刑とか。」
青嶋「うるさいわ!」
加瀬「殺処分みたくさー。殺すんだよ。」
加瀬「だからさー。必要ない人間をどうしようが問題ないわけじゃん。」
加瀬「それだって同じよ。」
青嶋のかばんを指差す。
厳密には債権者の顧客リストを指差す。
加瀬「いらない人リスト。」
加瀬「債権者の顧客リスト、盗んじゃいかんでしょ。」
加瀬「よってたかって、お金借りくる人が来
るんだから。」
加瀬「お互い困っちゃうでしょ。」
青嶋「うるさいわ。いらない人なんていない
んや。これがあるから、父ちゃんも母ちゃ
んも不幸になったんや。だから、わしがこ
れを燃やしちゃる。」
青嶋はライターに火をつける。カバンに
ライターの火を向ける。
加瀬「ハハハ。ウケる。」
加瀬「こいつらが寄ってくるだけだよ。」
加瀬「さっきも言ったけど。」
加瀬はスーツの胸ポケットから銃を取り
出す。加瀬は、銃口を地面に向ける。
肩をダラんと下げて、力が入ってない。
加瀬「だから、アホに説明するのは嫌なんだ
よ。」
加瀬「こっちは困るんだよねー。借りた金を
返さない輩ばかりで。」
加瀬「わざわざ、外注して殺しの依頼をかけ
るのも面倒だし。」
青嶋「…どういことやねん…。」
加瀬「だからー。殺し屋雇って、殺すの。い
ちいち説明させるなよ。低脳と話すのは疲
れる。」
加瀬「そういえば、あなたの両親殺したのも、外注しったけ?」
加瀬は、顔をしかめる。何かを思いだそ
うとしていた。
加瀬「そうだ。岩田さん、ちゃんと殺したけ
ど。盗んだ金を見つからなかったんだよ
ね。そういえば。」
加瀬の話を黙って聞く。青嶋。
青嶋「どういうことやねん。」
青嶋は、震えている。
岩田が両親の仇であったことを改めて聞
いて、動揺している。再び、加瀬は閃い
た顔をする。
加瀬「そもそも、盗んだ時になんですぐに燃
やさない?」
加瀬「深層心理では、それが金になるってこ
とを知っているからだろ?」
青嶋「それは、、、」
加瀬「もったいなくて、捨てられなかっただ
けだろ?これだから、貧乏人は卑しくてて
嫌だわ。」
青嶋「ウルセェー!」
加瀬に殴りかかる青嶋。
バンッ。銃声の音が響く。
静寂が走る。そして、ゆっくり倒れる加
瀬。
岩田「はぁはぁ。」
青嶋の視点から、加瀬の倒れた先に岩田
が銃を構えている。
銃から硝煙が立っている。
青嶋「おっさん、、、」
青嶋は岩田を見る。
岩田「大丈夫か?」
青嶋は安心した表情から一変して、
怒りに表情が変わる。
青嶋「おっさんが殺したんか?」
岩田「…。」
岩田は黙って下を向いている。
青嶋「答えてぇや。」
岩田「そうだ。」
岩田は静かに答える。
青嶋「なんでや、なんで殺されなあかんね
ん。」
ゆっくり、岩田のところまで歩を進める
青嶋。
加瀬の拳銃を手に取る。
青嶋「なんで、殺されなあかんねん!!」
大声をあげて、岩田に銃口を向ける。
岩田は静かに目を閉じる。
岩田は青嶋に殺されるべきだと考える。
バンっ。
銃声が鳴る。
指に包帯をしている手が映る。
握っているのは拳銃。
硝煙が立っている。
ゆとりヤクザ1が青嶋を撃った。
ゆとりヤクザ1の全身は震えている。
ドサっ。
膝をつく青嶋。
撃たれたのは青嶋だった。
青嶋の腹から血が滴る。
滴る血を手で拭い、その手を見る。
青嶋「なんでや、、」
ゆとりヤクザ1「やった!やった!」
震えた体を慌てて起こして、
逃げるゆとりヤクザ1。
岩田はその間、青嶋を見続けている。
青嶋「なんでや、、」
倒れようとする青嶋を慌てて、抱く岩
田。
青嶋「なんでや、、」
岩田を見る青嶋。
青嶋「おっさん、これ。」
血だけになった債権者リストを
岩田に渡す。
青嶋の目に正気がなくなる。
岩田は、青嶋の目にて指を置き、青嶋の
目を閉じさせる。
◯病院(エンディング①)
状況説明:
杏は救急車を呼び。内藤を運び出しても
らう。待合室で待っている杏。
待合室で待っている杏。
青嶋の写真を持っている。
杏は泣いている。
コツコツ。
看護師が歩いてきた。看護師は、あの
オカマだった。
※岩田がバーで遭遇したオカマでもあ
り、青嶋が水をやったオカマでもある。
オカマが、杏に近づき杏の肩を静かに
触れる。
オカマ「大丈夫だから。」
オカマは杏に向けて言った。
杏は静かに泣く。
杏は、加瀬が置いていった青嶋の写真を
握り締めている。
青嶋の写真は、くしゃくしゃになった。
◯山中(エンディング②)
状況説明:
山小屋にてゆとりヤクザ1は殺された、
青嶋から渡されたのは債権者リストであ
る。最後に債権者リストの処分を行う。
岩田は、山小屋の外に出ている。
岩田は、左手に血のシミがある債権者リ
スト、右手には拳銃を持っている。
一斗缶に火が焚べられている。
岩田は、火をジッと見つめている。
債権者リストを手に取り、一枚一枚、火
の中に入れ、燃やす。
順番に燃やしているとあることに気づく
手に取った債権者リストを見ると、苗字
が青嶋というものを発見する。
その債権者リストには、免許証のコピー
も貼り付けられている。
※青嶋が債権者リストを
燃やさなかったのは、親の顔写真が
あったからである。
皮肉にも、親の顔写真が債権者リスト
の免許証のみだった。
最後に、青嶋の親の債権者リストを燃や
し、右手に持った拳銃をこめかみに向け
る。
カチッ。
撃鉄が鳴るが、弾は空だった。
腕が脱力したように落ちる。
岩田は天を見上げる。
そこには、曇った夜の空が広がる。
明かりは、一斗缶の火のみである。
一斗缶の灯りが消え、岩田の視界は真っ
暗になる。燃やされた債権者リストは灰
になっていた。
<了>
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