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個人スキャンダルのメディアコントロールで企業リスクのマネジメントはできない

ジャニー喜多川氏の性加害問題は、複合的に絡み合っているので、被害者救済を金銭面だけでなく、心理面のサポートも含めてどのように行っていくのか、過去にメディアコントロールがいかに行われたのか、など、それぞれの問題を切り分け、小さい塊にしながら考える必要がある。大局的に見ると、解明も解決もされず、ずるずると問題を抱えたまま、現状が継続することになりかねないからだ。

それらの問題を私なりに書いていきたいのだが、今は毎日のように、新たなニュースが飛び込んでくる。10月2日の記者会見の感想を書こうと思っている間に、NHKの「ニュース7」が質問NG者リストの存在をスクープした。社名を変更しても、ぜんぜん笑えない事態である。

今日の「荻上チキ・Session」でもチキさんが触れていたが、メディア業界のローカルルールを読者・視聴者が知る機会はそう多くない。記者会見は、登壇者のお気持ち発表の場ではないといったことも、案外、伝わってないのだなぁと思ったりしている。その背景には、この10年の政治家や企業のリスクマネジメントによる巧みなメディアコントロールも影響しているのだが……。

ジャニーズ事務所の会見について、仕込みと仕切りの悪さは、多くの人たちが指摘するところだ。「FTIコンサルティング」という外資系コンサルタント会社が仕切ったそうだが、企業広報と接したり、企業系の記者会見に出席したことのある身からすると、「リスクマネジメントが下手すぎるのでは?」という印象だった。

「FTIコンサルティング」のホームページを見ると、M&Aなど企業同士の取り引きに強いコンサル会社なのだと思う。記者会見の実務はPR会社に任せた可能性もあるけれど、対する相手が企業と世間一般では手法が違う。

ジャニーズ事務所が、その選択や判断をミスっているところも、「大丈夫ですか?」と言いたくなる。メディアとその先にいる一般を対象にした記者会見が得意なPR会社であれば、あそこまでグダクダにならなかったのではないだろうか。

今回の対応で、古くは近藤真彦と中森明菜の金屏風会見やSMAPのTV公開謝罪、TOKIOのメンバーのみが対応した謝罪会見に、「なぜこういう対応になるの?」という違和感を覚えた理由が見えてくるような気がした。

今回は記者会見まで時間がなく、準備が間に合わなかったということもあるだろうが、ジャニーズ事務所は売上規模は大きくても、企業としての組織体制が整っていない会社なのだな、という感は否めない。

折しも日本テレビがジャニーズ事務所との関係についての社内調査を発表したが、「20年前以上」と表現していることに、思い当たることがあった。

日本の企業がコーポレートガバナンスを強化し、リスクマネジメントに本腰を入れ始めたのが、ちょうどその頃からだった。それ以前は、広報は社会に対する窓口であり、企業の顔であるという認識が薄く、広報担当の人材を重要視していない会社もけっこうあった。ところが、20年ほど前から広報マニュアルが整備され、あまりおかしな対応をされなくなった。言い方を変えれば、強固な門構えを作り、企業に不利なことは出さず、漏らさず、スマートに対応する広報が増えたのだ。

私の仕事は、企業の不正を糾弾するといったジャーナリスティックなものではなく、読み物記事として友好的な原稿を執筆することが多かったので、広報の方たちには、読者の利益を優先する、こちらの要望を受け入れてもらいながら、ほどよい着地点で折り合いをつけてもらった思い出しかない。が、コーポレートガバナンスの考えが広まる以前に遭遇していた、担当者の裁量でコトが運ぶフレンドリーな関係性はなくなったのだなぁ、という変化は感じていた。

ジャニーズ事務所の会見やその後、慌てたように発表したお手紙リリースを見ていると、リスクマネジメントが曖昧だった時代の広報対応を思い出してしまう。同族会社でもあるし、インタビュー取材などのメディア対応をS氏が一手に管轄していたという話もある。私も仕事仲間から、ちらほらS氏の名前を聞いたことがあり、「S氏を通さないとジャニーズとの交渉はできない」と話す編集者もいた。

ジャニーズ事務所がこれまで成功してきたのは、そうした個人的なつながりによるメディアコントロールの徹底だった。芸能事務所という性格から、所属タレントやジャニー喜多川氏を含めた経営者、つまり「個人」に関するスキャンダルを抑えれば、ことなきを得ることができた。皮肉なことに、個人レベルでのメディアコントロールが成功してしまったがゆえに、企業リスクに備え、広報を強化し、整備する必要がなかったのだろう。

ところが、今回の問題は、「企業」としての対応が求められる。個人的なつながりによるメディアコントロールでは対処できない。その弱点が記者会見やリリースで露呈したのだと思う。20年前で時間が止まったまま存続してきた企業の一つと言えるのかもしれない。

と書いているうちに、「船場吉兆」を思い出した。その後、どうなったのかと思ったら、息子さんが再出発しているらしい。

https://gendai.media/articles/-/44920?imp=0




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角田奈穂子@Fillmore East
仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。