Bounty Dog 【アグダード戦争】41-43

自分が出来ない事は、出来る他に任せれば良い。

41

 喪失”ロスト”していたヒュウラの心は、完全に元に戻った。まさかの紛争地帯でメンタルを大回復させた亜人の青年に、ミトは喜んだが、唯、ただ、未だ信じられなかった。
 『世界生物保護連合』3班・亜人課の超少数現場保護部隊が紛争地帯アグダードに潜入し、現地の”民間お掃除部隊”に出会ってから、あっという間に2週間が経っていた。
 絶滅危惧種の亜人であるヒュウラを保護して、ヒュウラの『猶予期間』が終わるまでと同じ日数だったが、猶予期間中の14日間は、1日1日が目紛しく活動をしていたので長かった。しかし、此方は先日の”報復お掃除戦争”以降、軍曹達が特に大きな動きをしなかったので、矢のように時が過ぎていった。
 “民間お掃除部隊”ーー隊長の『軍曹』と、その側近の副隊長『朱色目の黒布』が自称する人間達の武装部隊は、アグダード地帯を全ての人間の勢力から解放させる事を目的に活動している、数百年以上の歴史を持つ、現地の庶民達で結成された革命部隊だった。現在の部隊員は全員男性だったが、女性でも人間以外でも入隊する事は可能らしい。但し1つだけ条件があった。ーー強い事。1人でも戦場で充分戦える強さを持っている事。
 ミト・ラグナル保護官とシルフィ・コルクラート保護官、超過剰種の猫の亜人リングは、ヒュウラと共に適任だと認識されていた。が、シルフィが部隊の入隊を頑なに断っていた。「手伝いはする。”ヒュウラが手伝うのなら”」と何度も彼らに伝えていた。朱色目の黒布は幾度かシルフィに説得を試みていたが、軍曹はケラケラ笑いながら「しょうがねえなあ」とだけ言って、アッサリ了承した。
 ミトは寝不足とストレスで心身が限界に達してしまい、報復お掃除戦争の後、アジトで寝込んでいた。その間、ヒュウラは元通りの自由なヒュウラとして、軍曹達とリングと自由気ままにアジトで過ごしていた。
 ミトにも、彼女が寝込んでいる洞窟の一角に1度会いに来た。が、看病はせずに、煎餅があるか聞いてきただけだった。ミトはいつもは持ち歩いている非常食兼嗜好品のスナック菓子と煎餅を持ってきていなかった。うめきながら「無いわ」と伝えると、「そうか」と一言だけ言って、ヒュウラは無表情で、寝ているミトの頭に濡れた布を乗せてくれて、去って行った。
 ミトは2週間、寝込みながら悩んでいた。ーーヒュウラは鬼では無いし優しいけれど、デルタリーダーが居た時から、密かにずっと思っていた事がある。
 彼は何故、私には全く懐いてくれないのだろう?ーー

ここから先は

6,317字

¥ 100