Bounty Dog 【アグダード戦争】240

240

 ヒュウラによって突然、大量の眠り粉が撒かれた”民間お掃除部隊”のアジトは、内部にいた人間達の殆どが強制的に眠らされていた。
 唯、煙の罠にいち早く気付いて掛からずに済んだ人間が1人だけいた。その人間は目の前でうつ伏せになってムニャムニャ呟きながら幸せそうに寝ている隊長……『殺せ』と”あの人”に命令されている標的の顔を凝視する。
 標的を仕留める大型ナイフも、”あの人”と連絡を取る為に使っている花の絵が描いた通信機も、奪われないように普段から被っている黒布の頭部に貼り付けていた。
 散々殴られて布から滴っている鼻血を腕で拭う。感情の篭っていない赤い目は、ひたすらに軍曹の姿を見つめるだけ。隠し持っている武器も通信機も出さずに、何もせずに軍曹を見つめていた。そのまま静止していると、足音が響いてくる。
 ヒールが石の階段を叩く強い打音が、徐々に地下室に響いてきた。
 外と隙間が開いた状態の扉が近いアジトの入口付近で煙を吸ったお陰で、シルフィ達は他の人間達よりも吸った眠り粉の量が少なかった。それでも1時間程は寝てしまったが、目を覚まして直ぐに全員が軍曹の居る地下室へ向かって走って行った。
 最も打音を出しているのは紺色のヒール靴を足に履いているシルフィ・コルクラートだが、最も早く地下室にやってきたのは、今は顔を布で隠していない隊長の親友だった。

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