Bounty Dog 【清稜風月】134-136
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ヒュウラとコノハの櫻國滞在可能期間は、残り3日になった。残り3日で少年Sを探し出して逮捕し、此の国と此の国の亜人を脅威に晒している元凶・Kの居場所を吐かせてKを見付け出し、逮捕しなければならない。
緊急任務にヒュウラと一緒に参戦する許可を得る為、国際保護組織の亜人課現場部隊保護官は、櫻國滞在27日目の午前に通信機で上司に連絡をした。半日の時差がある『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場保護部隊支部に居る班長シルフィ・コルクラートは、窓から注いでくる夕焼けの逆光を浴びながら亜人保護任務完了を報告していたミト・ラグナル保護官との会話を切り上げて、コノハに応答する。ミトは何となくだが嫌な予感を覚えた。ヒュウラの安否をシルフィに尋ねようと口を開き掛けて、
シルフィの指示でミトを迎えに来たリングに、腕を掴まれて強引に連れて行かれた。人語を話す人間と殆ど同じ見た目をしている猫がニャーニャー鳴きながら次に捕獲する亜人について尋ねてくるので、ミトは通路を猫と一緒に歩きながら対応する。支部を出て、飛行場への道の途中にある広場で一旦止まった。広場の端にある簡易な土墓の前で、リングと一緒に手を合わせる。
猫はニャーニャー鳴きながら、ポケットから非常食用のパン数個を盛土の上に何も敷かずに置いた。食器というモノを知らない野生動物と同じ感覚の猫に苦笑してから、ミトは東の島国に居るヒュウラを天から保護してあげて下さいと”リーダー”に依頼した。
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コノハは上司のシルフィから機械越しに許可を得て、ヒュウラと一緒に麗音蜻蛉密猟情報提供者、兼、櫻國侵略諜報員”K”と”S”を逮捕する緊急任務に就いた。今日の彼女も人間として櫻國の地に立っている。朝日が昇ったと同時に山の麓近くにある町で公共の風呂に入ってきた。今日も彼女は、全身がフローラルの香りである。
気分的に無敵の状態で、コノハは護衛対象こと激推し亜人が居候している”妖精ちゃん”の家に向かった。玄関から家に入るなり嬉しそうに出迎えてくれた人懐こい絶滅危惧種の虫の亜人・日雨に挨拶をしてから、家の中に入る。本命である絶滅危惧種の狼の亜人を居間で見付けて声を掛けると、
ヒュウラは右ポケットに睦月が居間に置いていた獅子脅しの青竹と、昨晩日雨に貰った駒の紐を入れてからコノハの居る方向に振り向いた。コノハが元気良く激推し亜人に挨拶をすると、激推し亜人がノウと呼んできたのでコノハは素早く返事をした。
「NO。ヒュウラ君、私の名前はコノハよ。OK?マイダーリン。リピート・アフター・ミー、コ・ノ・ハ!!」
「そうか」
ヒュウラは口でだけ反応してから、コノハを放置して追加で装備する人間の道具を物色する。人間の道具が豊富にある日雨の家の居間で”アレ”を探していたが、凶器故に睦月に持っていかれたと勘付いて諦めた。
テンション駄々下がり状態で、コノハは縁側の端で狙撃銃の手入れをしていた睦月を見付けて挨拶する。雑に扱ってくる事がデフォルトである化け狼と異なり、人間である相手は律儀に挨拶を返してきた。
ヒュウラの予想通り、手甲鉤は側に置いて己の武器に戻していた。加えてもう1つの小さな道具を手甲鉤の横に置いている。コノハは道具を見下ろすと、睦月に「財布に入れないの?」と尋ねた。
睦月は微笑みながらコノハに応える。
「何となくですけど、直ぐ使えるようにしておいた方が良いと思いまして。ヒュウラに貰った、この100エード」
コノハは首を傾げながらYESとだけ言葉を返した。銃の手入れが終わった睦月は分解していた銃を手早く組み立て直すと、銃身の2箇所に手を固定する為の短い風呂敷を結び付け、持ち運ぶ為の紐も取り付けてから銃を背負った。
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