Bounty Dog 【アグダード戦争】137
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ミトは不意に思い出した。己の近くで楽しそうに鉄パイプを振り回してケラケラ笑っているアグダード人の男の渾名は『軍曹』、そしてアグダード独自語で”アホ”という意味である『ガビー』だが、トラックの荷台と運転場所を繋いている鳥居とリアウインド越しに背を向けて座っているのが見える、助手席のヒュウラにも渾名のように言われていたものがあった。
ーーリーダーに。時々、指示無視をして好き勝手な事をするから言われてたっけ……『馬鹿犬』と。ーー
馬鹿犬ヒュウラは無表情で、道じゃない地図の一角を茶色い手袋を付けている指で叩き続けていた。彼が叩いている場所は川である。トラックで入ると、たちまち沈んでしまう。
ヒュウラは非常に頑固だった。示しているのは川だと教えられても「行け」と指の打音で運転席のシルフィに指示し続ける。シルフィは口角を上げてトラックを運転していた。姉は弟から馬鹿犬の馬鹿具合を聞かされていて、実際に遭遇して呆れて苦笑しているのだろうとミトは思ったが、
全く違った。ヒュウラを一瞥すると、『曲者シルフィ』は微笑みながら、耳を疑うような言葉を彼に言った。
「ウィー(了解)。デルタに聞いた通りね、貴方やっぱり素敵だわ。でもこのガイは泳げないのよ。飛び越えても良いかしら?」
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