Valkan Raven #1-6
1-6
鴉夢桜魅姫をアパートに帰らせると、鈴鷺璃音は田道で待機する。湿気を含んだ風が濡れた身体に纏わり付くが、生臭さは吸っている煙草の臭いが殆ど殺してしまっている。
気まぐれな雨雲は夜闇に身を隠しながら流れていく。登場も滞在も存在すらも望まれていないモノは、自己陶酔の勘違いをしたまま真実を知ろうとせずに離れ去っていく。
――滑稽だな、まるで何処かの誰かのようだ。――見えない景色を鼻で笑った璃音は銜えていた煙草を溝に投げ落とす。溜まった水に浮いた吸い殻が塊になった時、自分の物と違う煙草の煙が漂ってくる。
清涼感を含んだ毒草の臭いが濃くなると、暗がりから灰色のスーツを着た男が現れた。
ここから先は
3,555字
¥ 100