Bounty Dog 【清稜風月】265(了)

265

 萌えし国
 暁(あかつき)浴びて
 未来(みく)へ行(ゆ)く
 桜花(おうか)の虫音(むしね)
 永遠(とわ)に響いて

 小枝で作った焚き火が燃えていた。卯月の最終日。日雨の家の庭で、ヒュウラとコノハは2冊の本を焚き火に投げ入れて燃やしていた。
 甘夏と槭樹から受け取った黒い革張り表紙の”元凶本”が、悪臭を放ちながら炭と黒煙になって、天の彼方に上っていく。人工の染料で染められている謎の動物の革から出る煙も、此の島固有種の虫の亜人にとっては吸えば直ぐ死ぬ猛毒になるモノだろう。だが今は注意を払う必要が全く無かった。
 日雨は此の山に、もう居ないから。
 一昨日の夜まで日雨が座っていた縁側の一角に、コノハとヒュウラの荷物が置かれていた。コノハの荷物はキャンプ用品以外はアイドルの音楽ライブに向かう遠征用の装備品のようだったが、誰からも全く反応されない今も延々とされない生殺しに遭っている。サーモンピンク色の巨大トートバッグの中に入った幾十のグッズに貼られている、煌びやかな衣装を身に纏って煌びやかな笑顔をしている人間の男達も、間接的に生殺しに遭って酸素という呼吸に不可欠な物質を含んでいる山の空気以下の、居ても居なくても何時迄も何処かで生きていようが今直ぐに何処かで死のうがどうでも良い、哀れの極みである無価値の存在として扱われていた。
 生殺し男詰め合わせバッグの手前に、布製の犬用玩具が置かれていた。ヒュウラに贈呈して彼には見事に無価値存在にされた、骨の形をしている紐付き音出し人工玩具は、持ち帰らずに狼に再贈呈せずに”彼女”にプレゼントするつもりだった。
 無くした双眼鏡の代わりにはならないだろうが、此の玩具を喜んで遊んでくれていたから。睦月も今は山に居なかった。ヒュウラ達と今朝早く山の頂上で日雨を土墓に埋葬してから、日雨の家に戻らず、何処かに1人で行ってしまって戻ってこなかった。

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