Bounty Dog 【アグダード戦争】260-261

260

 “イシュダヌ”は未だ、奴隷商人兼兵士と兵器撃ち用の奴隷で主に構成した自身の軍の中に、裏切り者が居る事に気付いていなかった。民間人の武装集団である”虫ケラ底辺部隊”に潜り込ませた己の息子の帰りを迎える為に、奴隷商売の決算処理を途中で止めて、あの百合の花と花瓶に覆われた部屋にやってきた。
 瞬間的にイシュダヌは異変に気付く。半分以上倒された花瓶と粉砕した一部の花瓶、蓋が細切れにされて床に散らばっている換気口を茜色の目で驚愕して見つめてから、此の世に1つしか無い『覇者の証』が盗まれている事を知って、更に驚愕した。
 何者かが生きてこの先の通路からやってきて、己の正体を既に知っていて嘲笑うようにメダルを奪い、この場所にやって来ていると気付いた。アグダード最後の勢力長は、先ず脳裏にカスタバラクを暗殺した謎の存在Xを思い浮かべる。実際は共犯のYと新参のPも上階で盛大に暴れているが、イシュダヌは更に兵士の1人から来た通信機からの着信で、事態が思っている以上に深刻になっていると知った。
 耳に当てた阿片の花の絵付きの機械の奥で、兵士の男が酷く慌てながらボスに伝えてくる。
『姫様。ファリダ姫様、大変です!この建物に居る侵入者達もですが、外からも奴らが来ました!!ラドクリフの生き残りが率いている、あの底辺どもの虫ケラ部隊です!!』
 ファリダ・イシュダヌは、3勢力の長の中で1番高飛車だった。戦争のプロの軍人さえ敵とすら思っていなかった『死神の花』の化身は、乾いた笑い声を上げながら自信満々に兵士に向かって機械越しに命令した。
「虫なんか何十匹ブンブン飛んでようが、中のも外のも全部焼いて”処分”しちまいな!!ラドクリフの坊主も遠慮せずに殺しちまえ!!あんな果物商が残した搾り粕のような奴、あたしには全く必要無い!邪魔だ!!」

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