Bounty Dog 【アグダード戦争】139

139

 ミトが荷台からヒュウラの背を見つめる。己の願望だったヘルファイア花火を見せ付ける事は成功したが、馬鹿犬が凄く花火を気に入ってしまった。通行を要望されたラストミッション地点で任務に失敗した際の全滅率は100%だろうと確信する。後悔の念を酷く感じる。
 心の中でヒュウラに話し掛けた。何時もの優しい保護官の甘やかしでは無く、至極厳しい言葉を護衛している身勝手な亜人に向かって呟く。
(ヒュウラ、あなた未だ死にたいの?軍曹さんを守りたいんじゃなかったの?何で真逆の事をするの?)
 文句のように、心の声で喋り続ける。
(何?あのおっさんに撃たれるついでに調教されて、おっさんの犬に成り下がったの?軍曹さんを守るって嘘なの?裏切ったの?あんたの主人はリーダーでしょ。リーダーも裏切ったの?)
 ミトが言う”おっさん”こと故ナスィル・カスタバラクは、超越的に美人過ぎる故に顔を見ると極度に緊張して誰もが窒息してしまう殺傷級の凶悪な呪いを持っていた。彼には幼少時代に出会って死に別れた親友がいたが、ミトも彼と同じく、その呪いが一切効かない何千億人中に1人いるかいないかの超希少種の人間だった。
 ミトにとってカスタバラクは、写真でだけだが本人の姿と顔を知っているものの、人間史上最高の美の頂点なのに自分のタイプでは無いと判断し、『声は格好良かったけど唯の偉そうなおっさん』という認識しか無く、更に実際は彼女の勘違いだが、悍ましい趣味があると思っているので、思い出すのも癪に触るくらい相手が滅茶苦茶大嫌いだった。
 ヒュウラにそんな大嫌いな”ゴミ男”ことカスタバラクのスパイ容疑が掛かる。一方で、ヒュウラはナスィルの犬では勿論無いのにスパイ容疑が掛けられている事にすら気付いていない。
 唯、ヒュウラは好奇心旺盛な性格で、地図の中で実際にどんな所か見たいと思った場所を指していただけだった。それが全部とんでもない所だっただけで、己は何かをする時に詰めが甘いのだと気付いているが、他の存在をどんな存在でも雑に扱う悪癖には気付いて無かった。
 荷台でずっと行われていた死闘を全く見ていないので、皆んなずっと安全で、己が指した場所ではイベントのようなモノが起きる楽しい場所だと心の底から思い込んでいた。
 自分はずっと助手席に座っているだけで、全くもって安全な状態で、多少揺れるがシルフィに度々補助されるので、至極快適なドライブだと思い込んでいた。

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