Bounty Dog 【清稜風月】70

70

 甘夏は、己が薙刀の刃で穴だらけにした天井から突然落ちてきたモノを見て、目を丸くした。モノを暫く眺めていると、女官が1人部屋に入ってくる。
 己が無事である事に安堵してから、女官は口早に邸に侵入していた曲者を捕り逃した事、邸に放たれた火は鎮火させたと告げてきた。報告に律儀に返事をしながら、甘夏は天井から落ちてきた物体を小脇に抱える。物体は煤まみれになっているが、風呂敷で丁寧に包まれている小さな物体だった。
 甘夏は女官に下がるよう指示をして部屋から出すと、風呂敷を畳の上に置いて開いて、橙色の紐で結ばれた簡易な巻物と何かが入っている小さな葛篭を見つめた。葛篭を開けて何かが包まれている竹の皮を開くと、縦に並んだ海苔付き醤油煎餅が10枚程出てくる。
「煎餅?何故(なにゆえ)に……?」
 巻物を開こうとした時に、別の女官が部屋に入ってきた。邸の正門にやって来ている齢の若い猟師の男が息を弾ませながら会合を求めてきていると伝えてくると、甘夏は短い言葉で「応じる」と敬語で返した。

ここから先は

1,790字

¥ 100