Bounty Dog 【アグダード戦争】187-188

187

 ヒシャームが、リングをヒュウラを凝視した。顔は地下牢で初めて会った時と同じように優しく微笑んでいるが、纏っている気配が明らかに違っている。
 まるで食物連鎖の頂点に居る肉食動物が餌の動物を見つけた時のような、強い悍ましい殺気を十字路全体に放っている。”ラドクリフの番犬”は、恐怖で震え出した猫の亜人と、猫に背負われながら何の反応もせずに仏頂面で見つめてくる、不思議な色の目をした狼の亜人に向かって笑顔の仮面を取り去ると、限界まで目を吊り上げた威圧的な表情をしながら黒い指揮棒を握り構えて、早くもなく遅くもない聞き取りやすい速さで言葉を発した。
「ヒュウラ様。リング様。申し訳御座いませんが、此処からは何人も、何の生き物もお通し出来ません」
 ヒュウラは返事しない。仏頂面のまま、何故かキョロキョロ辺りを見回し出した。ヒシャームはヒュウラが隙を突こうとしていると思い、殺気を更に激しく放ちながら言葉を続けた。
「わたくしが断罪フルコースの、最後にお出しする料理で御座います。誠に身勝手で申し訳御座いませんが、わたくしの仇討ちの邪魔故に御二方共に、此処でお亡くなりになって頂きーー」
「カメレオン」
 ヒュウラが口だけ動かして言った。ヒシャームは構えた黒い指揮棒の、掴んでいる腕の力が若干抜ける。突然言われた謎の言葉で呆気に取られて、殺気も若干弱まると、
 今度はヒュウラから殺気が放たれた。どんどん殺気を強くして放ちながら、猫に背負われている狼は、人間の執事に命令した。
「カメレオンを、出せ!!」

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