Bounty Dog【Science.Not,Magic】87

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 『霊』は、死んだ元生き物の魂が此の世で徘徊している『幽霊』では無く、此の星の至る所から湧き出て漂っている”命達の息吹”である。生き物達の生涯を好き勝手に弄り回す『運命』という偶像の無い強大な力でも無く、星と宇宙のあらゆる物質を構成する最小物質『原子』でも無い。
 第六感で感知し、通常は鍛錬を積み重ねて操れるようになる其の摩訶不思議な存在を、此の人間は生まれ付き察知して操れた。”心眼”と腐れ縁の友は呼ぶ超能力を、本人は”まどろこしい”ので超能力だと微塵も想っていない。
 同じ出身地で住む別の人間は『風』と呼ぶ、霊が吹き出す息吹の流れを読み取って、紅志・フウマは3個目の爆弾を見付け出した。機械の部品が犇めき合って入っている机の引き出しの中に仕込まれていた箱型の爆弾を鷲掴みして引っ張り出すなり、割れた通路の窓から勢い良くぶん投げる。3個目の爆弾もビル近くの空中で”たまや”した。旧テムラ社ビルが衝撃波を受けて、微々だが一部が崩壊する。
 最後の爆弾は、手裏剣で斬り壊し過ぎた無機物の瓦礫の中から探す事になった。ビル内を覆う『霊』に行方を尋ねる。
 霊は何も応えなかった。代わりに赤い忍へ意志を伝えた存在は、4年以上バディを組んでいる国際保護組織情報部の永久出張保護官だった。
『おーい!超人!!クレイジー・サイキック・ボンバーファイアー作戦は順調かー!?』
「無論」
『おーおー、そりゃあ良かった。ぶん投げ爆弾が2回弾けたな。ヒュウラがぶん投げたのを合わせたら、イッツ・スリーボンバー!1個爆発しちまってるから、残りは、犬の鳴き声!ワンワンボンバー!!』
 紅志は滑り過ぎて地雷化している親父ギャグを無視した。親父の隣に居る”ワンワン”の声は聞こえない。セグルメントの声を流し聞きしながら、赤い忍は霊の流れを第六感で探った。相変わらず流れは止まってしまっている。
 最後の爆弾の在処が分からなかった。焦りの念が沸々と湧いてきた時、レシーバーの奥から物音が聞こえた。
 霊が、屋上で渦を巻いている。

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