Bounty Dog 【清稜風月】126

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 正確には1体と1人と、無数の”匹”を連れていた。ヒュウラは日雨を背負って、己達を陰から追い掛けてくるコノハの気配を察知しつつ、喧しく鳴きながら堂々と追い掛けてくる虫達を無視して山の中を疾走していた。
 日雨の道案内に従って、山の中腹で方向転換する。海側と反対の方向に数分間走ると、途中で木の太枝に跳ね飛んで、枝から枝へ飛び移りながら目的地へのショートカットをした。
 背後から聞こえてきたキンキン声の「NO」と無数のギーギー鳴き喚く虫の声に、2体の亜人は返事も反応も一切しない。日雨が桃色の振り袖を捲って伸ばした右腕の人差し指で山の一角を差すと、ヒュウラは日雨が指し示した場所に向かって一直線に走った。
 木々を飛び越えるショートカットをもう一度して、目的地に辿り着く。日雨は前方に現れた物体を見て、ヒュウラの背中越しに小さな鼻から溜息を吐いた。
 2体の亜人が見ている場所に、草木に覆われた古(いにしえ)の洞穴があった。13年前に麗音蜻蛉の群れが通り、日雨も通る予定だった、清浄の地から別の清浄の地に繋がっている道だった。

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