Bounty Dog 【アグダード戦争】282-283

282

 イシュダヌ”掃除”チームを結成している5人の人間達が通信会議を終わらせてから、6分が経過していた。イシュダヌが己の長男に飛行機の手配を依頼してから、既に11分も経っている。
 イシュダヌが飛行機に乗って、麻薬奴隷商会本部から脱出してしまうまで、残り時間は9分しかない。
 更にイマームがヒュウラに”5分以内に達成する任務”を指示してから、2分半が経過しようとしていた。ヒュウラの残り時間は、あと2分半しか無い。

 軍曹チームは充分制限時間内に間に合っていた。直ぐにイマームの部屋を見つけ出して、侵入する。イマームの部屋には照明があった。軍曹・シルフィ共に明かりを付けるか一瞬悩んだが、目的物を一刻も早く見付ける為に明かりを付けた。
 イマームに伝えられていた通り、簡易な西洋式のベッドの枕元に30cm程ある大きなピエロ人形が置いていた。
 顔が白くて鼻は真ん丸の真っ赤、目と口に派手なメイクの刺繍がされている、お馴染みのピエロだった。赤と白の水玉模様が描かれた、大きな襟付きの服と帽子を着ている。愛嬌のある惚けた顔をしている、可愛いピエロ人形だった。
 イマームが子供の頃にサーカスで買って貰ったその人形は、持ち主から非常に大切にされているのが分かる、下手糞だが縫い糸が丁寧に施されて繋ぎ直されている修繕跡が身体のあちこちにあった。シルフィが身を乗り出して、ベッドの上からピエロ人形を回収する。古い人形が破けないように、慎重に服の中に手を突っ込んだ。
 人形の持ち主が伝えていた通り、4つ折りにされた便箋が出てきた。1枚だけ入っており、イマームはカスタバラクが己に宛てて書いたメッセージ文の便箋と相手の勢力軍旗のステッカーは、イシュダヌにバレないよう封筒と一緒に密かに処分していた。
 丁寧な説明文付きで書かれた”完全体”の通信妨害電波の張り方が書いた便箋を、床の一角に置かれていた個人宅用の小さなトランポリンの上に広げる。シルフィが保護組織の通信機を取り出して写真を撮り始めると、傍で敵から強奪した鞭を持ちながら腕を組んで立っていた軍曹が、気配を感じて扉側に振り向いた。
 開け放っていた扉の前に、兵士が立っていた。首にピエロ人形を2体付けている。
 人形付きの首飾りを付けている兵士はイマームの兵士で味方だが、軍曹は澄んだ水色の目を大きく吊り上げた。
 彼は直感で、相手に強い違和感を覚えた。

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