Bounty Dog【Science.Not,Magic】81-82

 妄想と思い込みと理想は、現実では真逆になって具現化する。

81

 ーー何度でも言いましょう。蔓延した常識の中で自分達がもう生きられないのなら、生き残る為に常識を根本的に破壊しても良い。生き残る為にです。其れは今も、このような状況になってしまっていても、私の未来永劫変わらない想いです。
 だからでしょうか、あんな事になってしまって。彼も、あんな事に……。ーー

「俺はしがない、機械作りが趣味の漁師。で、コイツは彼の有名な、櫻國の超人・忍者だ」
 セグルメントが念を押して言ってきた。ヒュウラは返事も反応もしない。隣に居る忍者も同じ返し方をした。彼ら以外誰も居ない空間に、セグルメントだけの声が響いていた。
 2人の人間と1体の亜人は、現在『旧』テムラ社ビルを探索していた。社長室らしき小さな執務机と棚、折り畳まれた寝袋が置かれている質素な部屋の横に、社長室よりも広い子供部屋がある。散在している人間が作った子供用の玩具は、殆どが割れたり引き裂かれて破れていた。床と壁に傷だらけの鉄板が張り巡らされており、土嚢のようなマットレスの上に枯れた大きめの葉っぱが敷き詰められたスチール製のセミダブルベッドが、部屋の中央に設置されている。
 全員が、貨物船で出会った虎の亜人を思い出した。テムラ社の社長が飼育している事が明らかだという証拠を見付けたが、写真を1枚も撮らず、皆が目視だけに留めた。
 ハイテクな機械は1台も見当たらない。体験していない存在でも懐かしいと思う、素朴で優しい空間だった。セグルメントは特に居心地の良さを感じる。暫く癒されていたが、任務を思い出させたのは亜人と相棒だった。セグルメントを放置して探索を続けている。
 「待てヒュウラ」「待て超人野郎」と声を掛けながら狼男と忍者の後を追う人間は、エレベーターが無い狭いビルの通路を駆け回っている内に、妙なモノも此のビルから感じた。
 時計の秒針の音が、何処かから重なって聞こえてくる。

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