Bounty Dog 【清稜風月】195-197

195

 死の恐怖は浪漫的で云々かんぬんと”其れ”がイヌナキ城の中庭で踊りながら呟いて人間達を翻弄させていた同時刻、コノハは非常にNOな状態になっていた。
 また日雨の作った料理が謎の創作料理だったのである。朝食として出された今度の料理は見た目は至極YESだが、味は一口食べただけで思い付く限りのあらゆる神に救いを求めるレベルでNOだった。
 世界中の人間達に崇められている世界一のロングセラーでベストセラーの本と共に宗教を作った、遥か古の時代に産まれて生きて死んだ1人の人間の男と、御使いである其の男を此の星の上に降り立たせて活動を見守って死した時に一度復活させて己の存在と強大な力と信仰による聖人への成り方を、御使いの男と仲間達と幾千億人の神父と牧師と修道女と信者達を通じて大勢の人間達に伝えている全人類の父から祈りが始まり、次は人間達が死した時に魂達を膝下に置いて下さり此の世と冥土の終焉時に『最後の審判』を行って聖なる魂を滅亡から救って下さる偶像の無い偉大な神に祈り、コノハのゴッド・オブ・ザ・ワールドツアーは中央大陸下部の牛を乗り物にする強大な神の宗教を巡礼し、人間が神格化した『仏』を崇めている宗教を巡って祈りを捧げまくり、北西大陸上部の島国で宗教が産まれた輪廻転生の神にまで辿り着いた。魔物達が神話に数多く登場する北西大陸の2つの宗教まで思い付いた時点で”魔界から来た魔王と死が嫌いな魔犬”に非常に近い場所まで来たが、コノハのゴッド・オブ・ザ・ワールドツアーはマイ・ゴッド・オブ・ザ・YESイケメン(ヘルプミー)ツアーに変貌した。
 己が約1ヶ月前に櫻國入国永久禁止にした哀れな北東大陸の超人気アイドルグループの中で最も金を貢ぎ……愛をエードに変えて注いだリーダー(彼はメインボーカルなので騒動の主犯格として櫻國に足を踏み入れた瞬間に御用されて斬り捨て御免)から始まり、彼については櫻國へのGOは斬り捨て御免状態にした事はソーリーせずに完全に見殺しにして、直ぐにヘルプミー相手を幾多の激推し男アイドル達に移した。
 オタクは愛を注ぐ推し先の乗り換えが驚愕する程に速い。だが彼女は歴代激推し男達も律儀に覚えていて今も変わらず皆を愛していた。1名見殺しにしているがオタクの聖母は此れまでと現在で愛を注いでいるイケメン男達の顔を思い浮かべて心の中で名を叫ぶ。ヘルプミーを呼び掛ける激推し男達は金の力で愛するアイドル達から、直接愛を注げる身近のイケメン男達に移った。
 職場の別課の現場部隊にいる、情報部から特別枠で来て相手とバディを組んでいるメカニック親父が至極邪魔なエースストライカーに「ヘルプミー」を心の中で3回叫んでから「愛してる」も3回叫び、次は激推し亜人のヒュウラ君に「ノウじゃ無い」を3回叫んで「ヘルプミー」と「愛してる」を同じ回数叫んだ。私のサムライにも「ヘルプミー」と「愛してる」を心中で3回ずつ叫んだ。猟師はフツメンなので無視した。
 腹から痛みと共に変な音が響いてくる。吐き気も感じてコノハは死を覚悟した。最後の抵抗で”お花畑”に行って花摘みという己の内容物の解放をさせて、恥を喪失させて暴れ出してレバーは『大』で捻って、清潔な水で悍ましいモノを全て流してから爽やかなYES状態で九死に一生を得て生き残ってやろうと決める。
 脂汗を掻きながら、魔界のレシピで作った死の飯を提供してきた日雨に”お花畑”の場所を尋ねた時、コノハの腰に付けている通信機が激しく震え出した。仕事は至極真面目な勤務態度である彼女は『応答しなければ』と即座に思ったが”お花畑”に行かないと人を捨てた野生の何かの姿でNOな死を遂げてしまうと確信したので、任務を放棄して通信機を食卓に置き去りにしたまま、フラワーファームとオブラートに包んで呼んだ、命を賭けて挑む決闘場に全力疾走した。

 コノハが此の家にも端の位置にある、人間が住む家という『箱』であれば大抵1つは何処かに設置されている某場所に、命を賭けた孤高の闘いに行ってしまった。1体ぼっちになった日雨は揉み上げのように垂らしている、先をくっ付けた存在の頭の中に溜まっている半生の記憶が己も含めて隅々まで読み取れる2本の赤い触角を揺ら揺ら左右に動かしながら、食卓でコノハが座っていた場所に身代わり人形のように置かれている白銀の携帯機械を眺めた。
 携帯機械がブルブル震えながら、正座をしている己に向かって這い進んでくる。生き物のような面白い動きをする人間の道具を繁々と観察していた虫の亜人は、撫子色の大きな目を大きく見開くと、通信機を拾い上げて耳に当てた。ボタンを押して応答する。
 通信機の使い方を知っている虫の亜人は、機械の奥から声が聞こえてくる前に”電話に出たら最初に話す言葉”を大きな声で元気良く言った。
「むしむーし!!」

ここから先は

2,297字

¥ 100