Bounty Dog【Science.Not,Magic】9
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カイ・ディスペルが倒れている岩の隙間の横を通って、ヒュウラとリングは地面に落ちている羽根を追っていた。羽根は大型の鳥のモノで、1枚ずつ縦に並んで置かれている。あからさまに分かりやすい罠だった。
あからさまに分かりやすい罠だが、2体の亜人は共に何も考えずに追い続けていた。片方は本当に何も考えていない。もう片方は、必要を感じなかったのでワザと何も考えていなかった。
『あからさまに分かりやすい罠ね』
人間の保護官が、亜人達の代わりに感想を口に出した。シルフィ・コルクラートがヒュウラの首輪の奥から長めの溜息を吐く。珍味ハンターが居ない地に居る相手が首を左右に振ったのか、空気を掻いたような音も聞こえてくる。
暫く静かになってから、鋭い金属音がヒュウラの首の前方から聞こえた。アンテナ付き首輪型発信機に装着されている誘導者(ナビゲーター)用の小型カメラが起動すると、シルフィが再び口を開いた。
『目印の先に大物が置かれてるわ。ええ……あからさまに分かりやすい罠』
仏頂面のヒュウラと、退屈そうに眠気眼になったリングが横並びになって前を見る。背後からグルルル、グルルル、何かが小さく唸っているような音も聞こえてきた。
猫の亜人と同様に生理的にグルルル頻繁に唸る黒縁眼鏡の魔犬は、ヒュウラの頭の中から居なくなったままである。狼と猫の亜人は前だけに集中した。眼前に、あからさまに分かりやすい罠が設置されていた。
鳥の羽根の道標の最奥に、鉄製の小さな檻が置かれている。中に鮫の亜人が1体入っていた。
探していた保護対象(ターゲット)である、逃亡中の陸鮫族だった。鮫は鉄格子に齧り付きながら黒真珠のような瞼と瞳の無い目を向けて、人間の幼児のような甘え声で話し掛けてきた。
「ガジガジ、ガジガジ。お久しぶりー。固いディナーと柔らかいディナー」
綱が2本、鉄格子の一部に巻き付いていた。左右に1本ずつ伸びている。先は岩の陰に其々隠れている。
右側の綱は、小波のように端から端に向かって常に上下に揺れていた。左側は微動だにせず横に真っ直ぐ伸びている。右側からは罵声のような音も頻繁に聞こえてくる。左は極めて静かだった。
猫の亜人の目が吊り上がる。檻に入っている鮫に向かってニャーと一鳴きすると、右側から更に声が聞こえてきた。マトモに聞いてしまうと耳が腐る、酷い内容の言葉の羅列である。
猫女が鮫男に向かってブニャーと大声で鳴いた。左側は全く動かない。左の岩陰を無表情で凝視していた狼男が正面に顔を向けると、鮫が鉄格子から口を離して話してきた。
「大きくなってるねえ、固いディナー。量が増えてるよお、わーい。柔らかいディナーも元気そうで、美味しそう。ランチとモーニングもある。でもブランチは無し」
耳の近くまで裂けた巨大な口を大きく開閉した。噛み合わさった歯と顎がガチガチ、ガクガク音を鳴らすと、鋸のような歯がビッシリ生えている凶悪な口の内部で、鉄格子を齧って削れた歯が、歯茎の中から新しく生えてきた歯と入れ替わる。
新しい歯に押し出されて抜けた古い歯を床に散らし落とした鮫男が、口の両端を上げて口だけでニッコリ笑う。瞼の無い黒い目は、不気味に獲物2体を見つめていた。膝を軽く曲げて、鮫がのんびりと言ってきた。
「残さず全部1人で食べるんだあ。食べたら、デザートを探しに行くんだあ」
右側の綱が大きく揺れた。右側の岩陰に潜んでいる、待機中ずっと黙れなかった鳥の亜人が大声で叫んだ。
「ハッ!ハハハハッハハハッハハハッ!ハッ!!喰らえ!お鮫を解放する!!」
律儀に終始黙っていた方が持っていた、左側の綱が強く引っ張られる。フェイントの右側から綱が飛び出て、檻の前に落ちると檻が勢い良く開いた。解放された”お鮫”が檻の出入り口から飛び出てくる。鮫の亜人が大きく口を開けて”固い方のディナー”の顔目掛けて飛び掛かると、
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