Bounty Dog 【アグダード戦争】69

69

 2階まで梯子で降りてきたカスタバラクは、後を付いてくるガスマスクを被った護衛兵達にカードキーで操作出来る専用エレベーターを使うよう説得されるが、全ての言葉を無視した。爆弾を体に巻いた警備兵が群がっている場所に歩み寄ると、突然現れた本物の大将に吃驚しながら慌てて道を開けた兵達の間を通り過ぎて、ヒュウラが床に大穴を開けた仮眠室の内部を確認した。
 天井に貼り付いた悍ましいモノと床の穴を見るなり、鶯色の目が吊り上がる。心労で濁った瞳に鮮明さが戻ると、獲物を見付けた猛獣のような鋭さを纏った。
 軍帽を深々と被っている大将は殺傷級の顔が鮮明に見えないが、己の姿を見ている者達の呼吸する為に必要な空気を、それでも根こそぎ奪っていた。ガスマスクを付けていない兵が数人窒息して倒れる。護衛兵はチアノーゼを起こしている施設の警備兵の1人に予備のガスマスクを被せると、事情を尋ねた。
 施設の兵から話を聞き、護衛兵はカスタバラクの横に伏せて、謙りながら伝える。
「旦那様、御安心を。侵入者では無く、警備をサボっていた愚か者の暴発だそうです」
 カスタバラクは床の穴から目を離さなかった。護衛兵は続ける。
「そもそもこんな大穴、”人間が”爆弾も無く開けられる訳が無いです。それに仮に亜人のコルドウが侵入していたとしても、とっくに発見されているでしょう。此処はコルドウの対策を十二分にしていますから」
 カスタバラクは返事も反応もしなかった。踵を返すと、足早に部屋を出て、同じ階の北のエリアに向かった。

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