Bounty Dog 【アグダード戦争】56-58
56
『箱』の内部は更に不気味だった。照明が異常に明るく、まるでコルドウを侵入させないようにしているようだった。
コルドウが入った大きな壺の口にヒュウラの赤い腰布が被さっており、光が壺の中に入らないようにされている。コルドウは、自分達の種は障害物を擦り抜ける超音波が出せて、土の中や囲いがあっても、少しぼんやりするが地上や囲いの外の空間を見る事が出来ると、壺を抱えながら歩くヒュウラに能力を教えてから、呟き始めた。
「服屋は、テナントの入れ替わりが激しいでやんす。ショッピングモールの服屋はそれぞれ小さな国で、隣の服屋も、向かいの服屋も敵国でござんす。毎日生き残る為の戦争してるでそうろう。でも呼び込みの『ゆっくりご覧になってくださいませ』、全部同じ人間が言ってるように聞こえるでやんす」
人間の服屋についての情報も伝えてくる。コルドウは小さく溜息を吐いてから、更に服屋について呟いた。
「客を集める為に差別化が必要でやんす。だから突然の予告無しのタイムセールで、全品9割5分引きにするでやんす。そうしたら伝説になれるでそうろう。イヤアアアア!安いいいいい!!ってビックリして倒れた客は、弱いやっちゃだから、箒で掃いてお帰り頂くでござんす。服は身を守る鎧でやんす。強いやっちゃだけ、お安く買えるものでそうろう」
ヒュウラは返事も反応もせずに、仏頂面のまま通路を歩き続けた。途中で足を止めて、壁に貼っている2つの物体を見つめながら、壺を己の横に置く。コルドウは超音波を出した。壺の外の景色を把握すると、ヒュウラが見ている物体について呟いた。
「これ、人間の国の旗でやんす。それと横のは、この箱の中を描いた絵みたいでやんすね。迷子にならないように、よーく覚えるでそうろう」
人間の国の旗は、血のように赤黒い地の上に、金色と銀色で紋章が描かれていた。アグダードの外にある、とある先進国の軍旗をアレンジしているものであり、元には『永遠の命』の意味を込めて描かれている月桂樹の葉が、この旗は命を奪い取るダイナマイトの絵に変わっていた。
軍旗にはアグダードの文字も書かれていた。ヒュウラもコルドウも読めないが、『アグダード新王国』と書いていた。
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