Bounty Dog 【アグダード戦争】212-213

212

 その日の夜は”民間お掃除部隊”も『世界生物保護連合』3班・亜人課の保護官達も、亜人2体も外の土の中に居るミディール達を含めたコルドウの群れも、楽しい夢を見ながら寝た。
 軍曹は家族と執事と預かりペットのカメレオンを世話していた子供の頃の夢を、ヒュウラは海苔付き醤油煎餅を食べながらデルタとミトとリングと一緒に保護組織亜人課支部のミトの部屋でテレビを見ている夢を見た。
 シルフィもデルタと実家の飼い犬の世話をしている夢を見る。リングは中央大陸で守り続けていた己の群れと過ごしている夢。朱色目は奴隷飼いの屋敷の近くにあった小さな洞穴で夜な夜な食べ物と本を持ってやって来てくれる、奴隷の父親と過ごしていた頃の夢を見た。
 ミトは支部の隣にある商業施設が充実している国のデパートで新発売の可愛過ぎるコスメの争奪戦に奮闘している夢を見て、ミディールは、己は一度も実物を見た事は無いが物凄く勉強したのでどんな所なのか分かる、外国のショッピングモールの服屋が全品95%引きのぶっ飛びタイムセールをしているのに吃驚しながら、壺を頭から被って光対策をして、己に人間の服と服屋とお安いセールの魅力を教えてくれたアルバード大佐と一緒にキャーキャーあぎゃあぎゃ喜んでいる夢を見た。
 イシュダヌの刺客容疑が掛けられて牢屋に閉じ込められた戯け癖のある赤目の黒布も、仕方が無いので寝た。幸い暖かい寝具はくれたので、ほぼ裸にされた状態で寒い砂漠地帯の夜を過ごしても、風邪を引かずに済んだ。

 その日は皆んな、それぞれの思い出の夢を見ながら過ごした。唯、1人だけ深夜に夢を中断して、こっそりと起きてくる。
 花弁は白いが中央が黒い不気味な花の紋章が描かれた通信機を取り出す。”赤系”の目をした人間の男が機械の通話ボタンを押して耳に当てると、寝ている他の人間と亜人達に聞こえないように、小さな声で何処かに連絡した。

「ご連絡が大変遅くなってしまいました。申し訳御座いません。ここ数週間立て込んでいましたので。はい……はい、そうです。ファヴィヴァバも死にました。この部隊の隊長が殺しましたよ。死体は何処にあるかは知りませんけど、ラドクリフの屋敷の燃え残りと一緒に、黒焦げになってるんじゃ無いでしょうかね?
 カスタバラクの方は以前報告しましたが、全く知らない別の犯人です。其方も未だに見つかっていません。本当に謎ですね。まあ其方に関しては、極上の”種”だった少佐様の大量に居る残党兵達に捜索も処分も任せておけば良いと思いますが。……大丈夫、大丈夫ですって。珍しいですね、あなたが怯えているなんて。
 ……ふふ、ですね。何方もあなたに比べたら、全く大した事ない雑魚です。はい……はい。分かっています。必ずこの大事な試験は合格しますから。
 信頼は既に充分過ぎる程、得ています。この虫ケラ部隊のガビー隊長の首を持って帰りますよ。私が、あなたの元に」

 イシュダヌの刺客は”民間お掃除部隊”に実際に潜伏していた。唯、この刺客は慎重に、極めて慎重に任務を遂行している。
 カスタバラクが放った刺客のヘルマンダのように、単純に隊長が1人になった時に襲うのでは無い。勢力に歯向かう罰として、隊長の信頼を上げられるだけ上げてから突然裏切って絶望の底に叩き落としてから殺せと、主のイシュダヌに命令されていた。

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