Bounty Dog 【清稜風月】12-13
12
ヒュウラの予想は的中していた。あの癖が余りにも強過ぎる人間の黒髪ツインテール女、コノハ・スーヴェリア・E・サクラダ保護官は、突然山の彼方此方から上った何かが腐敗したような臭いがする煙を見つめながら、通信機で『世界生物保護連合』3班・亜人課支部にミト達と無事に到着している、上司のシルフィ・コルクラート保護官と連絡をしていた。
シルフィが機械越しに、ヒュウラ護衛の為に櫻國に派遣させている保護官に向かって報告に対する返事をしてくる。
『もう1人いるっていう人間らしき男の子が何者かは分からないけど、女の子の方は麗音蜻蛉で間違い無いわ。Sランク『超希少種』の亜人。正しく可愛い妖精みたいな見た目をしていて、4枚の羽に合計8億エードの生物素材価値を密猟者達から付けられてる』
コノハは鼻を指で摘みながら上司の言葉に耳を傾けていた。煙が人間でも耐え難い程に臭かった。非常に清浄化された環境でしか生きられない虫の亜人を殺す為の罠を、密猟者が平気で仕掛けてきている。
“マイダーリン”こと己の保護対象である狼の亜人の事も非常に心配だった。ヒュウラは自衛が充分出来るが、シルフィも密猟者達が片目5億エードの生物素材を持つヒュウラも狩り対象に加えられていると予測していた。
シルフィは、コノハに指示をする。
『最優先保護対象”ターゲット”は麗音蜻蛉。あの子は汚染された何かを身体に取り込んでしまうだけで死んじゃうわ。次はヒュウラ。あの子は凶悪キックで密猟者を自分で倒せるけど、麗音蜻蛉に影響が出ないように、人間の男の子のフォローを影でしなさい。きっとその子が麗音蜻蛉の保護担当者よ』
「YES、リーダー。あの男子も大変ほのぼの系でして、私のストライクゾーン範囲内です」
謎の言葉を加えに加えてから通信機を切ろうとしたコノハは、溜息を吐いたシルフィの後ろで起こっている騒動を音で察知した。
幼い子供が出す、甲高い喚き声が延々と聞こえてくる。爆発音も響いてくる。あの一命を取り留めた危険な亜人・ローグが”原子操作術”という不思議な術を使って暴れているようだ。
『予想以上に完治が早かった。だけど今は完全に管理下に置いているから大丈夫。何故かローグが元々使っていたモノじゃ無い、北東大陸の大学教授が発明した物体を粉末化させる術もこの子は使えていたけど、特定の素材でしか発動させられないのが幸いよ』
前上司と大勢の同僚、世界中の大勢の人間を殺した幼い鼠が喚いている。シルフィは今度は長めの溜息を吐くと、コノハに向かって再び口を開いた。
『相変わらず”魔法使い鼠”ローグは危険な存在だけど、以前程の脅威はもう無いわ。ヒュウラの事をチラつかせると酷く怯えるようになってる。リングも、若干だけど姿を見せると怯えるしね』
鼠が急に喚かなくなった。シルフィが言った”ヒュウラ”という言葉に反応したらしい。
最凶鼠の弱点になった狼の亜人が虫の亜人をお姫様抱っこして家から出てくる様子を見つめていると、シルフィはコノハに指示を与えた。
『此方は大丈夫。其方は任せたわ。ヒュウラの亜人専属特別保護官としてのポストが確立するまで、最凶の亜人を倒して最凶地帯の英雄を保護した超希少種の護衛を宜しくね。サクラダ』
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