Bounty Dog 【アグダード戦争】209

209

 ヒュウラよりも先に怪我が完治した軍曹は、今度は己が毎日のように愛する狼の亜人の見舞いに行った。軍曹が見舞いに来る度にベッドの中で上半身を起こして迎えたヒュウラは、会話に併せてほぼ必ず脳震盪を起こす、あの力が強過ぎるワシワシを頭にされた。
 毎日毎日ワシワシされては、毎日毎日脳震盪を起こしてヒュウラが気絶するので、彼の保護担当者のシルフィが軍曹に規制を掛けた。此方も順調に怪我が回復していき、足のリハビリに使う松葉杖が2本から1本になったある日、
 ヒュウラを背中から抱えてベッドの上で頭を豪快にワシワシしている軍曹に、部屋に居たシルフィが言った。
「軍曹。貴方が言う、通称『ワシワシ』。私が認識している正式名称は『頭鷲掴み撫で振り回し』は、1日1回3分までだって言ったわよ」
「俺の中では、未だ1分だぞ」
 サッパリと時計を無視する。シルフィは着ている紺色のレディーススーツの短いスカートから小さな金色の懐中時計を取り出すと、アグダード地帯の現在時刻に合わせた時計の長い針と短い針が示している時間を確認しながら呟いた。
「5分以上経ってるわ。また脳震盪を起こしちゃう」
 案の定、ヒュウラは今日も脳震盪を起こして前のめりに倒れた。部屋に入ってきたリングが、大きな声で鳴き声を上げて軍曹とシルフィに挨拶する。気絶しているヒュウラにも相手は聞ける状態では無いが大きな鳴き声で挨拶すると、ヒュウラを背中越しに見下ろしている軍曹に、一言鳴いてから話し掛けた。
「ニャー。軍曹、ニャー、ワシワシ。ニャー、ワシワシ」
「ん?テメエもワシワシされてえのか?猫。良いぞー」
 軍曹から引き剥がされてシルフィに保護されたヒュウラと交代するように、リングが軍曹の前に座る。狼のベッドを横取りしたようになっている人間の男が、猫の亜人のポニーテールにしている長い金髪の頭頂部を鷲掴みにした。
「ニャニャー!」
 リングは愛嬌のある橙色の目をキラキラ輝かせて、大きな鳴き声を上げた。ワシワシを初体験する。軍曹が猫にワシワシを開始すると、
 猫は1分も経たずに脳震盪を起こして、前のめりに倒れた。

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